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atelier HIKITSUGIができるまでとこれから 〜第2章 「エシカル視点」で見たファッションの歴史〜

前回から引き続き、今回もリメイクファッションブランドの Atelier HIKITSUGI の創設者のである今井翔さん(以下、sho)にお話を伺っていきます!

前回の記事ではファッション業界におけるShoさんの経歴について語っていただきました。第2章は主に、昨今話題になっているファッション業界の問題がどうして引き起こされてしまったのかについて、独自の視点も踏まえてファッション業界を振り返りながらお話いただきました。

まだ第1章をご覧になっていない方はそちらから。
もちろんこの記事から読んでもわかる内容になっています!

それではどうぞ!

■ 「ファッション」の歴史を振り返ろう!

─前回の記事では、Shoさんのファッション業界の経歴や、ファッションにまつわるエピソードをお伺いしました。
だいぶダークな内容でしたが、ファッション業界に「技術喪失」や「環境汚染」などの様々な問題があることがわかりました。他にも色々な問題があるかとは思いますが、ファッション業界はどうしてこんなに色々な問題が出てきてしまったのでしょうか?

んー。これは少し難しいお話ですね。僕が持っている知識からのお話になりますがファッションの歴史を通してご説明させていただきますね。

まず、ここまでずっと「ファッション」のお話をしてきましたが、「ファッション」という言葉について簡単に確認しておきましょう。

辞書上の意味では「服、髪型、装飾、振る舞いなどにおける人気・最新のスタイル」と定義されています。この連載では、その中の「洋服」についてお話してきましたし、ここではファッションといえば「服に関すること」だと思っていただければと思います。

そして、歴史を振り返るとファッションは人間の誕生とともにあったわけではないですよね。初期の頃の服は、寒さをしのいだり、肌を隠したり、あるいは社会的な身分を示したりなど、「機能的」な意味合いで使われてきました。装飾が施されることもあったでしょうが、短いサイクルで変わるものではなく、生活様式の変化などに伴いだんだんと変わっていくものでした。
そして、社会が豊かになるにつれ、上流階級の一部の人々の贅沢な行いとして楽しまれるようになったのがファッションの始まりだと言えます。
しかし、ファッションは生きるために必要なものではなかったので、実は昔からファッションは「一部の人たちが楽しんでいる、気まぐれですぐに入れ替わる浅はかなもの」として道徳家たちから批判されていました。

「モード」の中心であった当時のフランスの状況を批判したモンテスキューの『ペルシア人の手紙』(1721年)にある記述などが有名です。そこには

パリから半年ほど少しでも離れた田舎へ行っていた女性たちは、あたかも3年も留守をしていたようにすぐに流行遅れになってしまう

と書かれています。当時のファッションが極めて移ろいやすく気まぐれなものとして、受け止められている世論が反映された台詞となっています。

一部の階級の人しか楽しめなかったファッションですが、18世紀中頃からのイギリス産業革命を契機に大衆化されていきます。生産技術が進歩したことで洋服の大量生産が可能になり、ファッション性のある洋服が一般の手にも届くようになったんですね。しかし、産業革命で得られたのは良いことだけではなく「工業化による環境破壊」「女性労働や児童労働」「劣悪環境での長時間労働」などの問題も起きてしまいました。

さらには「グローバル化」が進み、それまでは「国内の問題」だったことが「世界の問題」へと変貌していきます。先進国で着られる服が途上国で生産されるようになっていったのです。先進国側の環境は改善されていきましたが、それまで先進国で起きていたのと同じ問題が海を渡って生産国である途上国で起きてしまいました。
しかも、グローバル化によって一部の国の人々は豊かになっていきましたが、世界的に見れば貧富の差は拡大するばかりでした。悪く言えば、それまで自国内で起こっていた問題を他国に押し付けただけだったのですね。ここまで来ると想像がつくかもしれませんが、こうした流れの中で「ラナプラザの倒壊事故」へと繋がっていきます。

だいぶざっくりでしたが、ファッションの始まりからと近代までの歴史です。

まとめると、大きく分けて3つの時代区分があると思います。

①流行という概念はなく、機能性が重視されていた時代(服は単なる服の時代)
②上流階級の人々が流行として服を楽しんでいた時代(ファッションが芽生えた時代)
③産業革命でファッションが大衆化された時代(大衆化と問題噴出の時代)

