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『次世代短歌 新作集2024』

アンソロジー『次世代短歌 新作集2024』を拝読しました。
印象に残った歌を引きます。

トーストに切れ目を入れる やさしさの染み込む場所は自分でつくる

あひる隊長

大抵のやさしさはよいものとされています。
でもこの歌の「やさしさ」は、「薬と毒は紙一重」のような使い方をされていると思いました。
相手はよかれと思って主体にやさしくしていますが、主体にとって与えられた「やさしさ」は大事件なのかもしれませんね。
切れ目を入れているのはトーストですが、主体自身が身を切っているような、覚悟を感じる一首だと思いました。

うるさくて全然聞こえなかったけど強くうなずいたら喜んだ

鈴木ジェロニモ

カラオケか、クラブか、雑踏か。
主体と相手がどこにいるのかは分かりませんが、会話が難しいほどうるさい場所のようです。
そんな中で相手が何かを主体に言います。
まったく聞こえなかったにも関わらず、主体はうなずいてしまいます。
一見、無責任なのかなと思わせますが、「強く」がポイントですよね。
主体は相手が喜ぶならなんでもよいのです。
喜ぶと分かっているから、「強く」うなずくのです。
無邪気な相手と、無垢な主体。
そんな二人を想像しました。

狂っている時計があれば病んでいる時計もあって直してやろう

西村曜

時計にも性格があるかもしれませんよね。
本当はもっとゆっくり時を刻みたい時計や、走ったり止まったり落ち着きのない時計や、たまには休みたい時計。
正確な時を刻むことからはみ出してしまう時計たち。
中には、そんな自分を気に病んで、「病んで」しまう時計もいるかもしれませんね。
しかし、人間は時計の個性など知った事ではありません。
調子の悪い時は誰にでもあるのに、私たちは時計には正確さを強要しています。
その矢印は、果たして時計だけに向いているでしょうか。
他人に対して、自分に対して、ゆとりない目線を向けてはいないでしょうか。
「直してやろう」なんて、なんとも上から目線です。
物に向かっている態度は、他者に向かう態度にもなりえ、自分に向ける刃にもなりえます。
警句的な一首だと私には思えました。

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