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【映画】パーフェクト・デイズ Perfect days/ヴィム・ヴェンダース


タイトル:パーフェクト・デイズ Perfect days 2023年
監督:ヴィム・ヴェンダース

折角なのでシャンテで鑑賞…というわけでなくただ単に時間が合うのがシャンテしかなかった。行動範囲の上映が19時前後が無くて遅い時間ばかり。なぜなんだ…。ヴェンダースの作品を劇場で観るのは「Pina」以来かな。
賛否が分かれてる理由はひとまず置いといて、東京の街並みと役所広司だけで保ってる感が否めない。近作の中では間違いなく良い作品なのだけど、アメリカを軸に活動し始めてから演者の扱いが雑というか大味な作品ばかりだったけれど、本作も脇役のキャラクター造形が雑破でもうちょっとどうにかならなかったのかと疑問に思う。主人公を寡黙な人物像にしたのは良かったと思うが、口下手なわりに喋るとはっきりしていて、もっとしどろもどろな方がしっくりくるような…。
「パリ・テキサス」のオーディオコメンタリーでヴェンダース自身も認めているように、長回しが出来なくなっていてやたらとカットが多く、もう少しじっくり見せて欲しかった。今年観た女性監督たちの多くがカットで生み出すテンポ感を敢えて崩していて、雰囲気と感情の醸成が巧みなのに対して、老齢の監督ほどやたらとテンポ感を出そうとしてしまっている印象がある。「パリ・テキサス」以前と以後で作品の質が大きく変容したのはそこじゃないのかなと。撮影監督のロビー・ミュラーがすでにこの世にいないのも…なんて言っても仕方ないのだけど。
個人的に東京を撮ったドキュメンタリー「東京画」が大好きなので、四十年近く経った東京の街並みの違いも感じさせられる。かつてヴェルナー・ヘルツォークと対話した東京タワーを尻目に首都高を通り過ぎるシーンは、あの頃と大きく変わっている様で意外と変わっていない様にも感じる。かつてタルコフスキーが未来都市として描いた首都高の姿に限っては、半世紀経っても変わらない風景なのかもしれない。「東京画」で小津の低いアングルについてその謎に近づこうとしていたが、畳の部屋を描くにはやはり腰高で、畳に寝そべる文化とは異なるドイツ人らしさがどうも拭えなかった所はどうしようもないのだな。
文句ばかり並び立てたけれど、映像面ではフォトグラファーとしてのヴェンダースの志向が発揮された作品だったと思う。首都高のロングショットや、街並みを捉える技量は流石。描きたかったのは東京の風景を侘び寂びで映像に落とし込む事だったと思うので、それは成功していると思う。しかしヘルツォークが述べたように、市井の人々の暮らしとは別のストレンジャーとしてのファンタジーの中の東京でしかないのだけれど。それこそがヴェンダースが描き続けた世界でもある。
ゲスト陣の豪華さも笑ってしまうくらいで、ホームレス役の田中泯や、スナックでギターを弾くあがた森魚や、犬山イヌコ、柴田元幸などが名を連ねる。下北のレコ屋で僕も通っていたフラッシュ・ランチ・ディスクが出てくる辺りは、音楽ファンはそこか!と膝を打つのではないだろうか?
ヴェンダースの過去作からの引用も多く、車で音楽を流すのは「さすらい」、パトリシア・ハイスミスは「アメリカの友人」、姪っ子のニコ(うちの娘と同じ名前だよ!引用元は説明不要)とのやり取りは「都会のアリス」などが盛り込まれていた。
音楽も相変わらずの趣味性で、アニマルズ、オーティス・レディング、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、金延幸子、ヴァン・モリソン、ローリング・ストーンズ、キンクスと揺るぎない。
タイトルにもあるルー・リードのPerfect dayよりも、ニーナ・シモンが歌うFeeling goodの方が主人公平山の心情を表していて、映画唯一の長回しと首都高の景色がしっかり重なり合っていた。
新たな夜明け。新たな日常。私にとっての新たな人生。平山のバックグラウンドははっきりと明示されてはいないのだけど、家族間での家父長的な軋轢があった上での現状があるのだと示唆される。

最後に否の意見を取りまとめると、スポンサーに名を連ねるユニクロの柳井康治の存在と、渋谷区が取り組んでいる状況がある。

柳井が取り組むTHE TOKYO TOILETは劇中で平山が従事する団体である。一方で渋谷区が近年取り組んでいるのが、公園や公共施設からホームレスを排除する動きはSNSでも大きく取り上げられている。一番顕著なのがホームレスを追い出した悪政を連ねる三井ホールディングスが参入した宮下公園の惨状に他ならない。盲目的にトイレを掃除する事を美化しているキライがどうしても並走していて、利権やプロパガンダに利用されている向きもある。綺麗事とばっさり切るにはいささか極端すぎる感もあるが、スポンサーにこれらの人々が関わっている事は抜きに出来ない。映画制作とバジェットという関係は切り離すことは出来ないまでも、少なからず利権が絡んでいる映画だという事は意識した方が良いと思う。公園のホームレスを描きながら、ダブルスタンダードな二枚舌はヴェンダースの意図は孕んでいないかもしれないが、スポンサー側の思惑は違う地点にいるのではないかと訝しむ。

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