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最果てと獣、そして青

2022/4/7〜17に東京で2回目、トータル6回目の個展を開催します。
「Nīla tendua」は今回の東京個展のメインテーマです。

うつくしい青を雪のように降り積もらせてインドヒョウとユキヒョウを描きました。

この絵をどのような事を感じて・考えて制作したかや、制作の経緯など、解説のようなものを綴っていきます。

↓開催情報

【東京個展madeblue展6】
2022/4/7〜17
HOW HOUSE WEST gallery-B
(東京都台東区谷中3-4-7)


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新作「Nīla tendua」
(サイズ:A1サイズ(841mm×594mm))

遠き地へ想い馳せ

前回2021年11月の広島個展のメインテーマの主題のひとつは「最果て」だったのですが、今回も同じく主題のひとつを「最果て」としています。

仕事で定期的に南仏に個人で仕入れに行かれる老齢の知人が、年始の挨拶でプロヴァンスがどんどん遠くなっていくようだと仰っていて、その一言がずっと頭から離れない冬でした。

コロナ蔓延で、遠くへ旅立てず長く自由のない日々のなか。自由を渇望し、不自由を受け入れがたくとも否応がなく日常として侵食してくる"理不尽"に適応していく精神。
そういう心で日々制作する事を避けられないのなら。ひとつひとつ己のなかの「最果て」を探して訪ねてみるのも良いのかもしれない。そうして描いた絵です。

私が思う最果てのひとつにインドがあります。
今回描いた"最果て"はインド、特にヒマラヤです。

知りたいと願う、分からないという事を知る、繋げていく

タイトルの「नील तेंदुआ -Nīla tendua-」は青きヒョウという意味のヒンディー語です(正確にはニーラはサンスクリット語)

数年前から、インドの自然環境の多彩さとそこに暮らす数多くの生き物たちの多様な様に惹かれ興味を持ってきました。興味を持つ事はいつでも私の創作の起点で、その興味と関心のままにインドの野生動物の作品はいままで他にもいくつか制作しています。
そうして、インドの自然にあれこれと触れているうちに、いつの間にか古代インド神話に興味を持ち、自然環境として関心があったヒマラヤに霊山としての側面から興味を持ち(元々大学で民俗学をすこし齧っていた事もあり、こういったものへの興味も強いのです)、といった変遷を辿って、コロナで家に押し込められながらも世界を広げてきました。

生き物を愛して動物図鑑に齧り付き、人間に興味を持つ事がすくなく、代わりに人間のつくり出した文化——人の手で創作されたもの・物語——には強い興味を持つという子供をそのまま裡に抱えて大人と呼ばれる年齢になっているのが私という人間で、ひとと関わる・ひとに興味を持つには、まずそのひとの持つ文化に興味を持つというプロセスが必要で、そうやっていままで世界と関わってきました。そのスタンスを創作にも反映させています。

一年以上前から、インドをサブテーマにした、青を使ったインドヒョウとユキヒョウの絵を描こうとぼんやり思って過ごしていました。
でも、どういうかたちでアウトプットするか。資料を揃え、この絵の為に画材を試していつでも着手できるよう用意しつつも、それが決まらず時間だけが過ぎ、気付けば個展開催までの日数も迫ってきていました。
この絵を個展のメインテーマに据える事だけは決めていたので、なんとか完成させたい。何が引っ掛かっていたか。勉強不足である事。その一点です。
好奇心が強い方で、同時並行で勉強している事柄が沢山あり、そのくせ特定の事柄に対する関心だけが強くて、知識の偏りが大きい。勉強途中の、いま描ける最大のものがこれです!といった姿勢で常にいられない。
その時描ける状態で、描く。足りないと感じていても、いつか追いつけると信じて、いまはとりあえず走り出す。いつもいつも踏ん切りがつくまでにとても時間がかかります。
次に持ち越していく。繋げていく。
拙くも、今後も沢山の事を知っていきたい・描きたいという願いも込めて今回も制作しました。

“大きい絵”という挑戦

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(サイズ感の参考までに。A1はA4の8倍です)

私のなかで“でかい四角形”といって、パッと大体の大きさが想像できる最大のサイズはA1サイズです。

兼ねてより私は“大きい絵”というものを描くのが苦手でして、一番得意なサイズはハガキ〜A4サイズくらい。すっと視界にも手にも収まるサイズが、ひとつの世界を構築するのに一番無理のない大きさです。
なので2017年、大学の卒業制作で描いたS40号(100cm×100cm)の作品の制作の際は文字通り寿命と身が削れる労力と身体的負担を伴いました。

