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映画「KUKAI ~美しき王妃の謎~」

あらまっ、空海の映画だと思って行ったら……まぁ空海の映画では……なかったね(歯切れ悪し)。あの空海を染谷将太が演じる!ということに食いついて行ったけどさ、開始10分くらいで流れてきたタイトルテロップを見たら『美しき王妃の謎』とあった。「あっちゃー、こりゃあかん」と思ったけれど時すでに遅し。2時間半くらいの魔境に叩き落されたました。30分くらいでもう飽きた。帰りたい。お尻ムズムズ。

見た人物として、ひと言忠告しておきたいのは「空海のことが知りたい」「お大師様の話なら」とか思っている人は観に行かないほうが良いということです。まぁ私のようなミーハーではなく、本気の人たちは誤解しないと思いますが…。私は染谷将太に釣られたうっかりミーハー野郎です。

ただ、私がなぜ「空海」だから観に行かなくっちゃ!と思ったかをお伝えさせてください。映画の内容は公式サイトを見てね♥かわいい猫が出てくるよ!

さて、その答えは、、、、、、おかざき真里先生の「阿吽」を読んでいるからです!! マンガなんですが、これがホントーーーーーに素晴らしいのです。

ヤバ面白いです。ご本人もあとがきかなんかで書いておられましたが、「空海や最澄をマンガにするなんてアホのやることや」「私はアホやからやってる」(※関西人の意訳)と。うむうむ、確かにそうね。そんな偉業、怖くて誰も手がつけられないよ。だけど、おかざき真里先生は果敢に、そして真摯に挑んでおられるのです。毎回読むたびに、おかざき先生にしか作り得ない世界観に鳥肌をおっ立ておるのです。

今回の映画と比較しようもないのですが(全然内容が違うし)しかし、空海と銘打っているし、自腹で見に行ったからには比べさせてもらうよ。映画の方はとにかく人物像が薄い。ペラペラで吹っ飛びそう。あの空海様や白楽天様をよくもまぁあんなに薄く描けたな。さらには阿倍仲麻呂や玄宗皇帝、楊貴妃なども出てくるのですが、ご安心ください、みんな揃ってペラッペラです。「誰の、何に感情移入して観たらええのーー」と映画館で叫びたくなります。

しかーし、真里は違います(興奮のあまり真里呼ばわり)。流石、少女マンガで一線を走ってきた(いる)人だけあって、とにかく人物の内面の感情が豊かに表現されている。生まれつき持っている容姿や才能、嫉妬や意地、真理を求める心や、志を同じくする人たちの心の交流などなど、もはや書き尽くせないほどの感情が詰まっています。こっちはもう感情や情感の洪水なのです。

一方、映画では、なーーーんもなかった。特にキーとなる、みんなが楊貴妃に惹かれる理由も、絶世の美女だからって感じで済ませている。「いやいや、人間、そんな簡単なもんとちゃいまっせー」と言いたくなっちゃう。私は人間の「そんな簡単なものじゃない」感情の部分が見たいのに、驚くほど何も描かれていなかった。ガックリ。

そ・し・て、何より真里(文豪は呼び捨てにされる運命にあり。漱石と同じ)が素晴らしいのは世界を表現する幅の広さが半端ないのです!!!

映画でもマンガと同じく、空海が海を越えて唐に渡り(当時の唐は世界の中心地で大都会)初めて唐の街を歩くシーンがあったのですが、こちらも真里に軍配を上げたい。写真を貼り付けたいけど、これから読む人にあの驚きを味わって欲しいから止めます。マジ、ビビるで。

コミックスなのでA5サイズ、見開いてもA4しかなく、もちろん色はモノクロ。映画のように役者や喋り、動き、音楽があるわけではない。な・の・に、真里先生が描く唐の街からは、音はもちろん風の動き、匂い、人や太陽の熱さなんかが迫ってくるような勢いで伝わってくるのです。ぐわっと身体が飲み込まれる感じもある。マンガってホントに凄い!!

マンガの編集者の端くれである私。この世界に長くいるとたまに限界を感じて「マンガにできることって限られてるよね…」と弱気になることもあるんです。しかし、阿吽を読んだら「ただの才能や格の違いだな」だし、そして何よりも「覚悟や想いの深さの違いだな」と思い知らされた。

お金を使うのであれば「阿吽」を買うことをオススメしたいです。マンガ、ほんまに凄いで。損はさせまへん。あれを今から読めるそこのアナタがうらやしいですわ。

あと、真里先生がTwitterで「KUKAI」のことをつぶやいていた。

観てきました!皆さんおっしゃる通り『空海』と言うよりは『妖猫伝』。私はチェンカイコーが描く 唐!長安!妓楼!衣装!荒波を越える遣唐使船!だけで胸がいっぱいでした...。ラストもとても良かったね。鶴2兄弟が大好きだー。
「妖(あやかし)と永遠の差はなんだろう?」とか考えてしまいました。

だって。確かにその通り。真里先生、納得ですー。

#映画 #コラム #KUKAI #空海 #阿吽 #おかざき真里 #009 #0228 #2018年

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