”研究のはじめ方”の手引き(3):論文を読む際に、とにかく把握すべき4つの事柄

新大学院生にむけて、博士課程3年目の私が「もっとはやく気づいていればよかったー!!!」なことのなかから、”研究”にまつわる初歩的な重要事項を記す連載です。

初回では「研究とは何か」ということを、2回目では「サーベイとは何か」ということを書きました。

今回は、2回目で説明した「サーベイがうまくできないとき」について記します。

【補足(毎回共通)】私の研究分野は経済学ですが、それ以外の分野も、細かいところは違っても大枠の捉え方は同じなんじゃないかなあ、と思っています。(違ったら、コメントしてくださいませ。)
また、記事全体での”大学院”や”大学院生”という記述は、法科大学院やアカウンティングスクール、MBAなどの”専門職大学院”をのぞきます。

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前回のポイント:「サーベイは、”まだ誰も知らない新しいこと”を見つけるために行う」

サーベイとはこれまで先人たちがやってきた研究(先行研究)を把握して整理すること
・どうしてサーベイをするのか:研究とは、「誰も答えを知らない問いを立てて、それを明らかにすること」。だから、どこまで知られていて、どこがまだわかっていないのかがわからないと、”新しさ”を追及できず、研究ができない。
・整理するとは:あくまで先行研究がくれるのは、「このもとでこれがわかった」という断片的な情報。それをたくさんあつめて、「どこのなにはわかっていて、これはまだわかっていない」と、”新しい箇所”がわかるように整理する。
・整理するコツ:「違いをみつける」先行研究同士の違いを把握する。

「サーベイのやり方がわかっても、なんだかうまくできない」

サーベイ(先行研究)とは何か、どうしてそんなことをしなきゃいけないのか、については前回書きました。

サーベイのやり方(論文の探し方やダウンロードした論文の保存方法など)については、インターネット上に多く情報が載っています。また、読んだ論文を整理するためのノートの取り方も、多く紹介されています。

かつての私はこれらを読んでも、全然、うまくいきませんでした。ちっともうまく整理できなかったのです。

当時のことを思い返して、考えられる理由。前回の記事の最後にも記しましたが、この3つです。

1. 先行研究同士の細かなGap・差異に囚われすぎている。
2. 新しい何かを発見すべく立てた”問い”の範囲が広すぎる&十分に具体化されていない。
3. 「なんか、私が思った疑問や知りたいことって、もう全部やられてね?」と思ってしまう。

今回は、この1つ目、「先行研究同士の細かなGap・差異に囚われすぎている」について記します。


”真面目”に読む落とし穴:「木を見て森を見ず」

私の先輩たちは、すごく優秀です。誰に何を聞いても、わかりやすく答えが返ってきます。
幅広く、そして深く物事を理解していて、、分厚い教科書のすみからすみまで理解しているんじゃないかと思うくらいです。

私の質問にさらりと答え、ホワイトボードにすらすらと証明を書いていく。
そんな先輩たちの姿を見た私は、結果的に、完璧主義っぽくなりました。教科書のすみからすみまで理解できないとだめだ、と思い、そのくせそこまでの力はなく、細かいところでつまずいて分厚い本の中で迷子になりました。

細かい枝葉ばかりに囚われて、全体像を見失って、一体何を言っているのか、わからなくなったのです。

前回の記事で、「サーベイのコツは、先行研究同士の違いを見つけること」と書きました。

実際にいろんな論文を読んでみると、大小さまざまな”違い”がものすごくたくさんあります。
同じテーマで同じ問題に取り組んでいる。けれど、分析方法も分析対象も分析期間も違う。理論モデルだったら、仮定も複数、違う。
こまかーーーいところまで真面目に読むと、無数に”違い”がでてきます。

”真面目”な私は、面食らいました。まとめきれないくらい、無数に違いがあるぞ。しかもそれぞれ、なんで”違く”しているのか、わからないぞ。どうしたらいいんだ。

博識な先輩たちに憧れ、「細かなところまで理解しなきゃ!」と思うあまり、”森”を見失いました。
論文のおける”森”、全体像の把握に必要なことは、「問い・問いの背景・方法・結果」
細かなことよりも優先すべきは、論文の概要であるこの4つを把握することです。

