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防災士が考える災害対策② 何を備蓄するか

以前の記事で、日本の地震・火山災害の危険性についてお伝えしましたが、6月17日に群馬、翌18日に大阪で大きな地震が発生し、災害に対する関心が再び高まってきたようです。

まずは、一連の地震で被害を受けられた方にお見舞い申し上げるとともに、亡くなられた方のご冥福と、負傷された方の回復をお祈り申し上げます。


今回の一連の地震は、普段地震が少ない場所で地震が発生していること、さらに、千葉県沖でスロースリップと呼ばれるプレートの滑りが発生していることを考えると、地震災害に対する警戒意識は高く持つべき局面になっています。

さらに、地震活動と火山活動は連動する傾向があるため、火山活動に対する警戒も必要になります。

そこで、改めて災害対策について書きたいと思います。


今回のテーマは

「備蓄」について

です。

災害対策の「自助」として大切なことは、自分の分の物資は事が起こる前に確保しておくことです。
以前の記事にも書きましたが、災害対策の基本理念として

自分が備えれば、余裕が生まれる。
余裕があれば、周囲を助けることができる。
それぞれが備えれば、互いに助け合うことができる。
互いに助け合うことができれば、助かる確率も人数も増える。

という流れを作っていくことが大切です。

備蓄というのはその源流にあたる、とても大切な備えだと思います。


さらに、備蓄をするにあたって把握しておくべきコンセプトがあります。

それは、
・「日常」の中に災害対策を取り込んでおくこと
・「非常時」の中に少しだけ「平常時」を確保すること

です。

危機感に基づいた「特別な対策」は確かに大切なのですが、人間の心理として、危機が遠ざかるとその「特別」はすぐに日常に埋もれてしまいます。

これは、「3日坊主」を心理的に分析するとわかるのですが、「馴化」や「心理的飽和」という現象です。
つまり、どんなに強い刺激でも、繰り返し受けると刺激に慣れてしまうということです。

よくある話として、どこかで大きな災害が発生すると、備蓄品や災害対策グッズを色々、大量に購入するが、それを未開封のまま放置して、いつの間にか使用期限が過ぎている…ということになります。

そう考えると、備蓄品は「日常使うもの」を少し多めにストックし、「使いながら買い足す」という形にするべきである、というのが私の考えです。
(これを「ローリングストック法」といいます)

そのストック分の一部を非常持ち出し袋に入れておくというスタイルが好ましいでしょう。そうすれば、定期的に持ち出し袋をチェックすることにもつながります。

もう一つの視点で見ると、ストレスの緩和のためにも、「日常使っているもの」を入れておくことは大切です。
避難所では、ちょっとした日常が戻っただけで、大きくストレスが緩和されたケースがあります
(例)お風呂、あたたかいご飯、プライバシーが確保できる、お化粧ができる、など。

また、不安心理の表れとして、多くのグッズをこれでもかと持ち出し袋に詰め込むケースがあります。
しかし、よく考えると、大きな重い荷物を足元が悪い中で担いで歩いていくことはかなり難しいです。
荷物の重さとしては、「普段持ち運べる重さの半分くらい」にしておかないと、災害発生時には自由に動くことができません。
たまに、非常持ち出し袋が15kg近い(水や食料が大量に入っている)ケースを見かけます。
「自衛隊の行軍演習の際の背嚢(リュック)の重さが15㎏程度」です。
一般人が非常時に持ち運ぶ重さで15kgは非現実的ではないかな…と私は思います。
(勿論、体力や筋力に自信があれば別です)

そう考えると、非常時に持ち歩く装備は必要最低限にしぼり、小型軽量なものに限定することが必要になります。


このような観点から、特別な備えは大事ですが、いざというときに「身の回りの品をどう使うか」を考えておくことも大切です。

特別なもの(防災用品)に頼るだけではなく、普段から使っている品物を少し多めにストックし、身の回りの品をどう応用するか学んでおく、という考え方が災害対策には必要だと思います。

前置きが長くなりましたが、具体的に何を備蓄しておくべきか考えていきます。


意識して備蓄すべきものをざっと挙げると…

(自宅での備蓄)
①水
 自宅に備蓄できるなら、
 「1人1日3リットル」の計算で、最低3日分。
 職場でも、
 「500mmペットボトルを数本」ストックしておくと良い。

