目覚めるとゲデルゲニスになってた日記
大学の進級試験まであと10日ってくらいの日の朝だった。
ここから、
ここに書くことは全部真実である。
目覚めるとゲデルゲニスになっていた。
マジで。
だから、腕は一本しかなく、代わりに全身の皮膚が完全に近しいコンディションになっている。
あと右膝の内に9粒の柘榴の果肉が実った。キモすぎる。
完全な皮膚、すごすぎる。おそらく並の斬撃は通さない。おそらく…というのは、ロロノア・ゾロや花剣のビスタ、また全盛期のヒョウ五郎親方、そういったクラスの斬撃を浴びる機会がなかったから、推測に過ぎないということだ。
家にある刃物で最たる凶悪は、包丁。これで祖母はよく豚足とか豚腕とか豚脳とかを斬っている。これを皮膚に突き刺してみた。
くに、と弾かれてしまい、肉は斬れない。だからなるほど完璧な皮膚はこの程度の斬撃は通さないのか、と理解したわけである。
(しかし皮膚の奥の肉は全然不完全な人間のそれのままだったので、剣圧で肉は少し潰された。少し痛い。しかし大事には至らなかった。)
…正直ホッとした。良かった斬れてくれなくて。別に完璧に近しい皮膚を持てたとして、その完璧性を保つために自身に攻撃を加える理由にはならない。もしあの包丁が突き刺さってたらどうするんだ?
最近、病院にいっぱい金を落としてきたところだろう。
(なんか頭痛がしたから脳神経外科でMRIっていう立体的なレントゲン的なのを撮って、6000円払った。なんも大事はなく、ただの後頭神経痛だった。良かった。)
(なんか腹の右下あたりが痛かったから内科行って血液とか抜き抜きしてもらって4000円払った。盲腸…虫垂炎ではなく、そも炎症すら起きていなかった。良かった。)
もし、包丁が突き刺さっていたらどうなっていたのだ?これは4桁円では済まない金を病院に落とすことになるぞ。いつかそういうときは来るし避けられないのだけど、それを今から味わう必要もない。
だってこれ親の金だし。
閑話休題…は、これから余談を挟むという意味ではなくむしろその逆、これで余談を打ち切って本筋に話を戻すという意味らしい。
これも余談か。
閑話休題。
さて朝目覚めるとゲデルゲニスになっていたため、腕が一本無くなり、代わりに完璧に近い皮膚を手に入れた。
ゲデルゲニスは分かっていることが少なく、集合知、Googleでその名を検索しても、名作ディズニーアニメーション『ファイアボール』のキャラクター、ゲデヒトニスしかヒットしない。
(あと私の知らない楽器の知らない銘柄がいくつかヒットする。)
ゲデルゲニスの広く知られた性質としてまたあるのは、電気を持たない通さないことだろう。全く電気に関与しないで存在するなど、物理学的化学的にあり得るのか?とも思ったが、文系だから分からない。
さっきシャープペンシルを握ってコンセント穴に突き刺した。すると全く何も感じず、ただ綺麗な火花を観測だけした。
どうやらホントに電気を通さない。
これはすごいぞ、ということで強盗を働くことにした。
(ゲデルゲニスになると、心も大胆になるのか?)
警察はスタンガンしか使わないらしいので、たとえ警察が制圧にやって来ても、立ち向かえる。
でもどうしたものだろう。
なにしろ、強盗を働くのはこれが初めて。
それにいくらゲデルゲニスといえ、不死身ではなく、さすまたなんかが出てくると怖い。すぐに右二つの心臓は潰され、静脈血が腐敗待ったなしだろう。
じゃあやめるか?
そう考えながら、両足中指のバーストタイプのキャタピラが高速で回転を止めない。
おいおい、マジでイッちゃうのかよ。
とほほ、脳は倫理を覚えているのに、全身の細胞は叫んでいる。
「強盗せよ!強盗せよ!」
いや、全身の細胞が叫ぶって、そんなことまで叫ぶのかよ。ふつう、『ピンポン』インハイ編でペコと戦っていたドラゴンなんかは全身の細胞が叫んでいたけど、それってなんかこう、もっと良いことじゃなかった?
全身の細胞が、強盗を推奨しちゃダメだろ。
主従関係が逆転する〜〜〜!!!!
んぱ、という効果音が歯周ポケットから鳴り止まない。これは…?これは、そのとき分からなかったけど、今思えば、これは最期の良心の断末魔だったと思う。
そんなわけで、コンビニエンスストアに到着。
家から1分にファミリーマートがあるのに、なぜ、地元の中学近くの100円ローソンまでやって来たのだろう。
フジツボがごとし、でこぼこに隆起した駐輪場に外部パーツを置く。
外部パーツが多い!具体的には、このトイレットペーパー(芯まで柔らかい紙で構成されてて最後まで使えるタイプのやつ)の、最初の糊付けの部分。これが一つだとなんてことないと思うのだけど、40000枚も集まるとまあ重い!大きい!
