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山内マリコ「あのこは貴族」感想〜現代の階級社会と女性の生きづらさ〜

*ヘッダー画像は、「Pixabay」を使用
https://pixabay.com/ja/photos/東京タワー-東京-日本-タワー-5664846/
注: 軽〜いネタバレがあります。

映画化もされた、山内マリコさんの小説「あのこは貴族」。
この小説は、一見現代の格差社会を描いた小説のように見えるが、本質は女たちの生き辛さと、そして女同士の絆と友情の物語だと思った。

作中で美紀から語られる様に社会に、そして男たちに、分断される女たちであるが、その中でも微かな希望の様に女たちの絆が描かれる。

美紀と平田さん、華子と相良さん、そして1人の男を巡っては利害が対立するがお互い「義理」を示そうとした美紀と華子。

美紀が現代は、否、現代も、「格差社会でなく階級社会だ」と感じた様に、東京と地方、富裕層と中流階級という厳然としたコントラストが描かれるが、
同時に、その様な階級社会の中で、更に男から差別される女という存在の生きづらさが恐ろしくリアルに描写される。


主人公の1人、美紀は成績優秀だが、元漁師の父親は女が勉強する必要はない、というスタンスであり、
家の経済状況も相まって、猛勉強の末に入学した慶應大学をドロップアウトする。

地方から進学のため上京したものの、東京に住む生活費、学費を捻出するためにバイトに追われ、夜の仕事に手を出す、というのは何ともリアリティのある話である。

東京は若い女の子をいとも簡単に搾取し、堕落させようとする大人でひしめき合っている。

美紀の描写は、比較的多くの女の子が程度の差こそあれ共感できるものだろう。
美紀の様な女の子は、幸一郎が言った様に「東京に沢山いる」。


もう1人の主人公は、松濤の開業医の箱入り娘の華子。

どこか浮世離れしたキャラクターであり、地方から出てきた成り上がり組の自分はこのキャラクター描写がリアリティーのあるものかどうかもいまいち分からない。

ただ、依存的で自己主張ができない性格、結婚さえすれば全てが解決するという思考、は華子のような上流階級でなくとも、女の子が陥りがちなものだろう。

保守的な華子の家族が、華子のこのような傾向を増強したことは言うまでもない。


この美紀と華子は、全く生まれも属性も性格も違う2人なわけだが、幸一郎という実家も裕福なエリート弁護士を間に挟んで、接点ができることになる。


面白いのは、美紀は幸一郎にとって都合の良い遊び相手だったわけだが、華子は幸一郎にとって都合の良い結婚相手だったという描写である。
結婚相手は本命だと一般的には言われており、それは別に間違ってはいないのだろうが、結婚相手を選ぶ時も多くの男は結婚相手として都合がいい女、つまり従順で家事や育児をやってくれそうな女、を目ざとく選んでいる(他方で、女も結婚する時は相手を打算的に選ぶことが多いと思うし、この辺の判断基準は人それぞれではあるが)。

男にとって結婚とは、自分の名字を名乗り、自分を主とした「家族」の中で自分の「下」に存在し、自分の面倒を見てくれる存在を探すということだ。

多かれ少なかれ、自分たちの親をロールモデルとして真似しようとすると自然とそうなっていく。


この小説では結婚からの解放、という描写もある。これは同時に男へ依存することからの解放、という側面も含んでいる。

その解放のための希望として、女たちの絆が将来の希望の灯火のようにうつる。

著者が描きたかったのは、この女たちの解放なんだと感じる。

(これは、ディズニーが「アナと雪の女王」で描いたテーマでもある。)


ところで、この小説には華子、美紀、平田さん、相良さんといった女たちが具体的言動も内面描写もリアリティを持って描かれるが、男たちの存在感は全体的に薄い。

女たちを支配しているし、幸一郎の祖父などは一家の支配者として君臨しているが、あまり深くは語られない。

この小説が、基本的には女たちを主役にした女たちの物語だから、というのもあるだろうが・・・この男たちのあっさりした描写は見覚えがある。

そう、男たちの書いた小説の中での女の扱いだ。内面が掘り下げられることはなく、都合が良くステレオタイプで男に付属する存在の女たち(もちろん、ちゃんと女性を描く男性作家もいる)。

この小説における男性の描写は、そういった多数の小説における女性の描写に対するミラーリングなのかもしれない。


ところで、華子と幸一郎の新居が豊洲のタワマン、というのはややズッコケる描写だった。華子自身も「江東区の埋立地に住むのは気が引ける」旨感じていたが、これだけ資産家の子弟同士の新婚さんの新居なのだから、せめて広尾、麻布あたりの低層マンションなどにすればいいのに。

豊洲は新興埋立地であり、地方出身の成り上がりや不動産投資目的の外国の方が多い印象がある。
地盤の悪い陸の孤島を、無理に再開発してデベロッパーが無理にブランド化した場所という、勝手な印象を持っているので、ちょっとどうなのと(個人の感想です)

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