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百鬼夜行拾遺 霧

紅葉狩(もみぢがり)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [2]

紅葉狩もみぢがり
予五よご  将軍しやうぐん  惟茂これもち紅葉もみぢ がりの時、山中にて 鬼女きぢよ にあひし事、 謡曲ようきよく にもみへて、皆人のしる所なれば、ここに ぜい せず。

※ 「予五将軍惟茂」は、平安時代中期の武将  たいらの  維茂これもち
※ 「ぜいせず」は、必要以上の意味を付け加えない、という意味。


朧車(おぼろくるま)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [2]

朧車おぼろくるま
むかし、賀茂の大路を  おぼろ夜に  車のきしる音しけり。出てみれば、 異形いぎやう のもの也。  車争くるまあらそひ  の 遺恨いこん にや。

※ 「車争」は、平安時代に賀茂の祭り見物なので、牛車を泊める場所をめぐって従者たちが争うこと。


火前坊(くはぜんばう)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [2]

火前坊くはぜんばう
鳥部山とりべやまけふり たちのぼりて、龍門原上に骨をうづまんとする。三昧の地より、あやしき形の出たれば、くはぜん坊とは名付たるならん。

※ 「鳥部山とりべやま」は、平安京の東にあった葬送地「鳥辺野とりべの」のこと。
※ 「龍門原上」は、龍門原上りゅもんげんじょうつち  骨をうずむとも  名をめず、名を後世に残すという意味。


蓑火(みのひ)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [2]

蓑火みのひ
田舎道いなかみち  などに、よなよな 火のみゆるは、多くは 狐火きつねび なり。この雨にきる たみのゝ島とよみし蓑より、火のいでしは、陰中いんちう陽気やうきか、又は、耕作に くるし める百姓のすねの火なるべし。

※ 「たみのゝ島」は、田蓑たみのしま。大坂の淀川河口付近にあったとされる。


青行燈(あをあんどう)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [2]

青行燈あをあんどう
ともしび  きえんとして、又、あきらかにかげ  憧々どうどうとしてくらき時、青行燈あをあんどん  といへるものあらはるゝ事ありと云。むかしより、百物語をなすものは、青きかみ にて 行燈あんどう をはる也。昏夜こんやに鬼を談ずる事ななかれ。鬼を談ずれば、怪いたるといへり。

※ 「昏夜こんや」は、日が暮れて夜になるころ。


雨女(あめおんな)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [2]

雨女あめおんな
もろこし 巫山ふざん神女しんじよ は、朝には雲となり、ゆふべ  には雨となることかや。雨女もかゝる たぐゐ のものなりや。

※ 「巫山ふざん」は、中国の重慶にある奇勝で知られる巫山十二峰のこと。


小雨坊(こさめばう)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [2]

小雨坊こさめばう
小雨坊こさめばうは、雨そぶぼふる、大みねかつらぎの山中に 徘徊 して  斎料ときりやう  をこふとなん。

※ 「大みねかつらぎ」は、修験道で知られる大峰山と葛城山のこと。
※ 「斎料ときりょう」は、 僧侶のときにあてる金銭や米などのこと。


岸涯小僧(がんぎこぞう)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [2]

岸涯がんぎ小僧こぞう
岸涯がんぎ小僧は、川辺に居て  うを をとりくらふ。その歯のき事、やすりの如し。


あやかし

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [2]

あやかし
西国さいごく の 海上 に ふねのかゝりる時、ながきもの舩をこえて、二、三日もやまざる事あり。あぶら の出る事、おびたゞし。舩人ふなびと 力 をきはめて、此 油をくみほせば、がひなし。しからざれば、ふね  しづむ。是、あやかしのつきたる也。


鬼童(きとう)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [2]

鬼童きとう
鬼童丸きとうまるは、雪の中に  牛の皮を かうふ りて、頼光らいくはう  を 市原野いちはらの にうかゞふと云。

※ 「頼光」は、平安時代中期の武将    源頼光みなもとのよりみつ   。酒呑童子の討伐で知られる。


鬼一口(おひにとくち)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [2]

