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ただ、守りたかっただけ…862文字#シロクマ文芸部

布団から静かに腕を出せば、自分の腕には禍々しい痣が彫り刻まれている。

愛する里と、愛する人を守る為に、俺は禁忌の『神殺し』をした。俺は代償として呪いの痣を受け、その痣が全身を包んだときに自分の命が灯火が消える。

俺は神殺しをしたあと、遠い遠い山にある古びた神社の中に住まいを整え、暮らし始めた。そうすれば、もう里には何の影響もないと思ったから…。
たまに伝書鳩が文を運んで里の近況をしるが、俺がそれに返事をする事はない。

そして俺は、段々と呪いの力を受け、眠る時間が増えていく。静かに、体の衰えも感じ始めた。
灯火が、ゆらゆら揺れている。

カラカラカラ………
「ご気分は如何ですか?」
「うん。昨日よりは平気だ」
「そうですか…。よかった…」

彼女は、俺の愛した人。
愛した女性…。

「……君は…何時まで此処に居るんだい?」
「私は…、ずっとここに居ます。貴方様と、ここで暮らします」
彼女は、俺の体を拭きながら顔色一つ変えずにそう言い張る。

「………帰りなさい…。君を待ってる人がいるだろう」
「……居ません。私には、待ってる人など居ません。私は…私が、自分で捨てたんですっ!
なのに……っ、そのせいで……っ、私のせいで、里が………っ、貴方様が………っ」

彼女の目からは大粒の涙が際限なく流れ落ちる。ポタッ、ポタッと音をたてながら……。

「俺は…、君を愛して良かった。君とず居たかった……だから、君を守る為に、神殺しをしたこと、後悔はしてない…」
「……でも、私が貴方様の里に来なければ、貴方様を慕わなければ、貴方様が里を守る為に、神殺しをすることも、痣の呪いを貰うこともなかったのです……」


「………もう、辞めよう
俺は、君と、里を守れて本望だ……
君と、今もこうして一緒に居られるだけで幸せだ……例え……」

「例え、君が…………」




「君が、稲荷様の許嫁の、狐でも…」

彼女は、俺の手を自分の頬に寄せながら涙を流している。

彼女の涙はあたたかく、優しく…
何処までも感じていたい温もりだった。

そんな温もりに身を委ねながら、俺はまた静かに眠りにつく………

静かに……そっと………


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