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ブラッティメアリー #2

明るい日差しで目が覚めた。

どうやら僕は酔って寝てしまったらしい。

「おはよう!」

その時、僕の視界に白髪で眼鏡をかけた女が入ってきた。

ぎょっとして、思わず布団をかぶってしまった。

布団?

布団で寝ている僕。

どこだ?ここは・・・。

「よく眠れましたか?」

女の声。

ぎょっとしたのは言うまでもない。

昨日、ブラッディメアリーを注文した際、この女は確かにこう言ったのだ。

「若い女から”戴いた”フレッシュなジュース・・・。」

あの状況の中で、僕がその言葉を聞いた瞬間、頭に浮かんだのは言うまでもなく、カクテルに使われるトマトジュースのかわりに「若い女の生き血」・・・それともその「若い女の死体から搾り取った血」を連想してしまったのだ。

だが、待てよ?

なぜ、そういう風に思ってしまったのだろう?

僕はできるだけ冷静になろうとしていた。

今、この瞬間の状況においても・・・だ。



「朝ごはん食べる?」

女は呑気にそう聞いた。

呑気、呑気、呑気・・・と三度、心の中で僕はつぶやいたが、呑気である彼女が正常で、実は自分が異常であるのかもしれない。

「あのぅ~、僕はなぜここで寝ているのでしょう?」

「ああ・・・昨日ね、突然倒れちゃったのよ。で、アナタ、この辺の人じゃないでしょ?見かけないもんね。身元もわからないんじゃあ、どこへ帰していいかわかんないからさー。ここで寝てもらうことにしたの。」

「あ、ありがとうございます。そしてご迷惑をおかけしたみたいで・・・。」

「いいのよ~!旅人!」

「旅人?」

「え?違うの?旅人じゃないの?オタク?」

た・び・び・と・・・

今時、そんな言葉遣うか?

世話になっておいてなんだが、どうもこの女、怪しすぎる・・・。

だいたいなんなんだ、その頭。

若いと思われるのに白髪。

昨日、店内の照明の中で見た彼女は若い女の顔だった。

肌艶よく、皺もたるみもなかった。

顔だけを見たら20代前半だ。

なんで白髪?

なぜ今時流行らない赤い口紅なんだ?

しかもオバQみたいな唇よりも明らかに何ミリもはみ出したような描き方をして・・・。

描き方っていうのか?

男の僕はよく知らない。

そうだ!最初にこの女に会った印象が衝撃的過ぎて、「人を食ってきたような・・・」と感じてしまったその容貌が、僕の脳裏にかすかに残っていて、よくわからないまま、店と女の不思議な会話の雰囲気に飲まれてしまったことによる・・・失態。

きっとそうなのだ。

でないと、今この状況の爽やかさはありえない。

やはり僕は知らない場所の不思議な空気にいつもの自分を見失っていたのだと考えられる。

だって、そうだろう?

最愛の恋人が行方不明になったんだ。

こんな緊急事態に人は冷静でいられるか。

そんなぎりぎりの精神状態の中で、緊張を解くために酒を一杯あおっただけだ。

それもきついアイラの酒を。

あれで帰るつもりだったんだ。

それをこの女がブラッディメアリーなんて・・・

ウォッカだなんて・・・

僕はここに泊まらせてもらって世話になったことを忘れ、ついついこの女が憎らしくなってきた。

だが、この女は僕のそういった事情など知らない。



そんなことを考えているうちに朝ごはんとやらが運ばれてきた。

熱い味噌汁・・・

熱い味噌汁・・・

熱い味噌汁・・・

それ以外・・・見あたらない。

「あの~。」

「何?」

「味噌汁はいいんですけど~。」

「あら~、何?ご飯と卵焼きでも食べたいって感じ~?贅沢ねっ!!」

確かにあまり親しくもない他人から供された「朝ごはん」が味噌汁だけであっても文句は言えない。

だけど、そんな言われ方もどうかと思うが・・・

「あのねー、二日酔いってねー、翌朝あつ~い味噌汁を飲むといいんだってさ。金八先生も言ってたじゃん?」

き、きんぱち?

あの昭和のTVドラマ?

え?この女、一体いくつなんだ?

謎・・・すぎるぞ。

二日酔いかどうかはわからないが、この女の言葉にまた頭がぐるぐるしてきた。

「で、飲んだらこれね。」

ウンダーベルグ・・・。

ドイツかどっかの薬草酒。

飲んだら胃がすっきりするのだ。

だが、アルコール度数40以上だったかと、「元アルバイトのバーテンダー」は記憶している。

あれは真っ赤な嘘だけど。

この女がまたくだらないことを言い出しそうだったので、先制パンチをお見舞いしてやったにすぎなかったのだ。

とにかく、なんだか不思議な女だなと思った。

「あの~、これって胃がすっきりするとは言ってもあれですよね・・・アルコールじゃないですか。」

「そうだけど?」

「これって・・・失礼ですけど、また僕に飲ませたいんですか?酒を。」

「あらまっ!この子ったら・・・。あ、ごめんない、この子だなんて・・・。た・び・び・と・・・だったわね。」

違う!

「とにかく、この度はお世話になりました。昨日のお代はおいくらでしたでしょうか?このウンダーベルグや味噌汁なんかも一緒に計算して下さい。」

僕は早くこの女のもとを去りたくて、出来るだけ他人行儀に、かつ丁寧な口調でそう言った。

一宿一飯?の恩義もこの際、スルーしたい・・・。

「あらー、もう行っちゃうの?寂しいわね、旅人!」

だから~、旅人ってネーミングはやめてくれ。

「はい、本当ーーーーーにっ、お世話になりました。」

女は一瞬寂しそうな顔をして、こうつぶやいた。

「ところで、旅人君。私、なぜアナタがこの町にやって来たか当ててやろうか?」

「いや、いいです・・・・。」

そういえばこの女、サイキックって言ってたな。

ばかばかしい。

でたらめだ。

女は僕の言葉をさえぎってこうも言った。

「私はアナタが探し物をしているのが見えるんだよ。」

え?

「それも物じゃない、人だ。」




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