(滑空に使うらしいけど、試していない)
で、いざ、入店。
入店した瞬間の、店員のあのギョッとした顔!
店員はマジにギョッとしていただろうよ。……これはマジで俺がしくった。しまった、寝巻きのままだったもんなあ。
恥ずかしくて紅潮してしまったけど、完璧に近しい皮膚は光を介さず、おかげで表情には現れなかったぽい。威風堂々と歩みを止めない。
100円ローソンって全然、店内の商品が100円で統一されてるとかないんだな。100円って、最安商品はそれくらいでお買い求めいただけますよってことかよ!!
店内全商品の平均値を取って、630円ローソンとかに改名した方がいいんでねえか?
…あ、ヤなこと思い出した。630円て。630て…俺の共通テストの総合点くらいじゃねえか、クソ。
そんなことを考えながら、店内を物色するフリ。だっていきなり強盗とかしたら、お店の人もビビっちゃうだろう。
まずは普通の客を装い、それから、
「金を出せ!!」
あーヤバい、最近人と話してなかったから、全然上手く声が出ねー。
「何円出しますか?」
「じゃあ、9ま…」
ここで不快な音が鼓膜をどんどこ叩く!
店員は真摯に対応してくれたけど、左手からピポパと流れる音を、俺は見逃さなかった。いや、聞き逃さなかったのだ!
こいつ、俺の強盗成功を手助けしてくれてると同時に、警察110に通報してやがる。
マズイぜ。
大阪都は、先日、旧東京都から奪った2万の警察が到着したばかりだ。今の国家権力警察はとてつもなく強ェー!!
「警察呼びました?110ってボタン押したとき特有の電子音がガラパゴス携帯から漏れてますよ」
「特殊な耳ですね、この音しか聞こえませんでしたか?…119に226、あと0655にも連絡を入れたのが聞こえませんでしたか?」
226ってなんだよ!?あと用もないのに救急消防に連絡入れちゃダメだろ!?
マズイ、そう思って脳が知恵熱を出しかけた寸前で、ゲデルゲニスの高性能な目がソレをとらえてしまった。
おい、あのAEDの隣にかけてある棒キレ…金剛性のさすまたじゃねぇか!?
あれを握られるとマズイ。
「シッ!」
マッハのパンチで、さすまたの股の部分を破壊!これで最悪の事態は防いだ!
もはや強盗の完遂は不可能!9万円要求したはずなのに店員が出した実際カスみたいな2000円と166円を握りしめ、逃亡へ計画をシフトチェンジ!
幸い、ここは高度20000mのオリンポス火山級の盆地だ。滑空すればすぐに警察は撒けるだろう。
……あ?
マズイんじゃ!!!!
滑空用の外部パーツは外のフジツボ型隆起駐輪場に、駐輪させたままだ!と、いうことは…!?
「クソ!糊付けがフニャフニャになって使いもんにならん!」
エベレストヌス梅雨汗腺の霧雨に見舞われて、滑空用の外部パーツがオシャカになってしまった!俺は無神論者だけど、かといって仏教徒でもないっつーの!釈迦!俺の邪魔をすんじゃねえ!
ゲデルゲニスとて万能ではない。これほどの力を出してしまうと心臓の一つが潰れるのも覚悟せねばならぬが、灯すしかない。……そう、
背骨ジェット。
仕方ないか、と涙を飲んで、点火。バボボ、勢いよくゲル状の煙を撒き散らしながらぶっ飛ぶ!
「クソ!あの店員、俺の果敢な強盗行為に対して、2000と166円しかよこさなかった!硬貨は各種一枚ずつ…と見せかけて最大事の500円玉をよこさなかった!!!」
叫ぶしかない。
「F**k!!!!」
そうして家までぶっ飛び帰ってきたものの、こんな端金で何が買える?
『テラリア』はウィンターセールで最近安く買えたばっかだろ。
んなわけで、ふてくされ。
ムカついたから、すたみな太郎行ってやった。平日ということもあり、空いてたし安かった。
あのアカマンボウみたいな寿司ばっか食ってたら8時間もいつのまにか経っちゃったのがマズかったのかなあ……
帰宅した頃には、午後11時だった。
おまけに血糖値スパイクが凄まじく、チョー眠たい。
あーあ、これじゃ次、目を覚ましたときには、もう明日の昼間だろうな。
なんて考えながら、まどろみ、泥のように眠りにつき……
ここまで読まなくていい。
目を覚ますと、全部元通りになっており、普通に、進級試験まであと9日になっていた。
助けて。
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