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【書評】尾原和啓・山口周『仮想空間シフト』

朝、8時に地下鉄に乗りオフィスに行き、11時に顧客のオフィスでミーティング、12時に数分歩いて昼食を買いに行き、オフィスに戻る。社内で自分のデスクとミーティングルーム、他部署の人のデスクとの間を行ったり来たり。7時にオフィスを出て家に帰る。


その全てが寝室から3メートルのところにあるデスクで行われるようになった。

コロナ禍をきっかけに、これまでの働き方・・・自ら物理空間を移動しながら仕事を進めていく・・・が突如として当たり前ではなくなり、ネットを通じて仮想空間にアクセスし、仕事を進めていく、という働き方に変貌を遂げた。

この稀有な変化に対し、私たちは働き方はどうなっていくのか。将来を予測をする上で、この本で述べられていることを無視しては正しい予測は不可能であろう。

なお、以下に述べていることは、本書の内容に加えて、かなりの私見が混じっていることを指摘しておきたい。

無限の効率化が可能に 

オフラインの世界では、ミーティングのために移動する必要があり、一日に可能なミーティング数には限度があった。オンラインではそれがなくなり一日20件のミーティングも可能に。生産性が爆発的に上がる可能性を秘めている。

人に会いに行く時間がなくなり、ロスタイムゼロで本題に入ることが可能となった。資料を持ち歩く必要もなく、目の前のスクリーン上で全てが入手可能。すると、人とのコミュニケーションの巧拙、情報ハンドリングの巧拙により、生産性の差が何百倍も開くであろう。

さらに、自ら能動的に人と会い、情報を取りに行く必要があるので、意識せず漫然と過ごすと、いつもの慣れた相手・情報にしかアクセスしていないことになる。一方、意欲のある人にとっては簡単に自分の知らない、馴染みのない環境に飛び込むことができるようになる。

モチベーションが大事

仮想空間では「上司が部下の仕事ぶりを常に監視する」ことができなくなる。よって、働かせるためには「意味合い」が重要となる。現状、物質的な満足度は高い一方、自分の仕事や働きにやりがいを感じられない人は非常に多い。「やりがいのある仕事」を求めている人は多いのに、それを供給している企業は少ない。仕事の「意味合い」を語り、モチベーションを与えることができるか。仕事そのものをエンターテイメントとして提供できるか。それが問われる。

野球選手に必要な素振り。得てして単調になりがちだが、イチローはイマジネーションで素振りを高度なトレーニングに変えている。「今日の対戦相手はベテラン投手で、ストレートの球威は衰えているがスライダーに切れがすごい。そのスライダーに対応するには腰のひねりをこうして・・・」と考えることにより、単調な素振りとはかけはなれた世界を構築している。だれもが同じ情報・ツールに接する中、いかに「意味合い」を与えられるかで天地ほどの差がつく世の中になった。

大企業の役割の終焉

大企業のメリットは、大勢の社員の素性がお互いに知られているため、共働する際に、相手の信用状況をチェックしたり、契約を結んだり、成果配分をどう取り扱うか交渉する必要がないこと。そのメリットが、個々の仕事に対して外からベストな人材を確保するメリットを凌駕している。

しかし今後はAIの活用によりオンラインでお互い信頼度が即座に測れるようになる。すると大企業に属さずとも、オンライン上で望むチームを組成することが可能となる。また、大企業にとっても、仕事を社内のだれかにやらせるのではなく、インドの優秀なITチームに発注し、やらせることが可能となる。

すると、大企業は一つのオンライン上のコミュニティーとなる。大都市の概念が変わり、東京の住民、という属性が、Facebook ○○コミュニティーの住民、という属性と同等になる。大学も、ボストンに住み、ハーバード大学に通う、という学生生活が、世界中に住み、オンラインで一堂に会する、という学生生活となる。仮想空間に場所や距離の制約はない。複数のコミュニティーに属することが容易になり、個人の能力の差が如実に表れる世界になるであろう。


通勤時間が無くなり、上司の管理の目もなくなった今、多くの人が、これまで時間的に無理だった勉強を始め、すでに多大な成果を出しているであろう。また運動時間を確保し、これまでにない健康・身体能力を身に付けているであろう。

一方、多くの人が、浮いた時間をYoutube視聴に費やし、UberEATSで過食気味になり極端に運動量が減っているであろう。

コロナ禍が始まり、1年。今後の生き方が問われている。



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