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シャッタースピード1/250の宇宙

今まで、宇宙飛行士をフォトグラファーとして認識していませんでした。ケネディスペースセンターで購入した「Apollo VII–XVII」は、アポロ7号から17号(1968年〜1972年)まで、宇宙飛行士が撮影した写真集です。宇宙飛行士は"ミッションの間に写真を撮った"というのではなく"写真こそ重要なミッション"の一つであることが、この写真集で知ることができます。

写真集の冒頭で、NASA マーキュリー計画、ジェミニ計画、アポロ計画の主任写真撮影担当者であるリチャード アンダーウッド氏の言葉が記載されています。

When you get back… you will be a national hero. But your photographs… they will live forever. Your only key to immortality is the quality of your photography.
(あなたが地球に戻ったら、国民の英雄として迎えられることでしょう。しかしながら、写真に残すことができれば永遠に生き続けます。永遠に生き続けるためには、撮影される写真のクオリティが鍵となります。)

Apollo VII–XVII 冒頭 

宇宙開発においてソ連に大きく遅れをとっていた米国は、ケネディ大統領が発表したアポロ計画によって米国の威信を取り戻すことを目指します。そのために、写真は最も重要な役割を担っていることが分かります。つまり、宇宙飛行士は、単なるパイロットではなくプロ写真家としての腕も求められました。

宇宙服を着て撮影のトレーニングをする様子。

写真集では、宇宙服を着た状態で撮影のトレーニングを受けている様子が紹介されています。カメラは、中判カメラのハッセルブラッド500Cです。このハッセルブラッドのカメラで 2 年かけてトレーニングを行ったそうです。プライベートでも機材に慣れるためハッセルブラッドを使うように奨励されたようで、さらに月面に似ているネバダ州やアリゾナ州などの砂漠でワークショップを開催したそうです。

ハッセルブラッド社は、積極的にNASAに協力しました。ちなみに、NIKON FTnもアポロ15のミッションから加わりました。"More active and dynamic(より活動的で大胆)”な写真を求めるため、ポータブルな35mmカメラを導入したと記載されています。

フィルムは、もちろんコダックです。どうやら3種類のフィルムが使われていたようです。モノクロームのPanatomic X Fine ISO80、カラーフィルムのEktachrome ISO64と高感度のISO1600です。

上の写真左側のオレンジのステッカーは、月面で撮影するための高感度フィルムが装填されたカメラに貼られています。まず「1/250」のカメラシャッタースピードが必要であることが書かれています。そして、カメラの推奨絞り設定が具体的に示されています。それによると、宇宙飛行士や月着陸船(LM)で影になっている場所では、f/5.6を使用することが推奨されます。カメラに近い物体ではf/8、日光に照らされている遠い物体ではf/11を使用することが推奨されています。

写真右側の青いステッカーは、宇宙船内で使用するカメラに貼られています。フィルムの感度はISO64で、同じく「1/250」のカメラシャッタースピードが必要であることが書かれています。地球の絞りはf11で月はf5.6と記載されています。地球は明るいから2段分暗くなるのですね。「ZERO PHASE」とは、地球が太陽と月の間に入り、月の表面に日食のような影を作る時を指します。「NEAR TERMINATOR」とは、地球または月の片側が夜で、もう片方が昼である状態を指します。写真の半分が明るく、もう半分が暗い状態です。

非常に興味深いのは、どのフィルムでもシャッタースピード「1/250」が推奨されていることです。宇宙飛行士は、絞りだけ考えれば良い写真が撮れるという、大変合理的なシステムですね。

写真集は、ハッセルブラッドで撮影したことが分かるように、ノートリミングでフィルムの縁も入っています。ハッセルブラッドとカールツアイスレンズの組み合わせの素晴らしさが分かります。1/250 f11で撮影された地球が美しい。

アポロの宇宙飛行士たちは、一人前のカメラマンになったので、宇宙飛行士引退後もハッセルブラッドで個人的に撮影を楽しんだかもしれませんね。

ハッセルブラッド500Cが、とっても欲しくなりました。中判のダークサイドに落ちないように気を付けなければなりません、、、

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