北の伏魔殿 ケースⅢ 作為と不作為 -②

○動機は不作為、行為は作為~補助金不正で自治体に損害を与える職員

 屋久島町では、国から補助を受けた水道工事の完了日を偽り補助金適正化法違反により、国の補助金1667万7000円を返還したことについて、「町に損害」を与えたとして、町民が課長と職員、関連予算の執行に関わった町長と副町長に弁済を求めて監査請求した。

 北海道庁でも、同様に国の補助金制度を利用した事業について、期限まで完了が間に合わず、適正な遅延手続きをとることが面倒だからと、国への報告書を偽造したため、国の補助金3億円を返還した。しかし、この事例で当局は、当初、職員に賠償を求めることを検討するとしたものの、公文書偽造の犯罪で、これだけの損害を北海道に与えながら、結局、減給1/10、1ヶ月の処分ですんでいる。

○職員に対する損害賠償請求の増加 

 国家賠償法1条では、公務員が職務で他人に損害を与えた場合、国や自治体が賠償すると定めており、一義的には、公務員個人が賠償することはない。しかし、同条2項により、公務員に故意または重大な過失があった場合は、国や自治体は求償権を有するとされているが、これまで、求償権を行使した事例はさほど多くはない。
 
 しかし、近年、住民の税意識の高まりから、そのような損害に関して、監査請求がされ、場合によっては、住民訴訟が起こされる事例が増加してきた。このため、自治体では、職員に賠償を求めるようになり、高知市の火災保険の切り替えを怠った職員に700万円、高松市樹木伐採工事で不必要な工事が発生したとして1,070万円、千葉市生活保護費の返還手続きを怠り750万円、兵庫県貯水槽の排水弁の閉め忘れで300万円がそれぞれ請求されている。私個人としては、過失ならなんでもかんでも職員に請求するのは、労働法の観点からも間違いだと思う。一方、故意に関しては、善良な公務員であれば、当該職員に請求することはやむを得ないと考えるだろう。

 故意や重大な過失(重大の判断が難しいが)の場合、職員個人に損害賠償請求されることとなれば、不作為による仕事の抛棄や不法行為は激減するだろうし、重大な過失を避けるため、業務の勉強により一層励むようにはなるだろう。

○作為により法令を無視して行政処分しようとする職員

 私が経験した事例に戻ろう。
 私が着任して、2ケ月ほどたった豪雨の翌日、地元市から私の許認可業務に係る業者の現場で、崩落事故があったとの連絡が入った。担当のS主事と現場を確認すると、事業者からは「豪雨のため舗装道路を伝わって、工事現場に大量の雨が流れ込み、それが崖側の土砂を流して下の農地に流れ込んだ」との説明があった。

 事業者の説明通りの痕跡があり、また、新聞報道でも前日の大雨は報道されており、県の治山工事でも近隣の住宅に土砂が流出し、高校生が死亡するという事故が起きていた。しかし、S主事は行政処分に該当すると強く主張した。許認可業務一般で自然災害については、法令違反には該当しないとされており、私は気象台に行って当日の雨が1時間あたり40㎜を超えていたことも確認し、自然災害のため行政処分の必要はないと判断した。

 S主事が行政処分を主張したのには、それまでその業者との軋轢の経緯があったためだ。私が着任した1週間後、S主事とその業者の女性社長が課内で大声で怒鳴りあっていた。私はなんとか両者をなだめてその場を納めたが、後日、他の職員からの情報では、S主事が前の課の時代からその女性社長ともめていたと聞いた。
 
 当時、許認可権限を持つ役人に対して、事業者は生殺与奪を握られているので、へりくだり、言うことを聞いてくれるのが一般的で、それを利用して法令には定めがないが、安全性に疑義がある場合は行政指導で業者を指導してきていた。しかし、後に、業者団体の事務局長から全ての業者の社長は、「前任者の言うことなら聞くが、S主事の言うことは聞きたくない」と言っているという話しを聞いた。

○自然災害の判断の分かれ目~訴訟に巻き込まれずにすんだこと

 私が視線災害と判断したのは、現状や気象台のデータ、業者の説明など対外的に説明できる材料があったことに加え、県の治山工事で高校生が死亡した事故が頭にあった。
 おそらく、これは訴訟になるだろう。そして、県側としては自然災害であることを主張するに違いない。担当部長は、治山工事担当課と私の課の両方を担当している。仮に、こちらが業者を行政処分して、それが高校生側の弁護士に知られたら、治山工事担当課主張の自然災害は認められずに敗訴するだろう。そしてその責任は、私の課の課長が負わされる。一方、治山工事担当課が勝訴した場合は、私の課の行政処分が違法だと訴訟を受ける可能性があり、その場合も課長の責任となる。S主事はそんな想像力も無く、たんに自分の思惑だけで、行政処分しようとしたもので、25歳、3年の行政経験の中でそんなことを考えるのは、性格の問題だとしか思えなかった。
 そして、事実、彼の行動が明らかになってくる。


 


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