鬼一口おにひとくち
在原業平ありひらのなりひら  二条 の きさき をぬすみいでゝ、あばら屋にやどれるに、鬼一おにひと口 にくひけるよし、いせ物がたりにみえたり。しら玉か何ぞと人のとひし時、露とこたへて  きえなましものを。

※ 「いせ物がたり」は、伊勢物語。


蛇帯(じやたい)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [2]

蛇帯じやたい
博物志はくぶつし  に いはくひと おびしき て眠れば、じやゆめ むと云々。されば、ねため る 女の 三重みえの帯は  七重なゝえにまはる  どく蛇ともなりぬべし。おもへどもへだつる人やかきならん。身は くちなは のいふかひもなし。

※ 「くちなは」は、蛇のこと。(形が朽ちた縄に似ていることから)


小袖の手(こそでのて)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [2]

小袖こそで
唐詩とうし
 昨日施僧裙帯上
 断腸猶繁琵琶弦
とは、妓女うかれめうせ ぬるをいためるにして、僧に 供養せし。うかれめの 帯に、なを 琵琶の糸のかゝりてありしを見て、はらわた  をたちて、かなしめる心也。すべて  女は  はかなき 衣服いふく 調度てうど に心をとゞめて、なき跡の小袖より 手の いで しをまのあたり見し  人ありと云。

※ 「妓女」は、中国における遊女、または、芸妓のこと。


機尋(はたひろ)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [2]

機尋はたひろ
はたひろは、ある女  おつと の出てかへらざるをうらみ、おりかゝれる はた をたちしに、その 一ねん はたひろあまりの じや となりて、夫の 行末ゆくゑ をしたひしとぞ。
  自君之出矣 不復理残機
と 唐詩にもつくれり。


大座頭(おほざとう)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [2]

大座頭おほざとう
大座頭おほざとうは、やれたる はかま穿はき、足に 木履ぼくり をつけ、手に杖をつきて、風雨ふううごとに、大道だいだう徘徊はいかひ す。ある人これにとふいはく「いづくんかゆく」  こたへ ていはく「いつも 倡家しやうか に 三げん を弄す」と。

※ 「木履ぼくり」は、木製の履物のこと。
※ 「倡家しょうか」は、 妓楼、遊女屋のこと。
※ 「三絃さんげん」は、中国の弦楽器。または、三味線の別名。


火間蟲入道(ひまむしにうだう)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [2]

火間蟲ひまむし入道にうだう
人生じんせい  つとむる  にあり。つとむる時は、とぼし からずといへり。いきて時に、えき なく、うかりうかりと ひま をぬすみて、一しやう をおくるものは、死しても、そのれい ひまむし 入道にうだう となりて、ともしび  の油をねぶり、人の 夜作よなべ をさまたぐるとなん。今 あやま りて、ヘマムシとよぶは、へと  ひと  五音相通ごいんさうつう  也。

※ 「五音相通ごいんそうつう」は、音韻額の用語で、五十音図の同じ行の音は互いに通用するという考えのこと。「すめらぎ」と「すめろぎ」、「いを」と「うを」など。


殺生石(せつしやうせき)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [2]

殺生石せつしやうせき
殺生石せつしやうせきは、下野国しもつけのくに  那須野なすの にあり。老狐らうこくは する所にして、鳥獣てうじう これに ふる れば、みな 死す。応永二年 乙亥きのとのい 正月十一日  源翁げんおう和尚おしやう  これを 打破だは すといふ。

※ 「源翁和尚」は、南北朝時代の曹洞宗の僧  源翁心昭。至徳二年(1385年)に殺生石を打ち砕いたことで知られる。


風狸(ふばり)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [2]

風狸ふばり
風によりて いはほ をかけり、木にのぼりそのはやき事、飛鳥ひてう の如し。


茂林寺釜(もりんじのかま)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [2]

茂林寺釜もりんじのかま
上州じやうしう  茂林寺もりんじ に狸あり。守霍しゆくはく といへる僧と して寺に る事、七代  ●●つねに 茶 をたしみて、茶をわかせばたぎるゝ事、六、七日にしてやまず。人、その鎌を名づけて 文福ぶんぷくいふ●●● 武火ぶくは  のあやまり●、文火ぶんくは とは、縵火ぬるきひ 也。武火とは ●火つ●さひ 也。




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