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ネプリ『夜型 vol.1』

ネプリ『夜型 vol.1』(作者:甲斐さん)を拝読しました。
短歌連作と詩が載っている作品です。
印象に残った歌を引きます。

眼のなかの硝子くだいてまばたきのたびに光ってよろこばせたい

短歌連作「一瞬で満たされるためだけに」甲斐

眼の中の硝子ってなんだろうとか、光ったら相手は本当に喜ぶのかとか、そんなことはどうでもよくて、まばたきをする頻度くらい喜ばせたい相手が主体にはいるということが大切なのだろうと思いました。
まばたきは基本無意識にするものです。
無意識にする動作で相手を喜ばせようとする主体。
相手を喜ばせる機械になってしまいたいと、主体は考えているのかもしれませんね。

さらわれる さらわれないと花びらをちぎる子どもの背中がわたし

短歌連作「一瞬で満たされるためだけに」甲斐

ここではないどこかに行ってしまいたいと思っていた過去が主体にはあったのでしょう。
子どもは自分の居場所を選ぶことが難しいです。
「わたし」は大人になった主体の視点だと思いました。
花びらをちぎって願うことしかできなかった子ども時代は終わりました。
主体は自分の意思で好きな場所に行ける大人になったのです。
普段は小さな背中を忘れているでしょう。
でも、閉塞感で窒息しそうだった子どもの頃の感覚を、時々思い出してしまうのではないでしょうか。

忘れてしまったものは はじめから存在していなかったのだと
誰かにそう言われて それからずっと呪われています

詩「餓えかた」甲斐

私が忘れたものは、私の中から消えてしまうのでしょうか。
すべてはなかったことになってしまうのでしょうか。
そんなことはないと言いたいです。
私を通ったすべてのものは、私が忘れてしまっても、確かに存在している/いたはずです。

世界は呪いに満ちています。
「誰か」は私であり、あなたです。
どんなに注意深く言葉を選んでも、相手にとっては呪いになってしまうこともあります。
「正しいことを言っている」ときの自分は、どんな顔をしているのでしょうね。

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