②食料 自宅に備蓄できるなら、
 「普段から食べるもので、比較的保存がきくもの」
  ※日常的に食べる→買い足すというサイクルを作ると良い
 職場でも
 「チョコレートなど、かさばらず高カロリーなもの」

③現金(10円玉を多めに、小銭は必ず用意)

④雨具(レインコート)

⑤アルミブランケット

⑥タオル

⑦バッテリーチャージャー(ソーラーパネルつきがおすすめ)

⑧衛生用品(紙おむつや生理用品、ウェットティッシュ)

⑨サランラップ

さらに小型リュックとスニーカーを、職場には置いておくと良いです。
(新品ではなくある程度使ったもの)
自宅にも、スリッパやスニーカーを備えておくと安心です。

ヘルメットはあった方が良いのですが、かさばるのが欠点です。
ない場合でも、座布団やカバンで代用できます。
この場合、頭にピッタリつけずに「少し離して上に」が基本です。
(頭との間にスペースを作って落下物の衝撃を和らげる)

私の一押しのヘルメットはこれです!
強度は通常のヘルメットとほとんど変わらず、コンパクトに収納できる優れもので、私が真っ先に購入した防災グッズのひとつです。
職場のロッカーや引き出し、自宅でもちょっとした場所にしまっておける優れもの。
広げる動作は難しくはありませんが、一度練習をしておくといいでしょう。

乳幼児・高齢者・女性や、その他特別な事情がある方は、普段必要とするものを多めにストックしておきましょう。

紙おむつや生理用品は、なければかなり不自由します。
衛生環境にも直結しますので、衛生用品については保管スペースと相談しながら多めのストックをお勧めします。
支援がある程度行き渡るまでに最低でも1週間はかかると想定して量を考えると良いでしょう。
また、生理用品は(2パック(60枚)ほど普段準備している量に加えてストックがあれば良いと思いますが、個人の状況により増減させてください。
ウェットティッシュは、特に幼児がいる場合、衛生環境維持の強い味方になります。

なお、便利アイテムとしては、サランラップはお皿に巻けば食器を洗う必要がなくなり、節水につながります。それ以外に防寒や包帯、ロープ替わりになるなど、多彩な使い道があることも魅力です。

特にかさばるものでもないので、ストックを用意しておくと良いでしょう。

実際に見てみると、普段使わないもの、というのはアルミブランケットくらいではないでしょうか?
その他の品目は、生活スタイルに合わせてローリングストック法で備蓄しておけば良いと思います。


(普段から持ち歩くよう心がけるもの)
・現金(10円玉は必ずストックしておく)
・ペットボトル(水筒でも良い)
飲み終えても次のペットボトルを買うまでは捨てないようにしましょう。一度ゆすいでおくとなお良いです。
・バッテリーチャージャー
・ホイッスル
・小型マグライト
・高カロリーの携帯食(チョコレート・飴などで良い)

・小型マルチツール(ナイフや缶切りなどがセットになったもの)

これがあればとりあえずは大丈夫です。
持ち歩きアイテムに、携帯用浄水器を加えればなお良いですね。
色々なタイプ・価格帯のものが出ているので、好みや必要性で選んで良いと思います。

その他、備蓄すれば便利なものは挙げればきりがありませんが、具体的にアイテムを選定する際の基本は

・かさばらない
・メンテナンスがいらない
・動力(電力)がいらない

です。
非常時は、シンプルでアナログなものが最も信頼できます。

例えば電話ですが、「電源が必要なタイプの電話」は停電すると使用できませんが、昔ながらの黒電話は電源が必要ないため、NTTの交換所がダウンしない限りは電話を発着信することができます。
しかも、バッテリーが切れる心配もありません。
実際に黒電話を用意することは難しいと思うのですが、シンプル・イズ・ベストの典型例と言えるでしょう。

大事なのは、「使い慣れておくこと」ですね。
どれも、新品未開封ではなく、何度か使って慣れておきましょう。


それぞれの物資について補足をしておくと…

・水について
水は、最低3日分、できれば1週間分です。
最初の救援物資が届くまでがだいたい3日くらいという実績に基づいていますが、災害規模が大きければ各地に支援が分散するため、到着が遅くなる可能性が高まります。

