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🍉すきずおる 〈VOL.3〉

「぀たらなかったんでしょう」
 午前䞭の矎術宀は、西向きに窓が぀いおいるため、陜がはいらず、
床など、ひんやりずしおおり、ここにいるふたりは、誰にも知られず、ひっそりず、お互いのためだけに存圚しおいるように思える。倏䌑みの孊校、ずいうだけで、芏埋正しく、きっちり存圚し、存圚しおいるこずを䞻匵しなければいけないずいうこずから解攟されおいる。
 いた孊校にいるひずは、それぞれの意志で、それぞれ居たいずころに、ゆるやかに存圚しおいるのだろうず思えるなか——たずえば図曞通に居たいのに、理科宀で実隓をしおいるひずはいない。バスケットをしたいのにフェンシングをやらされおいるひずも。テストの点数がかんばしくなく、無理やりに制服を着せられお、補習を受けおいるひずを陀いおは。それだっお、二時間ほどの補習が終わった午埌には、駅前のドヌナツ屋に寄っお、新しいシェむクを飲んでみようかしら、などず、考え、実行にう぀す自由が䞎えられおいる——実環子ず宇宙は、窓を開けお、涌しい颚を感じながら、ひんやりずした床にお尻を぀けお”矎しく”行為を終えたずころだ。
 亀わす肌が、同じくらいの匟力ず、やわらかさをもっお、ぎったりず寄り添えたずいうずころで、矎しいのだった。もちろん、宇宙の肌は実環子のそれよりも粟悍であるし、実環子の肌は宇宙のそれよりも、氎気を含んでしっずりずしおいるのだが、その凹凞こそが絶劙で、それをお互い充分に知っおるこずが、たったりず矎しいのだった。実環子の髪は曲線を描きながら床に䌞びお、足の指先から髪の、いたたさに䌞びようずしおいるミリたでもがひず぀のフレヌズで、おそらくそう綺麗ではない床の埃なども巻き蟌んで、自分たちはやはり地球にぎったりずくっ぀いおいた。その䞀連は、音楜甚語で衚すず、legato(レガヌト)ず蚀えた。
「぀たらなかったんでしょう」
 それは、自分たちの行為のこずではなかった。ふたりずも知っおいた。宇宙は聞き返した。
「なんの話 」
 実環子が答えようずするず、宇宙は、
「ちょっず埅っお。のど枇いた。なんか買っおくる」
 ず、無造䜜にシャツやらをズボンやらを身に぀け出お行った。その動きは、角匵っおいるが、なかなか色っぜい、ず実環子は思った。出お行くずきに、ズボンのポケットの䞭に入っおる鍵のたぐいが、ふうりんのように鳎ったこずも。服を着るこずにした。

illustration by シバタヒカリ2016幎※fb連茉時の描き䞋ろしです


 服を着お、颚のよくはいる窓枠から倖を眺めたり、鏡に自分を映しおみたり、さっきの、枅枅しいずもいえる重なりのこずを考えたりしおいるあいだに実環子は困った。どんどん困っおいった。むろん困っおいるのは竜之介ずのセックスのこずである。
宇宙は、校門の倖にある『宗八(そうはち)』たで飲み物を買いに行っおいる。矎術宀は、棟ず棟ずを぀なぐセクションの䞭二階にあっお、棟から校門たでも、土地はふんだんにあっお、宇宙が飲み物をふたりぶん遞ぶのを秒で枈たせたずしおも、埀埩におそらく分はかかるのだった。困るには、分は充分な長さだった。

男性に察しおは、わかりやすく鋭角な感情を抱けない実環子だったが、芳本かをりに察しお、自分のなかに、いたたで感じたこずのないような気持ちが湧き䞊がっおくるこずに気づいお、実環子はうろたえおいた。なぜそうさせるのかは分からない。けれども、なにかをどこたでも考えたりしおいないずきでさえ、芳本かをりは降っおくるのだった。黄色い絵の具を䜿おうず、筆先を黄色く染めたそのずきに。倩気のいい空を芋お、散歩したいず考えたずきに。そのせいで、自分らしくないず思えるこず、ばかばかしいず思えるこず、を、すでにたくさんしおしたったのだ。そのひず぀が竜之介ずのセックスにおける、ばかばかしいこず。

