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日本経済とアルゼンチン経済の比較



アルゼンチン経済と日本経済の比較

 アルゼンチンという国がこれまでに何度もデフォルトしたり、通貨危機に見舞われたりしていることは、ご存知の通りだと思います。
 「日本もアルゼンチンのようになるのではないか」、「日本は大丈夫か」とのコメントがたくさん寄せられています。しかし、結論から言ってしまうと、日本はアルゼンチンのような状況にはならないと思います。そこで今回は、日本がアルゼンチンのような状況になると心配する必要がない理由について解説したいと思います。

日本がアルゼンチンのような状況にならない理由

 最初に言っておきますが、今からお話しするのは「日本はアルゼンチンとは置かれている状況が全然違います」ということと、「デフォルトが心配されるような状況ではない」ということです。それは今現在のことで、未来永劫日本が安泰であるとは言えません。アルゼンチンも昔は豊かな国でした。時間をかけて徐々に悪化していきました。日本も「今は大丈夫」と言って安心していいというわけではありません。

対外純資産の意義と状況

 それを踏まえつつ、なぜ日本がアルゼンチンと違うのか、その状況を確認する時に重要となるデータがいくつかあります。
 最も重要なものの一つは「対外純資産」です。対外純資産とは、海外に対して持っている資産の額から負債の額を差し引いて計算されます。資産から負債を引いてまだプラスが残る状態、つまり負債よりも資産の方が多い国を「対外純資産国」、負債の方が多い国を「対外債務国」と言います。日本は対外純資産国で、418.7兆円の対外純資産を持っています、この金額は世界で1番です。つまり、日本は世界一の対外純資産国ということになります。

 この対外純資産の金額は2022年末時点のものです。2022年のGDPが564兆円でしたので、GDPの74%の対外純資産を持っているということになります。アルゼンチンも一応対外純資産国ですが、GDP比で見た時に大体25%ぐらいです。

対外純資産の重要性

 なぜこの対外純資産が大事なのかというと、対外純資産国であるということは、海外に対して負債よりも資産が多いということで、つまり国内にお金がたくさんあるということを示していて、国内の資金調達が容易だということを示しています。逆に対外債務国もたくさんありますが、そうした国は国内で資金調達するのが難しい場合が多いです。
 対外純資産国であれば必ず国内で資金調達ができるとかそういうものではないですが、国内での資金調達ができる環境かどうか、一つの指標として見ることができます。

対外純資産とデフォルトの関係

 国がデフォルトする時は基本的に外貨建ての国債の利回りがどんどん上がる、つまり外国人投資家が高い利回りを要求する状況になります。そういう時に、高い利回りでしか国債を買わないと言うのであれば、今発行している国債は償還しないと、ある意味海外投資家に対して痛み分けを迫ることでデフォルトが起こる場合が多いです。他にも国がデフォルトをする時は様々なケースがありますが、外国人投資家に対して痛み分け、負担を求める時に行われるケースがほとんどです。
 逆に言うと、外国人からお金を借りなければいけない状況になっている国は、そうした状況が起こりやすいと言えます。対外純資産をたくさん持っている国は、外国人からお金を借りていないため、国内で賄えますので、デフォルトになる可能性が低いと言えます。

 アルゼンチンの場合は、国が外国にお金を借りていますし、国債の4割以上を外国が保有しています。対外純資産国でありながら、政府が海外からの資金調達に依存しているというのがアルゼンチンの一つの特徴であると言えます。長く続く政治不安に加えて、インフレがあまりにも高すぎて、自国通貨で貯蓄をする国民が少ないことが原因とも言えます。

経常収支の意義と状況

 次に、重要となる指標の一つが経常収支です。経常収支というのは、貿易や投資活動などで国が儲かっているかどうか、つまり、国にお金が入ってきているかどうかを表しています。経常収支が赤字の状態だとお金が出ていく方が多いです。逆に経常収支が黒字だとお金が入ってくる方が多いということになります。日本はこの経常収支が年間20.67兆円の黒字です。つまり、持っているお金(ストック)が多いだけではなく、入ってくるお金(フロー)もプラスになっているということです。
 一方、アルゼンチンの経常収支はずっと赤字です。新型コロナで景気が悪くなった時期に輸入が減った影響で一時的に黒字化したことがありましたが、それを除くと2010年以降ずっと赤字です。

外貨準備高の意義と状況

 他に重要と考えられている指標として外貨準備高というのもあります。外貨準備高というのは為替変動を抑えるために準備している外貨のことで、輸入金額の6ヶ月分ぐらいは持っておきたいという風に見られる場合も多いです。
 日本は2023年末時点で1兆2,951兆ドル、日本円で200兆円に迫る金額を保有しています。これは世界で2番目に大きな金額です。アルゼンチンは外貨準備高がほとんどゼロに近い水準です。

個人金融資産の状況

 日本の個人金融資産は2,141兆円で、これはアメリカに次ぐ水準です。アルゼンチンとは比べ物にならない水準です。

総括

 冷静に世界の多くの国を評価して、日本はむしろ余裕がある国だというのが私の認識ですし、世界の投資家が認識していることです。足元の状況としては、日本はアルゼンチンのような状況になることを心配するような状況ではないということです。

未来の日本経済の考察

 ここからは将来のことを説明します。第二次世界大戦が終わった時点で豊かな国だったアルゼンチンが長い時間をかけてデフォルト常連国になっていったため、日本も未来永劫安泰というわけではありません。こうした状況というのがいずれ変わっていくんじゃないかという説もあります。

個人金融資産について

 2000年代頃に言われていたことは、2013年頃から個人金融資産が減り始めるんじゃないか、それをきっかけに国内から海外へも資金が流れていって、対外純資産などというものが減少傾向になっていくんじゃないかという話がありました。なぜこの時期に個人金融資産が減り始めると考えられていたかと言いますと、団塊の世代の定年退職が始まる時期で、人口のボリュームゾーンの団塊の世代の人たちが資産を取り崩し始め、個人金融資産が減少し始めるという話がありました。

 その予想は外れて、団塊の世代の多くが貯蓄を取り崩さず、貯蓄を持ったまま子や孫に引き継ごうと考えている人たちがたくさんいたため、予想されていた個人金融資産の減少は起こらず、むしろその後も個人金融資産は増加を続けています。

個人金融資産と相続について

 今、この日本の個人金融資産は多くが高齢者が保有しているわけですが、これが近い将来、子や孫に相続されていきます。地方銀行などで、相続により預金が都心の金融機関などに移されるケースが非常に多いという話が聞かれています。こうした資産を引き継いだ若い世代の人たちがこれからどうするのか、私は非常に注目しています。

思い出

 私自身は、引き継いだ資産をすぐ使ってしまうということはないという気がしています。
 親が私の名義の郵便局の口座にお金を貯めてくれていて、社会人になる時にその通帳とカードを渡されました。大した額が入っていたわけではないのですが、ずっと貯めてくれていたと思われるお金でした。今も全く手をつけずにそのままにしています。大した額ではないとはいえ、親が一生懸命貯めてくれていたお金だと思うと、しょうもないことに使うというのはできないと思っています。

個人金融資産の将来について

 私と同じような感覚の人が多かったら、引き続き日本人の個人金融資産が今後も取り崩されず、高水準が続いていくことになるかもしれません。もし取り崩されていくようだと、この資金が企業だったり海外だったり、様々なところに移転していくことになります。日本経済に大きな影響を与える変化になる可能性もあります。

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