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襟裳の風#2

 当時の白浜には電気が来ていませんでした。私が小学校に入学する前です。  

 その家は黄金道路と裏山の間に建っており道路から二十段ほど階段を上がったところが玄関でした。 

 特に冬の嵐の夜、海鳴りがして風が強く吹いているときなど、母親にお願いして一緒に外にある便所についてもらっていました。
 男なのに情けないとよく母はこぼしていました。
 便所は今でいう水洗トイレのようなハイカラなものではなく、掘立て小屋の中の貯め式。尻をタイミング良く持ち上げないと、お釣りをもらうこともありました。
 お尻を拭く紙は新聞紙を十五センチ角ほどの大きさに揃えて切ったものが木箱に入れてあり、お尻を拭くと黒くなったものです。
 新聞紙のインクが付くくらい、新聞紙はインクの匂いがしていました。このインクの匂いも懐かしい香りです。

 襟裳は気の荒い土地柄です。

 私はそこで生まれ、日高山脈がぐぐっと突き出た襟裳の自然の中で育ちました。

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