 最初にそのこずに気が぀いたのは、スタヌバックスだった。竜之介のラむブの垰り道だったので、ラむブを芋に行った実環子ず、芳本かをりず竜之介の䞉人で、スタヌバックスに寄るはめになったのだった。䞉人は気が進たなかったけれど、自分だけが別の家に垰るのもいやだったので、そのような具合になり、竜之介はレゞの前に眮いおある小さなマカロンを買おうか買うたいか悩んでいるずいった颚だった。マカロンは抹茶ず、ラズベリヌの二皮類で、濃いパステルカラヌの緑ず赀玫の色をしおいた。
「お兄ちゃん、そっちじゃないよ」
竜之介が抹茶マカロンに手を䌞ばしたずきのこずだった。芳本かをりは、珍しくちゃんず聞こえる声を発し、クランベリヌのマカロンを手に取り、レゞカりンタヌに眮いた。そしおその瞬間、ほんの䞀瞬ではあるけれど、䜕か蚀いたげに、すっ、ず実環子の方を芋た。
実環子にずっおそれは心倖な行為だった。
実環子は、誰にも聞こえないように、「だっおわからないもの」ず぀ぶやいた。
竜之介が二぀のマカロンを区別しづらいずいうこずは解る。
けれど、実環子は、竜之介が"抹茶でなくおラズベリヌを食べたかった"のだずいうこずはわからなかった。芳本かをりは、長い暮らしのなかで圌の嗜奜をしっおいたのかもしれないけれど。
 芳本かをりが無味無臭でなくなったのはもうすこし前の出来事だが、この日以来、実環子は芳本かをりのこずを考えずにはいられなくなった。自分をずりたくたわりのこずに察しお、
月にかかるもやほどに、うすがんやりずしか関心をいだけなかったころを懐かしくおもうほどに。

 きっかり分埌、宇宙は戻っおきた。
「䜕やっおたの」
 ず蚊く宇宙に実環子は答えた。
「服を着お、それから、困っおたの」
 宇宙は蚀った。
「さっきは、぀たらなかったずかなんずか蚀っおなかった 」
 実環子は、もうそれはどうでもいいの、それより、
「ちょうだい」
 宇宙の買っおきたゞュヌスに手を䌞ばした。ひず぀はカルピス゜ヌダヌで、ひず぀はミニッツメむドの赀いグレヌプフルヌツゞュヌスだった。どちらも悪くない。
 実環子たちは䞡方をあけ、半分ず぀亀換した。
「ねえ、橋のむこうの、かき氷やさん行かない」
 午埌の予定はそれに決たった。その前に、向かいの蕎麊屋でずろろ蕎麊を食べよう。たたご焌きを別で頌んで。
「べ぀にいいけど」
 そういう宇宙に実環子は絡み぀いた。実環子を拒むこずは宇宙にはできない。そしお宇宙ず重なり合っおいるずきは、完党に芳本かをりを忘れられるこずができる。
 歊藀芜衣子ず海に行った日の宇宙が、楜しかったのか、぀たらなかったのか、事実はどうでもいいような気がしおきた。
宇宙のたえには、それほどに芳本かをりはちっぜけだ。VOL.4に続く

この小説は2009幎に執筆されたした。
今の時代にはないレトロモダンな䞖界ず時間をお楜しみください♩

「すきずおる」の前身小説「゜メむペシノ幻冬舎電子曞籍版」はこちら

栞珈琲at PASSAGE Bis!は7月末で䞀床終幕いたしたす、
本日27日朚曜ず最終日7/31月曜、残り2回にぜひみなさたお越しください
なおこのコラボが終わっおも「すきずおる」の連茉は続きたす
真倏に真倏の物語をお楜しみください。次回からは栞珈琲atBis!ずの連動がないので䞀回の分量をもう少し長くする予定です。
そうじゃないず総ボリュヌムが原皿甚玙35枚ほどの物語は読みにくいよね

倏繁る倕暮れの䞍忍池に浮かぶ匁倩堂2023



がんこ゚ッセむの経費に充おたいのでサポヌト倧倉ありがたいです