ショートショート19 進路選択
進路選択
中3の第1回目の三者面談が数日後にある。晩ご飯の時母が
「そろそろ面談だけど受けたい高校決めたの」と言い出した。2年の時からいきたい高校ははやめに決めて、勉強頑張んなさいとよく言われていた。
徹はそう言われるたびに、うるさいなぁと思っていた。でも、高校は卒業しないとまずいとも思っていた。
今はいきたい学校はあるが、両親が賛成してくれるかどうかわからず言えずにいた。
中2の時の職場体験で徹は木工作業をする会社にいった。お手伝い程度だから、木材を運んだり、おがくずの掃除をする程度だったが、体験の最後に、木彫りをやらせてもらった。徹は勉強は好きではないが、手先は案外器用な方だった。
すでに鳥の形になっている木材に、彫刻刀で羽や目を入れる作業だった。羽を広げた格好のとか閉じてるのとか飛んでいる途中の羽の形をしたものとか、様々なものがあった。
「好きなものに好きなように彫っていいぞぉ。鳥の羽はこうじゃなくちゃいけないってことはないからな。怪我だけはするな。先生に怒られちゃうからな、俺が」
一緒に行った洋喜は
「おれこういうの苦手だからうまくできないです」と言った。
「うまくやろうとなんか考えなくていいんだよ。想像の世界でもいいんだよ。君らの個性を出してみて」
なおさら難しくなったような気がしたが、徹は少し興味がわいてきた。《こうでなくちゃいけないということはない》という言葉がとても心地よかったからだ。
徹は飛んで羽を広げている鳥を選んだ。(どうやって彫ろうかな。普通だったら羽の向きが揃ったように彫るんだろうな)と思ったが、徹は、羽が不揃いで、こんなんじゃぁ落ちるだろうというふうに彫ってみた。目は漫画ふうに三角ぽく彫ってみた。
これを見た洋喜は
「これじゃぁ飛べないだろぅ~。落ちる落ちる」
「いいんだよ。おれの世界の中の鳥なんだから。目は風と闘う目で三角にしたんだから。洋喜のを見せてみろよ」
「やだよ。おれのは下手だから」
洋喜の鳥は、羽を閉じた鳥でごく一般的な、電線に留まっている鳥のようだった。
「お~い。できたかぁ。そろそろ帰る時間だよな」と会社の人が見に来た。
「お~! 二人とも個性が出てていいなぁ」
「えっ! おれのは下手くそじゃないんですか?」と洋喜が言った。
「下手くそ? いやぁ~。一生懸命に彫ったあとを感じるよ。下手くそじゃないよ。個性だ個性。同じ羽の鳥はいないだろ。人も背の高い人もいればそうでない人がいるのと同じだよ」
そう言われて洋喜もまんざらでもない表情に変わった。
「おっ! こっちはまた斬新だな」
「こんなんじゃぁ、飛べませんよね」と洋喜が言う。
「さぁ、それはどうかな。渡り鳥なんか何万キロ飛ぶからな。見たことない羽の動きがあるかもしれないぞ。なかなか面白い。想像がふくらむな」
徹は素直にうれしかった。上手とか下手とかで評価されない世界があるんだということを知った気がした。自分にも何かができるような気もした。
それからは、徹は物づくりに興味を持つようになった。自分の世界を表現する魅力を感じていた。高校は普通科ではなく、工芸科のあるところにいきたかった。そこで自分の力を試してみたかった。
「高校なんだけど、普通科でなくて工芸科にいきたいんだよ。ものづくりをしたいんだよ」
「えっ! あなたは何を目指してるの? 芸術家?」
「自分の興味を広げて、どこまでやれるか知りたいんだよ!」
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