二十四節気をさらに細かく分け、季節の変化と自然の息づかいを見事に表す「七十二候」。
こちらのマガジンではそんな「七十二候」にまつわる短編をまとめていこうと思います。
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記事一覧
【短編 七十二候】 魚上氷(うおこおりをいずる)
ヨシハルは万年Bクラス。
学生時代、大して努力をしなくてもそれなりの成績だったヨシハルは、それなりに受験勉強をしてそれなりの大学に進み、それなりの企業に就職。
それなりとはいえ、社会人としてスタートを切ったヨシハルはフレッシュな環境での仕事にモチベーションを上げていた。。
一定の成果も挙げていた。
「自分は価値のある人間だ。会社からも必要とされている。さほど苦労も無しにここまでやれる自分はす
【短編 七十二候】 黄鶯睍睆(うぐいすなく)
本沢藩の日比野宿は交通の要衝として栄えていた。
行き交う旅の者を相手にした商いも盛んで、街道でも名の知れた宿場町だ。
「旅の方、ご苦労さまです。次の街までは5里以上あるよ。日比野で休んでいきなさいな」
旅籠の娘、初音は今日も家業の手伝いに兄妹たちの世話と忙しくしている。
立春を過ぎたとはいえ、2月の上州地方はまだ寒さが厳しい。その日も晴天ながら風は冷たく、「ホー・・」とウグイスもまだ春を
【短編 七十二候】 東風解凍(はるかぜこおりをとく)
昨夜遅い時間まではしゃいでいた娘は、案の定目覚ましが鳴っても起きてこない。
部屋のカーテンを開け、朝日が差し込む。今日から暦の上では「春」らしいが、昨日までと今日の何が違うのかは体感としては分からない。
そんな事を考えていると娘が起きてきた。同時に足の裏に小さいものを踏んだ感触。
「おはようパパ。ねえ、昨日のお豆、まだある?あたし食べたい」
「もうないよ、理乃。昨日豆まきしたあと、パパと理乃で