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#13 著者を口寄せして憑依させるイタコになれ

しがないエロライターだった俺が、ベストセラーのゴーストライターに成り上がるも、やがて朽ち果てるまでの軌跡を振り返るとともに、それを戒めとしてライターとして大成するための極意について書く。

ゴーストライターとしてこれまで何冊も書いてきたが、著者から言われて一番うれしかった言葉がある。

「まるで自分で書いたみたい」

この言葉は未だに忘れられない。
本当にうれしかった。
商売っ気抜きで、その仕事を引き受けて良かったと心から思った。

仕事には妥協がつきものだ。
時間を気にしなくていいのなら、どこまでも理想論を語ることはできるが、現実問題として、どこかで折り合いをつけて先に進めていかないと、締め切りに間に合わない。
俺もガキじゃないんで、そんなことは百も承知だが、やはり納得できないことは書きたくない。

もちろん、本は著者のものだ。
その専門分野においてはプロではあるものの、書くことに関してはプロではない著者に成り代わって、書くことに関してはプロの俺がお手伝いをする
ざっくり言えば、それがゴーストライターの存在意義だ。
しかしそれは決して、「著者の言いなりになる」こととイコールではない。
だって、読者あっての出版業界だもの。
「いいから、俺の言う通りに書け」と言われても、納得できないことは書けない。
それは読者に対する裏切りだと思うから。

例えば、「AをすればBになる」と著者が言ったとする。
その話を聞いて、「なるほど、すごい発想だ!」と思えば何も問題はないわけだが、「え、それはなぜに?」という疑問が浮かぶことは普通にある。
そのときの「?」をスルーするライターは、まずいない。
いたとしたらその時点でインタビュアー失格だ。

普通は、「え、どうしてAをすればBになるんですか?」と聞く。
問題は、著者が理路整然とした論理的な説明で、こちらを納得させてくれるかどうか。
著者からの説明を聞いたら、すごく納得できた。
こんなときは最高だ。
仕事終わりのビールが美味い。
だって、そのときのQ&Aは、そのまま「いい原稿」になってくれる。

ただ、一度や二度の説明では納得できないことも多々ある。
納得できないケースは、大きくわけて4パターン。

(1)「AをすればBになる」ことができる人や場面が限定されすぎて、汎用性や再現性に欠けるケース
(2)著者の経験則に依るところが大きく、論理的な説明が困難なケース
(3)著者の日本語が不自由すぎて、何度聞いても意味がわからないケース
(4)何回試してみても、「AをしてもBにならない」ケース

結論から言う。
(1)と(4)の場合、記事にしない。
聞かなかったことにして、ばっさりカットする。

そのほうが、著者にとっても読者にとっても得だと思うからだ。

さて、問題は(2)と(3)のパターン。
もちろん、「AをすればBになる」という方程式が持つ社会的価値の大小にもよるが、俺の場合、基本的には「納得するまで(何時間でも)聞く」ようにしている。
だから必然、取材にかける時間が長くなってしまうことが多い。
1冊の本にかける平均的なインタビュー時間は10時間(2時間×5回)と聞くが、俺の場合、15~20時間に及んでしまうことも少なくない。
なので今は仕事の依頼があった段階で、「納得できるまで話を聞かないと気がすまない性格なので、インタビューが長くなるかもしれませんが大丈夫ですか?」と伝えるようにしている。
後になって、「こんなやつに頼むんじゃなかった」と思われても困るし、お互い無駄な時間は省かないとな。
ちなみにだけど、「じゃあやめときます」と断られたことは一度もない。
むしろ、「しっかり話を聞いてくれる良心的なライター」と、好意的に受け止めてもらっているようだ。

多忙な著者の貴重な時間を拝借させてもらうことになるので、その恩に報いるために、そして著者の考えや理念を、まるで著者が読者の目の前で語りかけてくれているように伝えるために、俺がライターとして心掛けていることがある。
それは、「著者が憑依する」くらい、その仕事に集中することだ。
おこがましい言い方になってしまうかもしれないが、執筆中は「俺が著者本人」くらいの気持ちになれるまで、気持ちを高めていく。
そうなれるように準備する。

このコラムで何度かしてきた、「話すように書く」というライティング技術。
今、この文章は自分で自分のことを書いているので、俺は今、読者の皆さんとおしゃべりしているような気持ちで書いている。
この論法で言えば、ゴーストライターとして執筆する時は、著者に成り代わってというレベルを超えて、「著者に取り憑かれた人間」となって読者に語りかける、たとえるなら著者と読者を結ぶイタコのような存在になりたいと、いつも思っている。

ところで、俺に「まるで自分で書いたみたいだ」と言ってくれたのは、俺の唯一のベストセラーであるハウツー本の著者だった。
そして、これはとても大切な部分だが、その言葉を聞いたのは、執筆を終えた直後。
つまりベストセラーどころか、まだ俺の書いた原稿が印刷所にも行っていないタイミングでのことだった
発売後、あれよあれよとその本は売れまくって、分不相応なお金にじゃぶじゃぶ浸かるうちに俺は初心を忘れていく。
そして人としても嫌なヤツになっていく。

そんな俺に今、ライターとしての初心をいつでも瑞々しく思い出させてくれるのは、ベストセラーになる前のタイミングで贈られた言葉だったことが、とても大きい。


【プロフィール】
50代のライター。
出版業界でエロ仕事を任されたことが転機となり、ヤリチンロードを爆走。
浮気がバレて30代前半でバツイチになるも、返す刀で当時の愛人の一人と結婚。
子宝にも恵まれ、ささやかな幸せを漫喫しつつ、ヤリチン癖は健在。
現在、20代のOLと絶賛不倫中。

ツイッター https://twitter.com/mogajichan

【著書】
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