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ミニ四駆・ジャパンカップ 『カナガワの鱒釣り』11

 スタートの瞬間にリヤステーを中指で弾くように押しだす技術は兄が考案した。ジャパンカップで彼のマシンがぶっちぎりで1回戦を突破したさいには、チーム全員の笑いがなかなか止まらなかった。

 誰が今、あらためて今、ミニ四駆にわれわれが帰ってくると予想できただろう。

 メーカーの製品説明には「金属表面から水分を強力に除去する、電機装置用防錆・接点復活剤」とあり、成分は「鉱物油、防錆剤、石油系溶剤」とある。実際のはなし、大会会場で参加者のブースを見て回るとそのスプレー缶を散見することができる。

 クレ工業のニーニーロク、われわれ復帰勢にとっては最良のメカニックになった。

 「けど、これ禁止なんでしょ?」シュッ!

 「ほんとはね。まぁけどその辺は」シュッ!

 「会場に持ってきたらまずいよ」シュッ!

 「あ、だけどモーター音が違う」シュッ!

 「ホントだ! 回転数上がる!」シュッ!

 前日まで、僕たちのチームは大会コースを想定した模擬コース場で調整を重ねていた。何度も電池の充電とマスダンパーの調整を繰り返し、ブレーキも各々調整をつづけていた。

 完走するだけでもなかなか容易ではないのだ。

 兄の押し出したマシンが一回戦を突破すると、僕たちもそれに続こうと息をまいた。

 結果は11人中、2人が2回戦進出、2人がスピード負け、残り全員がコースアウトだった。

 コースアウト組がそれぞれのマシンをもちあい、どこが悪かったのか議論しているところに兄は勝利の笑顔を連れて戻ってきた。場にはスプレーの臭いが漂っていた。

 「うわ! なんだよそのスプレー!きったねー!おれにも使わせてよ」シュッ!

 兄とは別に2回戦に上がったメンバーは頑なにドーピングを拒み、結果はスピード負けだった。

 メンバー全員が見守る中。シグナルが青になる。メンバー全員の期待を背負って兄のマシンが飛びだした!

 「でた!ロケットスタート!」

 「やばいだろあれ、さすがに飛び出しすぎ」

 「いけるいけるいけるいける」

 と、僕らが声に出している最中、兄のマシンは豪快にコースアウトした。文字通りあっという間に2回戦は終了、敗因は考えるまでもなかった。

 帰りのサービスエリアで食べたうどんの味がうすく、七味をかけるとただ辛いだけのうどんになった。静岡の天気は快晴だった。









読んでくれてありがとう。明日も元気で!
多分僕もまた来ます。

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