月のアイスキャンディー

あまりの暑さに、冷凍庫で凍らかせておいたお月様をすり潰す。側面はパキパキと割れるような音がたち、中は生クリームのように濃厚でやわらかい。すり鉢でお月様をペースト状にしてゆくと、額にじんわりと汗がにじみだしてきた。それと同時にキッチンには、お月様の香りが立ち込めていて、爽やかでふんわりと甘いにおいが鼻をかすめる。その中に糖蜜を加え、更に練乳をたっぷりと混ぜ込んで、それをアイスキャンディーが作れる容器に慎重に流し込めば、あとはもう出来上がりを待つだけ。2時間ほど固めた月のアイスキャンディーをクーラーボックスに詰め込んで、日が沈んだ頃、熱さでバテている彼を誘って近所の河川敷へと向かう。川辺に腰を掛けて、穏やかに流れる川に足を入れると、あまりのぬるさに思わず顔を合わせて笑ってしまった。そこで月のアイスキャンディーを2人で食べる。どんな光よりもやわらかく発光するアイスキャンディーは1口かじると、ひんやりと冷たく、暑さでバテた体に優しい甘さが沁みわたり、なめらかな口当たりを楽しんでいると舌の上であっという間に消えてしまう。ぼんやり川面を眺めながら、月の光に誘われてやってきたホタルの数を数えていると、熱い夜もそんなに悪くはないなと、そう思うのだった。

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