この大枠の流れを理解していると、ファッションにまつわる色々な問題を深く理解することができるようになりますので、ぜひ心に留めておいてください。

■ 必要なのはパラダイムシフト

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─お話を聞いていて思ったのは「産業革命ってだいぶ前のことだけど、聞き覚えのある問題がチラホラあるな」と...。

振り返ってみると、数世紀前からの問題が繰り返され未だにずっと残り続けているんですよね。つまり「仕組みが破綻しているのが明白なのに、それにしがみついたまま」になっているんです。

産業革命の頃に、現在あるような仕組みのままではだめだってことは多くの人が気付いてるはずなんです。それなのに、パンクしたシステムのままでなんとかやりくりしようとしている。このままでは業界が良くなるはずがありませんよね。

今度は歴史から離れてパンクした「社会システム」がどのようなものかお話しますね。ファッションからも一旦離れますが、想像がしやすいので戦後の日本に舞台を移してみましょう。

日本は戦争で多大なダメージを受けてしまったというのはご存知ですよね。日本は物質的にも精神的にも色々なものを失ってしまったわけですが、そういった社会では早期の復興を遂げることが良しとされます。復興のためには、インフラや衣食住を満たす「物質的な」豊かさが求められるのは当然のこと。早く元の生活に戻さないといけません。

そして、先人達の努力の結果少しずつ日本は豊かになっていきました。しかし、復興期の「物質的な豊かさを求める価値観」を帯びたまま、日本は高度経済成長期やバブル期を迎えてしまいました。その時代では、新しいものが次々と生産されては、ほとんど新品のような状態でありとあらゆるものが捨てられていました。その頃は「もったいないの精神」なんてものとは程遠かったと思います。作っても作っても物が売れる状況だったので、商品を生産する企業も利益などの定量的な数値を追い求めていきました。こうして日本はモノで溢れかえるようになったのです。

利益を追求するあまり、過剰に商品を生産し、きちんと消費しきれないままゴミとして捨ててしまう。しかもそのゴミの処理に関しては、通常の処理方法では間に合わず、埋立て処理をすることになるのですが、地域住民による反対運動が起こり社会問題にもなってしまいました。これが、合理主義や資本主義が行き過ぎた社会で、「社会システムが破綻しているのに、それにしがみついたまま」の状態の例です。

余談ですが、実はこの問題は未だにすっきり解決したとは言えません。なぜなら現在日本は溢れたゴミの処理を海外でやってもらっているからです。
その多くはプラスチック製品。ポリエステルでできた洋服もその中に含まれます。「自国だけでは解決できない問題を、他国にやってもらう」という構図は、産業革命で先進国に発生した諸問題を途上国に持ち込んだのと似ていますね。

僕は、このような数字だけを追及するようなシステムはサステナビリティ(持続可能性)に問題があるのではないかと考えています。
例えば、漁師さんが「儲かるから」という目的のためだけに、魚を捕りつくしてしまったら、魚がいなくなってしまうので、もう我々は食べることができなくなってしまいますし、漁師さんももう魚が捕れないから商売を続けられないですよね。
自然のサイクルを無視して利益を追求したことの結果です。

極端な例ではありますが、どんなものでもこのように数字を追求すればするほどサステナビリティは低下する傾向にあります

この例からも日本を含め先進国がこれまでのような経済活動を続けていったら地球が大変なことになってしまうというのは想像に難くありません。明らかに日本は物質的に豊かになり、モノで溢れかえっています。それに反して、日本の人口はどんどん減少していって必要なモノの量は今後さらに低下していくでしょう。

僕たちは戦後復興期や経済成長期の先人達が築き上げてきたものによる恩恵を少なからず受けているはずです。当時の人たちががむしゃらに頑張ってきてくれたからこそ今の日本があるのは間違いないですし、一概に「近代合理主義」的な施策それ自体が「悪」だとは言い切れません。問題なのは、必要がなくなったのにそれにしがみついていること過剰であることです。

モノの大量生産が必要なくなった時代に生きている僕たちはこれまでの社会システムから脱却し、社会全体としてガラっと価値観を変える(パラダイムシフト)を起こして、この時代に生きる者としての「責任」を果たさなければならないと思っています。

変えていかなければならない価値観として、「量ではなく質」・「定量的なものではなく定性的なもの」をもっと大切にすることが挙げられます。

具体的には、ファッションで言うと、従来の低コスト・大量生産で短いサイクルの流行を回すのではなく、作るのに時間はかかるけれど手作りによって生まれるヒトの温かみを帯びた製品を増やし、愛着のあるものに触れる機会を増やしていくことなどです。