また、お茶、コーヒー、そして甘い飲料はNGです。

まず、お茶やコーヒーは、利尿効果があるので逆効果です。
次に、甘い飲料を飲むと、糖分によって血糖値が上がり、さらに喉が渇きます。
飲むのを止められなくなる状態が続き、血糖値が上がりすぎれば意識がもうろうとしたり、昏睡状態になることもあります。
これがペットボトル症候群です。

最悪の場合、水を生産する方法もありますが…それは災害対策というよりサバイバル技術なので、今回は割愛します。


・現金について
10円玉は、公衆電話の使用を想定しています。
災害時は、硬貨しか使用できないというケースが多発しますので、10円玉はあると便利です。


・ホイッスルについて
万一閉じ込められた際には
体力を消耗せずに自分の居場所を伝え続ける
ことが求められます。

大声を出すと体力を消耗する上に、人間の声は周囲の雑音にまぎれやすく、聞き逃す可能性が高いです。さらに、遠くまでも届きません。

一方ホイッスルは、最低限の動作で大きく高い音を出すことができるため、自分の居場所を伝えるには最適のツールです。


・小型マグライト
移動の際の照明
居場所を伝えるために点滅させる
明滅によりモールス信号を発信する

など、多彩な用途があります。

世界共通の「SOS」のモールス信号は、
短発信×3・長発信×3・短発信×3
です。
音にすると
「ト・ト・ト・トーン・トーン・トーン・ト・ト・ト」です。

上の動画を見るとよりわかりやすいと思います。

内蔵されている乾電池は、いざというときには火おこしに使えます。
スチールウールを使う方法が一般的ですが、下のようにガムの銀紙を使う方法もあります。

ちなみに、
いざとなればスーパーやコンビニがこれだけあるんだから…あるいは、避難場所に行けば何か支援物資があるだろう…という発想はとても危険です。

実際に、阪神淡路大震災や東日本大震災では、店舗自体が被災してしまい、電力や物流が途絶えた結果、商業活動そのものが停止してしまいました。
施設が無事でも、従業員が十分な人数出勤できなければ、店を開けられない可能性もあります。

一部のコンビニやスーパーでは、災害時には物資を被災者に供給する協定を結んでいますが、そもそもコンビニは在庫を極力持たない店舗形態です。
スーパーはある程度の在庫を抱えているとはいえ、物流が途絶えている以上、スーパーやコンビニからの物資の供給は極めて一時的でしょう。


また、災害時には、一時避難場所として活動できるよう、都心では多くの商業施設やオフィスビルが対策を取っています。

例えば、東京で最も充実した防災設備を持っている施設のひとつは、港区の「六本木ヒルズ」です。

1日の来場者数は、平均でおよそ11万人(年間4000万人)。
一方、保管している食料はおよそ10万食です。
これは、1万人を3日間保護できるだけの食料+帰宅困難者に配布する1万食を想定しています。
つまり、災害発生時に施設内にいる人数をおおむね1万人と見込んでいることになります。
さらに、大規模な発電設備(六本木ヒルズは、外部電力に一切頼らずに運営できる)を備え、防災井戸も完備しています。

とはいえ、六本木ヒルズも、外部からの支援なしでは3日程度が受け入れの限界です。
つまり、基本的には、状況が落ち着いたら帰宅することを想定しています。


ということは、我々は出先では、
「災害時、手持ちの物資でどう帰宅するか」
を考えておかなくてはならない、ということです。

一方で、
「行動を阻害されないよう、厳選してコンパクトに備える」
ことも大事です。

あれもこれもと揃えるのではなく、上記の基本アイテムに、自分にとって絶対に必要なものを厳選して入れるようにしましょう。


これらを念頭に置き、自宅・職場・手持ちの備蓄をそれぞれ考え、対策を取っていきましょう。


取り急ぎ書いたのでまとまりませんが、災害対策のお役に立てば幸いです。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


過去の記事はこちらです。

地球の今 私たちの知っておくべきこと

災害に対する心構え

災害対策① 家族会議をしよう


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