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異動に関するあれこれ その3

 進学校で頑張っていましたが、そろそろ「地元国公立縛り」「国公立進学至上主義」に疲れてきました。生徒さんも、「センターテストで点が取れるような授業」「大学受験に役に立つ最短距離な勉強」だけを求めるようになってきました。つまり、「研究に魅力を感じて大学で学ぶ」という生徒さんを育てたい…という私の目標から遠ざかる状況になってきたのです。
 「進学校から離れよう」と思うようになりました。実業系の高校に転勤して、「研究的手法・要素をあてはめた授業」を構築しようと考えたのです。
 異動希望を出し、学校長に説明し、「内々示」の段階では、希望する高校への異動も告げられました。少し前に大きな災害があり、その復興で苦労している地域の高校です。
 そして3月、内示です。

◆話が違う…
 当日は、入試事務の日で授業はありません。
 教務ではないので午後はフリーです。顧問をしている文芸部の部員から「創作の相談」を受けていました。ただ、教頭から「午後3時に校長室に」というメモはもらっていました。その時間、部室を抜け、校長室に行きます。
 そこで告げられた学校名は、内々示と違っていました。
 校長は、満面の笑みで「Q高校に異動を命じます」と言います。
 Q高校は、A県のトップ進学校。
 東京でいえば、「日比谷高校」「都立西高校」に該当します。
 「は?」です。

◆校長の笑みの理由
 校長というか、A県の教員としての一般的な価値観では、「Q高校に赴任すること」は、とても喜ばしいこと、名誉なこと、出世を意味することのようです。A県の教員であれば、誰もがQ高校で働きたいと願う…。しかし、Q高校は希望して異動できる学校ではない。選ばれた先生だけが行ける場。
 ちなみに、「Q高校に異動する先生を出した」ということは、現在勤めている学校の価値も高めるそうです。ここからQ高校に異動した先生がいるんだよ…ってこと。ちなみに、創立30年の新設校である現在の勤務校から、直接Q高校に異動した先生はいないそうです。
 そう言われても、「だから何」ってのが私の心境。
 内々示と違うじゃん。そもそも進学校から離れたいが希望なわけで、そこから「県内トップ進学校」というのは、私の希望を全く反映していないわけで、さすがに「内々示の学校ではないのですか」「どういうことですか」と質問することになります。
 学校長としては、私のこの反応は想定外。「Q高校なら文句ないでしょう、いや喜ぶでしょう」という認識なんですね。
 はぁ…

◆重い気分で…
 帰宅して、妻に告げました。さすがに妻も「え」と。
 何がってQ高校、我が家から徒歩15分。
 学区のど真ん中ですから、近所には生徒さんも住んでいるでしょう。とりあえず、娘は中学から私立に入れてよかったね…が最初の会話。
 そして、私は重い気分で、東大・京大・一橋などの過去問の勉強を始めました。一応、今までいた高校からも数年に1人くらい東大に進む生徒さんはいました。しかし、Q高校では毎年2桁になります。さらに言えば、医学部希望がどっさりいます。
 つまり、いままでいた進学校とは、わけがちがう。
 旧帝大と医学部。あとは早慶上智ICU。
 予備校にもいましたが、さすがに「東大・京大クラス」はベテラン講師の牙城で、私のようなものが担当するわけがない。地方校舎の季節講習で「難関大クラス」は担当していましたが、それとこれとは質が違う。
 …まいったな…。
 
◆後日談1
 やがて、異動が職員室で公表されます。
 何人かの先生が私のところにやってきて、「何でお前が…」と厳しい口調で告げます。「私はQ高校に行きたいと思って、一生懸命頑張ってきた。それなのに何でお前が」というお話は、学校長か、教育委員会の人事にお願いします。ま、私が「Q高校には値しない」というのはその通りで、しかも希望しているわけでもなく、内々示からの変更だったわけで、個人的には「最大の被害者は私」という思いはありました。
 その騒動が終わると、H先生が「美術準備室においでよ」と誘ってくれ、コーヒーを出してくれました。
 「言ったとおりになったでしょ」とはH先生の言葉。
 H先生からは、以前、こんな話を伺っていました。
「(私)先生は、出世志向ないでしょ。わかる。でもね、40歳を過ぎたころ、あなた自身の希望とは関係なく、道が二つに分かれてくる。一つは、あなたの希望する平教員として授業と研究とを全うする道。もう一つは、管理職とか行政とかに進む道。40歳を過ぎたころ、その岐路がやってくる。僕は、美術教員として授業と創作とを選んでもう一つの道は断った。ただ、断ったことで人事的な仕打ちはあった。逆らったからだね。」
「(私)先生にも、近々岐路がくる。その時、うまく立ち振る舞うんだよ」

 私は、内々示からの逆転だったことを告げました。
 「(私)先生、かなり高く評価されているみたいだね。でも、うまく嵌められたね。今は、そういうやり方をするのか。内示段階では断れないもんね」
 事務引継ぎではQ高校の学校長から、「東大現役合格を20人以上に」というお話がありました。そのこともH先生に告げると、「きっと、そういうことを可能にできる先生を集めたのでしょう」と…。
 しらんがな。

◆後日談2
 ちなみに、職員室内ではたくさんの敵を作ったQ高校への異動ですが、妻にはこんなことが…
 「ご主人、Q高校の先生なんですか」と言われ、ご近所の方の愛想がとてもよくなったそうです。小学生・中学生のお子様を持つ家庭では、やはりQ高校に進学させたいと思うようです。ご近所には、そのために引っ越してきた方もいます。そういうことみたいです。もちろん、妻は腰の低い対応を怠りません。私も以下同文です。
 
 現在、教員は早期退職して、別のお仕事をしています。
 ただ、転職の際評価されたのは「Q高校にいたこと」。これが採用への足掛かりとなりました。
 このことは、いつか機会がありましたら。

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