とにもかくにも「問い・問いの背景・方法・結果」を理解する

1本の論文には、当然たくさんの情報が詰まっています。

そして当然、論文に書かれている情報すべてが、同じ重要度であるわけではなく。大事なことと、そこまで大事じゃないことが当然、あります。

一番大事な情報は、「その論文が明らかにする問いは何か」
研究とは「誰も答えていない問いを明らかにすること」と、初回に書きました。
論文に書かれている、著者が挑んだ”問い”は、この論文唯一のもの。この論文の”オリジナリティ”です。だから、絶対に把握しておかないと、意味がない。

でも、ただ「この論文はXXを明らかにしようとした論文」と理解するのだけじゃ、だめ。どうしてその問いを立てたのかという背景・理由も一緒に把握しましょう。Introduction(はじめに)には必ず、その論文の先行研究とのつながりが書かれています。どんな研究があって、どんな課題・問題・限界があったから、この分析に至ったのか。そうした先行研究の流れを理解しながら読むのが大切です。

問いが書かれていたら、その問いにどうやって答えるのか(手法)その答え(結果)が気になるかと思います。こちらも当然、大事なこと。

「問い・問いの背景・方法・結果」が論文の核です。
まずは大雑把でいいからこれらを把握することに努めましょう。

この4つは、Abstract(要約)Introduction(はじめに)に必ず書かれています。
初めは論文の最初から最後までを読み切るのではなく、AbstractとIntroductionをしっかり(慣れないうちは何度も)読んで、「問い・問いの背景・方法・結果」を理解することが大事だと思います。

また意外とおざなりにしがちなタイトルもかなりの情報量を持つので、タイトルの意味を理解しておくことも大事です。

自分の頭で考え、想像してみる

「問い・問いの背景・方法・結果」の4つを把握したら、自分の頭を使う番です。

どうして著者はその方法を使ったのでしょうか。他の方法でもできないのでしょうか。
他の方法と比べて、何か良い点があるのでしょうか。もっと適した方法がないでしょうか。

論文の概要を把握したら、こんなふうに「なんで?どうして?」と論文にツッコミをいれてみましょう。論文に書いていないことでも、考えてみましょう。答えがすぐ浮かばなくてもよいですから。

そして、「もしこうしたら……」「こんなことしてみたら、どうなるだろう……」と、その研究の先や外も、想像してみましょう

もしも自分がその問いを実際に明らかにするとしたら、どんな手法で、どんな風に分析するでしょうか。
あるいは、その先行研究の背景のもとで、他にどんな問いが立てられるでしょうか。

ちょっとずつ段階を踏んで読んでいく

いきなり、論文の全てを完璧に把握する必要はありません。

少しずつ段階的に読んで、少しずつ理解していって。
「問い・問いの背景・方法・結果」の4つが大雑把にでも理解できたら、他の論文を読んで、またそこでこの4つを把握するーーそんな姿勢でもいいのです。

先ほど述べたような、自分の頭を使って考えたり、想像する時間は大事です。
でも、毎回絶対やらないとダメ!と、硬く考えるんじゃなくて、”考える”を楽しむ気持ちでいいと思うのです。

そうして、その分野の知識がついてきて、先行研究の流れがわかってきて、もう少し個別の論文を読み込む必要が出てきたら、また読み進める。今度は、場合によっては細かなところまで読んだりして、理解を深めていく。考えを巡らせていく。

理解する・わかる、ということは、ゼロかイチの話じゃなくて。
ゼロをイチに向かって近づけていくことなんだと思います。たとえ、0.1ずつだったとしても、「理解しよう」と深めていく姿勢が大事なんだと思います。

そしてその中で、自分への研究につながるヒントが得られるんじゃないかなと思います。


「調べる範囲が広すぎる!」「読む論文が多すぎる!」:次の記事へ

サーベイがうまくいかない理由として考えられる2つ目。
「新しい何かを発見すべく立てた”問い”の範囲が広すぎる&十分に具体化されていない」

自分の知りたいことに関する研究が多すぎて、どこから手をつけたらいいのかわからない。膨大すぎて、困ってしまう。

そんな場合は、自分の興味を今一度しぼって、どんなアプローチでいくのか狭める必要があったりします。
簡単に書きましたが、すごく難しい話です。だからこそ、先輩や指導教官にアドバイスをもらうことが大事だったりします。

次回は、そんな「問いの具体化」のお話。


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