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「Fanyasy-A story that colors everyday life-」
2017年作 / S40号(100cm×100cm)
この絵の簡単な解説はこちら
この作品の解説もいつかちゃんと書きます。

卒業制作以外だと、数年前に依頼でA1サイズの原画を制作した事とイベントで壁画を制作したくらいで、その後は大きくてもせいぜいA3サイズや四つ切りサイズ程度の絵を描くばかりで、それらのサイズでも制作中かなり大変な思いをしました。

単に描画面積が広いから苦手なのかというとそういう問題ではなく、私自身の知覚に根差した問題でして、体質的に私は広い範囲を俯瞰的に見る事がとても苦手なのです。
フルスクリーンの視界で生きていない感じ、という言い方が一番近いかもしれません。常に虫眼鏡で世界を見ているイメージです。ぼやっと全体を見る事は難しく、私にとって世界とは、常にごく狭い一点の視点から外に広がっていくものです。

なので、今回“大きい絵”に挑戦する事は実はとても大変でした。
描いてる絵によっては、描く工程でしばしば生存の為の栄養やカロリーを取られている事があります。
この絵の制作の為に体重は数kg落ちたし色々欠乏して地爪がボロボロになりました。文字通り、絵描きは絵に精魂を込めて描いています。

息も絶え絶えに完成させた、身体的に余裕のない制作になりましたが、どの絵を完成させた時にも感じる「描いて良かったな」という気持ちを持てる絵になりました。
一枚一枚そのときの最高の絵が描けてるかどうかは分かりませんが、筆を執るときはいつでも、良い絵が描けたなと思いながら日々生きています。

またひとつ創作のハードルをひとつ越えられて、この絵も次の創作に繋がっていく一枚になってくれました。
いつかもっと大きい画面にも描けるようになりたい気持ちも込めて、ご覧くださる方々の前に送り出したいと思います。

青を使うこと、実際の制作について

青は深い水の色。天高く晴れた空の色。明け方に一瞬世界を染める色。遠い景色の果ての色。野生に生きる動物にとっても特別な色のひとつです。だから、私の創作にとっても特別です。オリジナルブランドmade blueの名前の由来でもあります。
なので青で描く、青を使うというのは、私にとって特別な行いなのです。
原点回帰というか、今回の制作は自分にとっての青とは何かを思い出しながら描いていた側面もありました。

動画は実際に描いている時の視界に近い状態で撮影しました。
(iPhoneを胴体に固定して撮影した為、画面が少しゆらゆらします)

水彩で画面をつくる→水彩でヒョウのシルエットを描き出す→鉛筆で細かい描写→ひたすら水彩→インクと鉛筆で細かい描写→ひたすら水彩→完成!
といった手順で描いてます。

青を複雑に使用している事や、微細な偏光ラメやシルバーの絵の具を織り交ぜて使用している為、見る角度や、直に原画を見る場合とデータをディスプレイ上で見るか印刷したものを見るかによっても色味の印象がかなり変わる絵です。
(動画は照明の関係で暗めに写っています)

私の生き物を描くときのポリシーとして目先のリアルっぽさでは絶対に描きたくないというのがありまして、特に今回は大きめの画面に大きくどんと描く構成だったので普段よりも”本当の意味で精緻に描く事”を意識しました。

その動物をその動物たらしめる要素を描く事。何時間も動物園のヒョウの展示の前に居座って、終いには当のヒョウにジロジロ見られていた甲斐がありました。
ヒョウと一口に行っても、亜種間で大きさ等特徴が違ったりするので実際に直が取材できたアムールヒョウをよく観察して、今回描きたかったインドヒョウとの身体的特徴との差異を資料で埋めて制作しました。
いつも、描きたい動物が実際に観察できない場合は、なるべくその動物と種類の近い動物を直に観察しに行って制作するようにしています。
(ユキヒョウについては、コロナ前に他県の動物園で長い時間観察していたのでラッキーでした)
実際に観察して、収集した図鑑や書籍、写真集、映像資料などの資料をたくさん読み込んで蓄積させたものをアウトプットしています。

毛並みやの斑紋の表現の為に数ヶ月筆を試行錯誤して、普段使っている水彩筆や油彩筆のほか、今回はわら筆やわら刷毛、絵画用のものではありませんがミルブラシなども使用しています。

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作者の思考の足跡を追って作品をご鑑賞いただくことも楽しいかなと思い、色々と書いてみました。

活き活きとして迫力のある良い絵になったので、是非原画をご覧いただければ嬉しいです!


【東京個展madeblue展6】
2022/4/7〜17
HOW HOUSE WEST gallery-B
(東京都台東区谷中3-4-7)

↓開催情報をまとめています。

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