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⑤春の嵐〈Nem’oubliez pas〉

4月はあっという間に春を連れてきて、中旬にもなると、今度は春を連れ去ろうとしている。

 Nem’oubliez pas   私を忘れないで

フランス語では、桜の花言葉を「Nem’oubliez pas」と言うらしい。日本語訳では、私を忘れないで。

Je prie pour que vous ne m'oubliez pas
"どうか私を思い出して"

別にね、悲しい別れだけではないと思うよ。一時も忘れないで…そんな意味合いで捉えたい今日この頃だ。

彼が日々そうであってくれたら、どんなにか幸せだろう。藤原灯はランチのクロワッサンサンドを頬張りながら、彼のことを想った。

今日は八重桜満開のカフェでランチ


アメリカでは「spiritual beauty(精神の美)」「a good education(優れた教育)」という花言葉があるそうだ。

公園では「八重桜」が満開だった。花が重なって咲き、ふんわりと丸いフォルムに見えることから「牡丹桜」とも呼ばれる。一重咲きの桜よりも少し遅く咲き、今が見頃だ。

この八重桜が散れば、季節は梅雨に向かっていく。彼と彼女の季節。大切な月。

それまでには、彼も灯も身辺が落ち着くかな。灯は仕事にだいぶ慣れてきて、ガハハとも協力し合いながらそれぞれが仮契約を取り続けている。新米である灯の頑張りの結果が出るのは来月かな?ゆったりペースではあるものの、少しずつ本契約も出せるようになってきたところだ。

人間関係も恐れていたほどでなく、ほどよくうまくいっているように思う。三社がそれぞれの文化やルールで仕事をしており、うまく息をあわせながらの仕事。三本の矢がうまく合わさって、いい結果を出せるよう、お互い心遣いしながら慎重に進めている。


先週、彼と喫茶店デートをしてきた。待ち合わせしていたいつもの喫茶店には、床屋さんへ行ったばかりのスッキリした髪型の彼が先に入店して待っていてくれた。

藤原灯は、ジロジロと彼を見た。そんな時彼は、なにか御用ですか?といつも言う。ニタニタと笑みを浮かべて、彼を見るのが好きだ。

アヒルのように口を尖らせて、彼を見ていたら、なにか不満でもあるの?と彼が言う。な~んにも!と私は答えた。

頬杖をついて、口をぶーっと膨らませて、彼を見た。なにかあった?と聞いてくれる。何もない、口をこーやってるだけ、と灯は答えた。

変顔をしながら、彼の顔を見ていたら、楽しくて…。ぶちゃいくな顔して、ごめんなちゃいね。

そんな土曜日の昼下がり。

灯の家まで車で送るよ、と彼。だんだんと自宅が近づいてきて、灯は唸り声をあげた。うーっ。獣のような声。どうした、どうした?と彼が聞いてくれる。好きなの!灯はそう答えると、わかった、わかった、と彼が呆れ顔で助手席の灯を見る。

運転の邪魔をしないように、灯の一本指を彼の掌にくっつけた。だんだんと肌の表面積を広げて接地面を増やしていく。彼に気づかれないように、少しずつ少しずつ。

こうやってデートしても1回もキスしてくれないのに、手と手で繋がる幸せ。こんな気持ちにさせてくれる素敵な人を好きになれてよかった。

自宅近くについたら、もう1軒喫茶店へ行こうと喫茶店のハシゴ。どんだけ珈琲が好きな二人やねん♡

えへへ。らぶゆー。灯は顔を真っ赤にして、喫茶店に入る彼の後ろ姿を追いかけていった。

↑本文とは関係ありません(笑)


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