マガジンのカバー画像

短編 七十二候~こよみのおはなし~

3
二十四節気をさらに細かく分け、季節の変化と自然の息づかいを見事に表す「七十二候」。 こちらのマガジンではそんな「七十二候」にまつわる短編をまとめていこうと思います。
運営しているクリエイター

記事一覧

【短編 七十二候】 魚上氷(うおこおりをいずる)

【短編 七十二候】 魚上氷(うおこおりをいずる)

ヨシハルは万年Bクラス。

学生時代、大して努力をしなくてもそれなりの成績だったヨシハルは、それなりに受験勉強をしてそれなりの大学に進み、それなりの企業に就職。

それなりとはいえ、社会人としてスタートを切ったヨシハルはフレッシュな環境での仕事にモチベーションを上げていた。。

一定の成果も挙げていた。
「自分は価値のある人間だ。会社からも必要とされている。さほど苦労も無しにここまでやれる自分はす

もっとみる
【短編 七十二候】  黄鶯睍睆(うぐいすなく)

【短編 七十二候】 黄鶯睍睆(うぐいすなく)

本沢藩の日比野宿は交通の要衝として栄えていた。

行き交う旅の者を相手にした商いも盛んで、街道でも名の知れた宿場町だ。
 
「旅の方、ご苦労さまです。次の街までは5里以上あるよ。日比野で休んでいきなさいな」

旅籠の娘、初音は今日も家業の手伝いに兄妹たちの世話と忙しくしている。

立春を過ぎたとはいえ、2月の上州地方はまだ寒さが厳しい。その日も晴天ながら風は冷たく、「ホー・・」とウグイスもまだ春を

もっとみる
【短編 七十二候】  東風解凍(はるかぜこおりをとく)

【短編 七十二候】  東風解凍(はるかぜこおりをとく)

昨夜遅い時間まではしゃいでいた娘は、案の定目覚ましが鳴っても起きてこない。

部屋のカーテンを開け、朝日が差し込む。今日から暦の上では「春」らしいが、昨日までと今日の何が違うのかは体感としては分からない。

そんな事を考えていると娘が起きてきた。同時に足の裏に小さいものを踏んだ感触。
「おはようパパ。ねえ、昨日のお豆、まだある?あたし食べたい」
「もうないよ、理乃。昨日豆まきしたあと、パパと理乃で

もっとみる