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【#4】”めんどくさい”は老ける お惣菜やお刺身も盛り付けて晩酌

 スナックでのアルバイトは、萌花にとって生活の刺激になった。キャバ嬢・ホステス、夜のママたちは色々と偏見を持たれるが、それでも萌花はスナックでのお仕事を肯定的に捉えていた。
 聖子ママの華やかな感じの裏には、地味な努力が見えた。毎日お客様を持て成すための、おつまみの仕込みから、日々に刺激を感じてもらえるようにイベントを考えたり、問題のあるキャストの悩みを解決に導けるように寄り添いながら、仕事をしてもらっていたり。その働きぶりは、朝から夜中まで休む暇がほとんどないはずなのに、生命感あふれていた。そして女性としても若さを保つ努力をしていた。

 聖子ママから連絡があった土曜の朝。
📱凛華ちゃん、こんにちは。明日ってお昼のお仕事ないかしら?もしなかったら、ちょっと買い出しに付き合ってもらえないかと思って。都合はどうかな?
と、「申し訳ございません」と、土下座で謝る金髪の女性のスタンプが送られてきた。ちょっと笑っちゃう。
 明日はシフト休みだし、予定はガラ空き。萌花は快諾。

「凛華ちゃん、本当にありがとう!助かったわ~♪」と、一通りの買い出しが終わって、カフェで一息。

Unsplashのdaan eversが撮影した写真

「いえ、いつもママにはお世話になっているので、こんなことでお力になれるなら喜んで」と笑って答え、ハート型にラテアートされたカフェラテを、静かにすすった。
「萌花ちゃん、本当に予定とかなかったの?彼氏さんとか、、、いるんじゃない?ん、美味しい♬」と、ママも萌花と同じようにカフェラテをすすりながら、セットで頼んだイチゴショートケーキを頬張った。
「今は、フリーなんです。残念ながら。前に4年付き合っていた人がいたんですけど・・・もう別れて・・」と、少し俯いて、目を少し伏せながら悲しそうに笑った。
「4年かあ、長いね~♪凛華ちゃん一途な感じするわ~。でも凛華ちゃんなら、また、いい人すぐできるわね!」
聖子ママは、凛華に男ができていないと確信した。お客様との恋愛トラブルだけは凛華には味わってもらいたくないと常に思っていた。
「そうですね・・・。また恋愛ができたらいいんですけどね。でも今は、夜お仕事させてもらって、男性の勉強もさせてもらってます。」
「そうねえ、色々と勉強になるわよねえ。お客さんの口説きも、凛華ちゃんうまく受け流してるわよ。お客さんは、いい人もいるんだけど、結局、飲み歩いているってことだものね。恋愛だと、ちょっと心配だし幻滅もあるかも」と、意地悪そうに笑って話す。
「さすがママ。案外、盲点ですよね。アドバイスが鋭いです。」と、ママの言葉が腹に落ちた。
「私も色々、女の子のお客さんとの恋愛トラブル聞かされて相談にのったこともあったんだけど。いろいろと。もし凛華ちゃん、何かあったら、何か起こる前でも、心配事とかあったら相談してね。凛華ちゃんには泣いてもらいたくないんだから」
「なんだかママがいると、心強いな」
「ふふふ♬そうでしょ」
二人は、優しい時間を過ごした。
「さて、もうひと踏んばり。ヘイ!タクシ!って言いたいところだけど、ケーキ食べたから、歩いてお店に向かおっか。」とママは大きな買い物袋を二つ抱えながら軽やかに言った。
 聖子ママは面倒くさがらず、マメさがある女性だと萌花は尊敬していた。今日はジーンズとスニーカーというカジュアルなスタイルの聖子ママだったが、メロン色から桃色へのグラデーションになっているニットと、ハートのボディバックのキュートさが目をひいた。可愛らしさを忘れないオシャレな女性としてとても参考になった。

 萌花にはひとつルールができた。女子力UPにもつながるルール。それは、
”面倒くさい”と言わないでやること。聖子ママを見ていて学んだことだ。面倒だと思うことは、逆に、細やかにしなきゃならないことだったり、丁寧に扱わなければならないことであったり、生き方で大切なことが多いような気がした。

 萌花の座右の銘は、”面倒くさいは老ける元”になった。ママのお手伝いをして、帰りが少し遅くなった。ママが萌花に、今日のお礼と、ウインクして、冷えたスパークリングワインを1本プレゼントしてくれた。
 自宅へ戻り、ママからもらったロゼスパークリングワインを冷凍庫へ冷やした。今日は、ご飯を作ってる時間がないな・・と、自転車へ乗って、いつもの”すずはなマート”へ。今日はお惣菜コーナーの・・・これにしよう♪
金賞受賞のシールが貼られたすずはなマート、オススメの唐揚げ380円。オレンジ色の買い物籠の中に入れ、続いて足を向けたのはお刺身コーナー。値引きの時間のチェックは外せない。嬉しいことにサーモンが半額になっている。迷わず大好物サーモンを籠にいれた。今日はコレで飲もう♪

 家に帰り、今日の晩酌を準備。萌花のルールはここでも発動する。お惣菜やお刺身も、必ずお皿に盛り付けること。パッケージのままでお箸でつまむことはしない。お皿に盛り付けるだけで、おひとり様でも、丁寧に、食事を味わうことができて、お酒を楽しむことができる。

<本日の晩酌>

  • ママのロゼスパークリングワイン

  • すずはなマートの唐揚げと昨日の残りのレタス&サラダほうれん草

  • 3日前に漬け込んだトマトと人参の酢漬け

  • サーモンのお刺身

<トマトの酢漬けは萌花の簡単おつまみのお気に入り。>
❶ミニトマトの葉を取り、その部分に浅く十字に切り目を入れる。
❷沸騰したお湯にミニトマトを入れ、薄皮がめくれる感じが見えたら、冷水に浸す。
❸皮をむいて、市販の簡単酢に漬け込めば数時間でおつまみの完成。

ママからプレゼントのロゼスパークリングワインを冷凍庫から取り出し、シャンパングラスへ注ぐ。透明な珊瑚色。キレイ。まるで恋を連想させる。

ロゼは恋の色

サーモン、うーん、サイコー。

つまが入っていなかったからサラダほうれん草を飾って

今では、失恋の傷をお酒で癒すではなく、ちゃんと丁寧に、晩酌を楽しめるまでにはなった。美しく彩られたグラスを見つめたて、ぼんやりと思った。
恋愛、またできたらいいな。

来い、来い、恋。両想いというのは奇跡的なものなのだ。シャンパングラスを手に取り、一口、もう一口。萌花は、冷たくて、繊細な泡が喉で弾けるのを何度も感じた。

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