そういった文脈から、僕は「エシカル」という新たな価値観には非常に可能性を見出しています。これまで消費者は「量」や「新しさ」などを追い求めていたけれど、そこに新たな価値として「エシカル」かどうかという基準が加わる。消費者が「エシカル」なものを求めれば企業も変わっていってくれそうな気がします。これに関しては、また後ほどお話させてください。

■ SNSの普及も問題に拍車をかける

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─そうですね。日本が高度成長期でモノを作りすぎてしまったことは地球にとって悪影響だった部分がありますよね。私たちの世代でそういった部分の埋め合わせをしなければならないですね。ここまでお話いただいた問題は少し昔のものでしたが、最近ではどのような問題があると見ていますか?

よく言われる「ファストファッションの問題」なんかが挙げられますが、僕はさらにその背後にある「資本主義とメディアの組み合わせ」による問題に注目しています。

今の世の中の仕組みでは、先ほどから述べているように、モノをたくさん作ってたくさん売らなきゃいけないという体制になっています。そのためにファッション業界においては、企業が新しい流行を作り出し「今年の新作スタイルはこれ」「このブランドが流行っているから買うべき」などという情報をSNSや雑誌を通して流していますよね。あたかもそれが正解であるかのような情報を拡散させて消費行動を僕たちに促しているのです。

これは資本主義の仕組みの中では仕方のないことだとは思いますが、スマートフォンの普及と企業による消費者の可処分時間の奪い合いが過熱するに従い、行き過ぎた状態になっていると思います。昔だったら家にあるテレビでCMが流されているくらいでしたが、今ではスマホでアプリを開くたびに様々な広告を見させられます。そして、そのような企業が流す広告の受け手である僕たち消費者がそういった情報に対して無抵抗に取り込まれていってしまうと、どんどんとモノを買うようになってしまいます。

実際にSNSなどで紹介されている洋服を買ってみると、とりあえずトレンドのスタイリングにできるし、周りも同じような恰好をしているから安心もできるし、なんとなくおしゃれな感じは演出できます。でもそうやって情報に流されて買った服って自分が本当に好きな服じゃなかったりするんですよね。そして好きでもないから流行が変わると不要になるので捨ててしまう。

今お話したような買い物も楽しいのかもしれませんが、買い物って本来はもっと心が躍る高揚感のあるものだと思っていて、今の若い子たちはそれを味わえているのかどうかが少し疑問です。本当に好きで欲しいものを買わない限り、「クローゼットは満たされてたとしても、心は満たされない」と僕は考えています。

ファストファッションはこれまでの利益を広告に費やすことができるので、消費者に商品を買うように促すことができる。消費者はそれでまた商品を買ってしまうから、さらにファストファッションは広告を流すことができて...というサイクルになっていますね。

─たしかにそうですね。私もファストファッションで服を買ったことはありますが、量が増えてもどこか満たされていない感じがします…。むしろ、服が増えるにつれて、クローゼットの中のトキメキが薄まっているような気も...。まさにクローゼットは満たされても心が満たされていない状態です。
最近ようやくエシカルファッションについての情報がネットで増えてきた気がしますが、ファストファッションに比べると全然少ないのにはそうした理由もあるのかもしれないですね。

その通りです。エシカルに関する情報は増えてきたとはいえ、まだまだファストファッションとエシカルファッションの情報量には大きな開きがあると思います。

その原因としては、エシカル関連の情報を発信しているメディアがまだ小規模であったり、エシカルブランドが広告に多額の費用を割けないだとか様々な理由があると思います。

ただ一つ言えることは、そういった情報量の偏りを改善するには、こういった我々のような企業が情報を発信し続けることと、それに共感してくださった方々の拡散が欠かせません。もし、MODALAVAを含めエシカルファッション企業の活動にご賛同いただけたらぜひ積極的に情報を発信、拡散していってほしいと思います。

■ 取材後記

今回はファッションの始まりから昨今話題のファッション業界に起こっている問題までを網羅的にお話いただきました。

「エシカルファッションの情報はまだまだ少ない」

ぜひこれを機に自由に拡散していただければと思います。

MODALAVA公式ツイッターでは、個人でもできるエシカルファッションアイデアを日々呟いています。
MOLDALAVA公式インスタグラムでは、エシカルな(リメイク・リサイクル・アップサイクル)ブランドや人を紹介しています。

エシカル始めてみたい人はチェックしてみてくださいね!

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次回はいよいよ話題の「エシカルファッション」についてのお話を伺っていきたいと思います。お楽しみに!

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