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【映画】ライトハウス The Light House/ロバート・エガース

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タイトル:ライトハウス The Light House 2019年
監督:ロバート・エガース

去年公開が見送られてしまったため、まだかまだかと待ち望んだ末やっと日本公開となった本作。ロバート・エガースの前作「ウィッチ」はオカルト色が強くて、あまり楽しめなかったのだけれど(ヘレディタリー然りオカルトを楽しめない自分を痛感させられた)、「ライトハウス」は人間の狂気にクローズアップしていて、はちゃめちゃな加減は中々に痛快過ぎて観終わった後はぐったりした。
スクリーンに映し出されるモノクロームの色合いは、漆黒のゴシックさと不協和音と相まって常に緊張感を生み出している。とにかく音楽が素晴らしく、50〜60年代の不条理物の映画に使われていたような現代音楽的なスコアがひたすら感情をざわつかせていた。
テネットで一躍有名になったロバート・パティンソンの役どころも見ものだけれど、怪優ウィリアム・デフォーの嫌な存在感が印象に残る。ラース・フォン・トリアーの「アンチクライスト」(ある意味本作と同じくらい疲弊させられる映画)と同じように土に埋められるデフォーの姿がオーバーラップする。ふたりの掛け合いはホモフォビアであり、ホモセクシャリティすれすれな距離感が緊張感を助長している。閉鎖的な空間が生み出す、個々の関係が身体的な繋がりを呼応しながら、拒絶と断絶を神話を参照しつつお互いを破壊していく様がスリリングに描かれている。酒による酩酊から生じる高揚感と、嵐の最中建物に閉じ込められながら破綻していく空間、過去の幻惑に絡め取られながら肉体を打ち打たれる。心の破綻とフィジカルな対抗が折り混ざる狂気の沙汰がこの映画の真髄だったと思わされる。海鳥の呪いが二人を呪縛しながら、灯台はひたすら辺りを照らし続ける。この映画の主人公は登場人物ではなく灯台そのものであるとも言える。
ゴシックな映像美は、長回しはないけれどタル・ベーラのような硬質な雰囲気があるし、灯台の風景は絵画的な美しさがある。現代とは思えない戦前のクラシック映画のような画的な耽美さは、100年前のレンズを使用したというのも腑に落ちる。デフォーのクローズアップでピントが合っていなかったのも、フォーカスが取りづらいレンズだったと思うのだけれど、クラシックな佇まいを感じさせながらアナクロに陥らない辺りは、現代的で洗練されているのは流石としか言いようがない。
灯台のフレネルレンズのレトロフューチャーな佇まいは、妙にSFのような雰囲気を纏っているし、灯り=火という構図もこの物語の根底にプロメテウスの神話があるのを感じさせる。

映画で描かれている細かい事はパンフレットに詳しく書かれているので、観賞後には是非とも手に入れて欲しい。ホラー漫画の巨匠も寄稿していて読み応え十分な内容なので必携。

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