【短編】 つまらない映画
「ではこれより、最終試験を行います」
二次選考を通過した専門学校生の武内は、同じく勝ち上がってきた数人とともに小さなスクリーンが設置された大きめの部屋に移動する。
クリエイターっぽくないが、知的な感じの試験官が説明を始めた。
「今から短い映画を一本観ていただき、批評をお願いします。これが最終試験となります」
武内は一番後ろの席に座り、眼鏡をかけた。
映画は後方の席で、と決めている。スクリーンを含めた空間全体の雰囲気を楽しみたいからだ。
映画は正直、つまらなかった。というより、ヒドイ。
上映後、順番に呼ばれて映画の批評を述べる流れとなっている。
別室に通されると、先程の試験官ともう一人、ラフな服装の男性が座っていた。
武内は映画が好きで映画の専門学校に入った。「映画館で観る」事が好きなので、どんなにつまらなくても最後までしっかり作品に向き合うことをポリシーとしている。
しかしこの映画はヒドかった。
「映画を観ての感想ですが、まずタイトルから観てみたい、というワクワク感は感じません。40分という上映時間なら、もう少し場面数が少なくても良いのかなと感じます。切り替えが多く、テンポが良すぎて疲れました。
それと、超生命体がカプセルから出てくるシーンで、博士が自ら作ったその超生命体に消されるやつと、終盤でサブ主人公が(この戦いが終わったら、故郷に帰っておふくろと店を始めるんだ)って言った直後に死んでしまうシーンですが、使い古された死亡フラグすぎて、先が読めてしまいました。エンディングの曲も、映画のテーマに全く合っていません。」
武内は一気にしゃべった。これが最終試験であることなど忘れて、ただの一人の映画好きになっていた。
「はい。どうもありがとう。これで試験は終了です。結果は後日連絡します、お疲れ様でした。」
ラフな服装の男性は笑みを見せながらそう言って退室を促した。
武内は帰る道すがら、後悔と反省を反芻していた。
「やっちゃった。つい思ったことを全部言ってしまった。ああ、これで不採用は確定だ。この制作会社が受からないと映画監督になる夢はかなり厳しいものになる。ダメだったら地元で仕事、探すかー」
約1か月後。
武内のスマホの届いたのは採用通知のメールだった。こうして無事に武内は業界入りを果たし、映画製作の道へ進んだ。
最終試験で笑みを見せた、あのラフな服装の男性、松井は武内のボスとなった。
聞けばこの世界では名の知れたクリエイターで、映画、PV、雑誌までこなす奇才だった。
「あの松井さん、なぜ僕は採用になったんですか」
「ああ、ま、そのうち分かるよ」
武内はボスに必死で食らいつき、日々研鑽を積んでいった。
4年ほど経ったある日、武内に松井から短編映画製作の話が持ちかけられる。
自分もついにどこかの映画祭に出品出来るんだ。
武内は喜びながら、沸き上がる情熱を押さえられなかった。
それから1年を費やして、スタッフの力を借りながら短編映画は完成したのだが、ボスの松井からサプライズが発表された。
「武内、ごくろうさん。完成おめでとう。この映画は、来期の入社採用試験で使う。覚えているだろう?あの批評用の映画だ」
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