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【個人投資家の映画評】ウォール街(1987年公開)

個人投資家の視点で映画やドラマの感想を時々記事にしてみようと思う(表題は映画評だが、評価できるほどの映画通ではないので感想になる)。息子である君にも観て欲しい映画を取り上げていくつもりだ。また、すでに観た映画は、ただの観客とは違う投資家目線での感想を知っておいてもよいだろう。なお、自分の主な投資先は米国市場なので洋画が多くなりそうだ。

最初に取り上げる映画は「ウォール街」

noteでのネームはこの映画の悪役にして主人公であるゴードン・ゲッコーから拝借している。40年近く前の古い映画だが、投資家であれば一度は見ておきたい。

監督は前年に戦争映画の「プラトーン」でアカデミー監督賞を受賞しているオリバー・ストーン。ゲッコーを演じたマイケル・ダグラスはこの映画でアカデミー主演男優賞を受賞しているが、主人公はもう一人いる。チャーリー・シーン演じる駆け出しの若手証券マンだ。

ストーリー
いつも金欠でチャンスを掴み出世したい若手証券マンが、企業買収や不動産投資などで巨額の利益をあげる投資家ゲッコーに取り入ってインサイダー取引に加担していく。

そして不正の片棒を担ぐ見返りに仕事を分けてもらい、リッチになって高級アパートを購入し恋人まで手当してもらう(その恋人はゲッコーの愛人)。さらに自分の父親が労働組合長を務める航空会社まで買収させるが、実は会社は解体されることになると知ってゲッコーを裏切り、大損させた上に司法取引で証券取引委員会に売り渡すというものだ。

公開当時、自分はまだ学生だったが映画館では観ていない。同級生が狙っていた後輩の女の子を誘って見に行ったものの、二人とも株取引の内容がさっぱり分からなかったと話していたのを覚えている。確か彼は経済学部だったはずなのだが・・・

そして二人が付き合うことはなかったと記憶している(初デートで見に行く映画のチョイスは大切ダ)

感想
自分が初めて観たのは社会人になって投資をはじめたばかりの頃だった。そのため株取引の話は半分くらいしか理解できなかったが、マイケル・ダグラス演じるゲッコーのカッコよさに痺れた。

あんなに自信に溢れて頭の切れる上司には未だお目にかかったことはない。そして「お金に貪欲」以外は意外と人間臭くて魅力的な人物だ。自分勝手で我儘で言葉巧みに人を自分の手足のように使う。しかし美術品に造詣が深く教養もユーモアもあり、決断力があって演説も上手く、愛人がいる一方で息子を大事にしている忙しい男だ。

しかし孤独を抱えてもイル。主人公をいいように利用して見えるが、実は自分のよき理解者・後継者になって欲しかったのではないかと思う。このあたりはストーン監督の見せ方とマイケル・ダグラスの演技力によるものだろう。

投資家目線とは何の関係もないのだが、今から40年近く前のNYの映像が素晴らしい。9.11のテロで崩壊した世界貿易センタービルが健在で、これがやはり絵になる。古い映画の街の景色はアーカイブの役割を果たす。自分が初めてNYを旅行した頃を懐かしく思い出した。

当時は日本がバブル経済で世界を席巻し始めた時期だけあって日本に関係するシーンが度々登場する。東京市場の株価の話が出てきたり、ゲッコーが商談している相手も日本人とおぼし東洋人だ。主人公が恋人と寿司を食べるシーンも出てきたりする。

この時代の映画に出てくる東洋人のビジネスマンは日本人が多かった。「クロコダイルダンディー」に出てくる空手使いの日本人とか「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2」で主人公をクビにするのも日本人だった。今では考えられないほどJAPANは強くイケイケなイメージだったのだ。

ちなみにマイケル・ダグラスはこの映画の後に公開された故松田優作の遺作「ブラック・レイン」にも出演している(当時は反社勢力の方々も米国進出していたようだ)

80年代後半は米国が高インフレで傷んだ経済から立ち直りつつある時期だったが、同時に現在に通じる株主重視に偏り過ぎた資本主義が台頭しゲッコーのような乗っ取り屋達登場した時代でもあった。

監督であるオリバー・ストーンはそんな過剰で強欲な社会に批判的な立場でこの映画を撮ったが、結果的にゲッコーに憧れて投資銀行を目指す若者が増えたそうだ。映画のストーリーとしては強欲な投資家が古きよき企業の労働組合長とその息子にハシゴを外されて転落するので監督の意図どおりなのかもしれない。

しかし、投資家目線ではどうだろうか?
この映画で一番有名なセリフ「Greed is good.(強欲は善だ)」のシーン

業績不振の製紙会社の株主総会で33人の役員を相手にゲッコーが演説をする中で語られる。このセリフだけを切り取るといかにも悪役のセリフだが、業績不振なのに33人もの役員が高額な報酬と経費を受け取っていることを疑問視する中でのセリフだ。結果的にいかに経営陣が無能で、時間とお金を浪費しているかが伝わり株主から拍手喝采を浴びて支持を取り付ける。

自分が株主だったとしても拍手を送ったろう。

これって80年代の米国企業のハナシだけど、日本企業は多くが今でもそうではないのだろうか?

東京証券取引所に上場基準を厳格化されるまでの失われた30年間、多くの日本企業の経営陣は株主である投資家が何も言わないのをよいことに利益を株主にも従業員にも還元せずひたすら溜め込んだ。その額は上場企業だけでも140兆円とも言われる(2023年末時点)

適切な投資をせず海外企業にシェアを奪われ、買収した海外企業では大幅な減損を出し、値下げを繰り返してブランド価値と人材価値を下げ続け、無理な目標を現場に押し付けて品質不正を繰り返し、非正規労働者を増やす一方で長時間労働により生産性を下げてきた30年間だった。

そのような無能な経営陣たちは株主と従業員に対して責任を果たしてきたのだろうか?そして株主や従業員はそんな経営陣を黙認していたのではないのか・・・

不正に手を染めて相手の無知に付け込むゲッコーのやり方は間違っているが少なくともこのセリフの場面で彼は間違ったことは言っていないと思う。

事実、停滞した80年代を痛みを伴う変革によって切り抜けた90年代以降、ITバブルやリーマンショックを経験しながらも米国企業は成長軌道に乗ることになるのだ。

ゲッコーから取り戻した主人公の父親の航空会社だが、米国の航空業界はこの時期に航空自由化が進み、多くの航空会社が合併したり倒産している。かって米国を代表するフラッグシップで昭和世代に馴染み深いパンアメリカン航空でさえ1991年に経営破綻した。同社の組合が強く高コスト体質の経営がアダとなったとされている。

果たして主人公の父親の航空会社は生き残れたのだろうか

そして日本企業も80年代の米国企業のように痛みを伴う変革を経験し、もう一度輝きを取り戻すことができるのだろうか。

今の株高が一時的なもので終わらず、君が社会に出る頃に日本企業がまた世界からリスペクトされ一目置かれる存在になっていることを願ってイル。

この映画には続編があるが、評価が今一つなので観るのをためらってイル。お気に入りの映画の続編がツマラナイと悲しい気分になるノダ。

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