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キャンドルの"スス"について

前々回の記事「ソイワックスについて」では、ソイワックスの特徴を自分なりに整理してみました。
その中でムクムクと沸き起こってきた疑問点2つ↓↓

①ソイワックスはなぜパラフィンに比べてススが出づらいと言われている?
②ソイキャンドルを点火することで本当に空気の浄化作用はある?

…のうち、今回は①のススについて追加で調べたことをまとめてみようと思います📝


<ススとは?>

◆ ススの構造

前回の記事の中では単に「ススは、炭素(C)の微粒子です。」とだけ記しましたが、今回はもう少し深堀してみたいと思います。

Someyaさんの論文によると、ススを分析してみた結果、その微細構造はアモルファス(非結晶)とグラファイト(結晶性炭素)の間の形態を有していると考えられたとのこと(Advanced Combustion Science, pp.166-167, 1993)。

ここで、非結晶の方の構造を示すのは難しいので、結晶性のグラファイト(黒鉛)の方だけイメージ図を載せると・・・

サイエンスストックさんのHPより引用

こんな感じで、六角形に結合した炭素(C)が層状に連なっているようです。

六角形の炭素と言えば、ベンゼン構造(芳香族化合物)ですね!

トライイットさんのHPより引用


この構造が一つのポイントとなりますので、チェックしてください!


◆ ススの発生に関する情報①

少し古い本を参考にしたので、もしかしたら最新情報ではもっと詳細がわかっているのかもしれませんが、以下に参考文献からの一説を引用します。

すす発生のメカニズムは、長い研究の歴史の中でも、まだ明らかにされていない大きな問題の一つである。有力な説としては、燃料分子が熱分解、あるいは部分的な酸化反応により、気相でPAH(多環芳香族炭化水素)が生成され、それが凝縮して初期のすす核を形成するというものである。

燃焼現象の基礎/新岡ほか(編), p285より

つまり、燃焼によって「芳香族炭化水素」ができやすいことが、ススの発生のしやすさの原因の一つになるということになります。


◆ ススの発生に関する情報②

ワックスの燃焼に関するものではありませんが、子供向けの本で油脂の種類によってススの発生のしやすさの違いがある点についてわかりやすく解説している本を見つけました!

あかりと油 ~油をもやす / 板倉 聖宣 (著)

詳しくはぜひこちらの本をご覧になっていただきたいのですが、この本では油脂の構造中の「二重結合の数」に着目して、オイルランプとして利用した時にススが出やすいもの/出にくいものの違いが説明されています。

二重結合を形成していない炭素(C-C)は、燃焼時速やかに空気中の酸素(O2)と結合して二酸化炭素(CO2)になる(≒ススにはなりにくい)が、二重結合になっている炭素(C=C)はそこから六角形のベンゼン環構造になりやすい(=ススになりやすい)とのこと。


◆ ススの発生に関する情報③

再び小難しい方の本の情報に戻ると・・・

すすの発生は、燃焼中に炭素が主成分として含まれる物質を燃焼した場合に見られる。・・・(中略)・・・分子中に酸素が含まれると、すす発生は少なくなる。COはすすを発生しない。

燃焼現象の基礎/新岡ほか(編), p282より

なぜ酸素が含まれるとススの発生が少なくなるのかまではここでは書かれていませんが、やはり炭素が酸化されやすくなる(CO2として飛んでいける) = スス(芳香族化合物)になりにくいのではと考えられます。


<各ワックスの構造>

以上の情報から、「二重結合した炭素の有無」と「分子中に酸素がどれだけ含まれるか」が、キャンドルとして燃やした時のススの出やすさに直結するということが分かりました。

そこで今一度、パラファイン、ソイワックス、蜜蝋の主体となる分子構造を整理してみることにします。


◇ パラフィン

パラフィンの主成分は直鎖状炭化水素。
分子式で表すと「CnH2n+2」で、構造を図示すると以下のようになります。※いわゆる "構造式" ではなく、もう少し直感的に分かりやすいよう図示しました。

パラフィンの主成分のイメージ図

ただひたすらに、C(炭素)とH(水素)が繰り返されていることが分かります。

この中にはスス発生のカギとなる「二重結合した炭素(C=C)がなく、ススを発生しにくくする「酸素分子(O)もないように見えます。

※パラフィンは石油から精製した物質であるため、石油中に含まれる芳香族炭素などが不純物として混ざっているということはあり得ます。


◇ ソイワックス

ソイワックスは、以前の記事で紹介したとおり、リノール酸を主成分に持つ大豆油を水素付加によって固形化したものです。

リノール酸の構造(富士フイルム和光純薬(株)のHPより)



水素付加の反応図(「世界は化学であふれている」第2.3章の図-14より引用)


もう少ししっかり説明すると、油脂はリノール酸のような高級脂肪酸1~3つが、1つのグリセリンにエステル結合したものですので、以下のようなイメージ図になります。

油脂の構造のイメージ図(農林水産省のHPより引用)


このようにみると、ソイワックスは水素付加によってどれだけC=C結合が減っているかによって、ススの出やすさに違いが出てきそうです。

もう一つのカギ「酸素分子の存在」については、パラフィンに比べると多い(=ススが出にくそう)ことが分かりました。


◇ 蜜蝋

蜜蝋(日本で流通しているヨーロッパ系ミツバチのもの)の主成分はパルミチン酸ミリシルです(化粧品用油脂の科学/廣田(著), p41より)。

パルミチン酸ミリシルの構造は以下のようなものです。

パルミチン酸ミルシルの構造

蜜蝋はこの他に、遊離脂肪酸(R-COOH)、遊離アルコール(R-OH)、炭化水素を含んでいるとのこと。

これだけ見ると、①ススの発生に直結するC=Cは少なそう、②酸素は比較的多く含まれている(=ススが発生しにくい)ということが分かります。


<結論>

以上の情報から推察すると・・・

★ パラフィン

精製度が高く、純粋な直鎖状炭化水素のみで構成されたものはススは出づらいはず。ただし、酸素分子を含んだ構造をしていないためソイワックスや蜜蝋に比べるとススが発生する可能性が高くなると考えられる。

★ ソイワックス

水素付加の度合いによってはススが発生しやすくなる可能性もあるが、分子内に酸素を持っているため、パラフィンよりはススが発生しにくい可能性が高いと考えられる。

★ 蜜蝋

今回得た情報の範囲で "可能性" という点だけで考えれば、3種類のワックスの中では一番ススが出にくいと予想される


今回いろいろ調べてみて、なんだかちょっとスッキリしました✨

長文、最後までお読みいただきありがとうございました!

以下は過去の記事のリンクとなっておりますので、よろしければこちらも覗いてみて下さい♫

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