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【エッセイ】コンビニでおにぎりを買う。酔いが覚める。

 あーいっぱい飲んだ呑んだ。いや、しかし…もう1件行ける気がする。豚骨ラーメンなんてどうだろう。替え玉1回はしたいなあ。

 散々飲んで帰路につき、自宅の最寄駅にもう着いたのに自分はどこにも行けずに佇んでいる。うーん、駅の反対側にラーメン屋あったな。遠回りだけどそこ行くか?いや、帰りに24時間営業のスーパー寄るか?なんか甘いものでも…決められず立ち止まる。もうすぐ日付も変わる時間だ。吐く息は白く、突っ立っているだけなのでますます寒さが身に染みる。早く答えを出さないと、風邪を引く。

 深酒すると、人は何故か根拠のない自信に満ちた尊大な空腹感に陥るものだ。自分はこんなんじゃ満足しないぞ、まだまだ胃に入るぞ、酒もつまみも足りない、誰が持ってこい!と。しかし、この感情に身を任すと翌日に色々な意味で後悔することになる。逡巡したのち…弾かれたように自分は駅前のコンビニに足を踏み入れた。この愚かで危険な考えは頭の隅に追い込んで、コンビニでおにぎりを買おう。ちょうど、うってつけなベンチも見える。あそこに座って食べよう。

 コンビニでよく見る、ガイダンスに沿ってフィルムを外すタイプのおにぎり。この外側の包み、フィルムを外すためにこれ以上ないほど一旦冷静にならなくてはいけない。表示の矢印、指示通りに外せば綺麗に外せることは分かっている。だが、何件もハシゴして飲んで頭もふらつき、手元も怪しい今の自分にこの指示をこなすのは難しい。頭ふわふわ浮かれモードを意識してシフトチェンジし、強制的に冷静にさせる。

 ピリピリとフィルムを引っ張る。左右両側のフィルムに海苔が巻き込まれないように慎重に着実に事を進める。フィルムが外れた。一安心だ。
 おにぎりを食む。季節は冬。コンビニのおにぎりは海苔がこれでもかと言うくらい、パリパリだ。ただでさえ乾燥しやすく、唇が荒れやすいこの時分に雑におむすびに噛みついてみろ、鋭利な海苔で唇が切れてしまう。それが怖いので、やはりフィルムを剥くときと同じように、一旦冷静になって丁寧におにぎりに食らいつく。一口噛む。おにぎりを少し、口から離す。おにぎりから唇が遠ざかった状態でもぐもぐと丁寧に噛みくだき、飲み込む。また噛む。繰り返す。間違っても連続でバクバクとかぶりついたりしない。気づいた時には唇が傷ついているから。冬の乾燥を舐めたらえらい目にあう。

うん、美味しい。
アルコールでめちゃめちゃになった体内に炭水化物の安心感、満足感が広がる。




 美味しかった。梅か明太子で迷ったけど明太子で良かった。大正解!酔い覚ましという意味では梅の方がおそらく良かっただろう。しかし体は酸味よりも、若干動物的なものを欲していたのだ。その欲に従った。

 冷静に、慎重におにぎりに相対しているうちに、何でもいくらでも食べれる!という謎の自信に満ちた空腹感は薄れ、酔いも冷めてきた。もっと食べたい、飲みたい、という危険な欲望にふわりと歯止めをかけることができた。

 これ以上暴飲暴食によって自分を痛めつけたくないから?無意識の防御反応なのかもしれない。

 人心地着いた。さあ、これでやっと家に帰れる。しかし寝る前にたくさん水を飲まないと。マフラーを巻き直しながら、コートのポケットにおにぎりの包みを突っ込んだ。



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