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『落研ファイブっ』(18)「バールの使い道」

〔多〕「これより、熊五郎さんからビーチサッカーのレクチャーを受けてもらう」
〔仏〕「あのびっくり人間大集合みたいな場に行くの。絶対嫌だって」
 仏像は多良橋たらはしたてにした。

〔シ〕「おたくの部長、良くあの一団に向かってカメラを回し続けられるね。俺ら落研が色物だとすれば、お宅の部長は真の変態だと思うわ」
〔飛〕「真面目な部だと思って入ったんですが」
 飛島が困惑を隠しもせずにつぶやく。

〔多〕「いっそ飛島君も草サッカー同好会に転部しよう。入部希望者大募集中だからね。君の大好きな松田松尾まつだまつお君もいるよ」
〔飛〕「松田君がいるのに放送部を選んだ僕の気持ち、分かります」
〔餌〕「飛島君、高校で一皮ずるむけた男になろうよ。ヘイ、メーン、カモーンこっち来いよ」
〔飛〕「お断りします」
 飛島はえさ多良橋たらはしの誘いをきっぱりと断った。


〔仏〕「飛島君を部員にするのは諦めな。今日は松尾代理だから来てくれただけ」
〔多〕「だったらサッカー部の奴をうちに転部させるか」
 仏像のもっともな言い分に、多良橋たらはしはもっと実現しそうにも無い事を言い出した。

〔仏〕「いくらサッカー部が練習できない状態だとしても、俺たち素人のお遊びに付き合うほど落ちるわけねえだろ」
〔多〕「落ちるなんて言うなよ。俺は草サッカー同好会として、ビーチサッカーの大会を制する野望を持ってるの」

〔仏〕「そりゃ矮星わいせいの野望だろ。俺ら落語研究会には関係ない」
〔シ〕「そもそもビーチに草なんか生えてないし」
 仏像とシャモのどこか冷めた物言いに、多良橋たらはしはご立腹モードになった。

〔多〕「ぷんぷん。諦めの早すぎる男は二回目で捨てられるお」
〔仏〕「今のセリフをお宅のワイフに聞かせるぞ」
〔多〕「ワイフっ! 止めろ、それだけは止めてくださいお願いします政木五郎様っ」
 他愛も無い話をしながら波打ち際の面々に近づくと、そこでは遠目に見えている以上の事態が進行していた。


〔シ〕「バールのようなものを立ててドリブル練習をするのは分かった。でもなぜ足元に剣山を置くんだ」
〔仏〕「互いの腰を荒縄で繋ぎとめる理由を知りたい」
 剣山で気持ちよさそうに足のツボを押しつつ数珠繋じゅずつなぎになった応援部にげきを飛ばしていた熊五郎さんが、そろそろやろうかと声を掛けてきた。

〈熊五郎さんによるビーチサッカーレクチャー〉


〔熊〕「早速だがポジション決めから始めよう。ポジションの呼び方はGKがゴレイロ、DFがフィクソ、MFがアラ、そしてFWがピヴォ。ゴレイロ1、フィクソ1、左右アラ各1、ピヴォ1、すなわち1-1-2-1のフォーメーションが基本形だ。君らはどのポジションにきたい」
〔餌〕「サッカーをやりたがってるのは先生一人なんで、いきなり言われても」

〔熊〕「ならばそれぞれの性格と体格次第だな。ピヴォは的になれてかつきもの強いタイプ。目立ちたがりだとなお良いな」
〔仏〕「それってシャモ」
〔餌〕「ゴレイロは体形的に三元さんげんさんとして。フィクソは背が高い方が良いだろうから消去法で仏像」
〔仏〕「とりあえず今日は俺で」

〔シ〕「だったらそこのこじんまりとした二人が自動的にアラだ」
〔餌〕「名コンビ誕生」
〔飛〕「僕は今回限りの助っ人ですっ」
 ぎゅっと飛島の腕に手を回した餌に、飛島はいやいやと首を振る。

〔多〕「とりあえずそれでやってみるか」
〔熊〕「分かった。ではあちらに」
 熊五郎が指さした先に、バールのようなものが立てられた一角があった。

〔仏〕「狭いっ。この中でやるの」
〔熊〕「砂の上でプレーをするんだ。慣れないうちはバテるぞ。模範演武もはんえんぶを見せるからしっかとその目に焼きつけろ」
〔シ〕「模範演武もはんえんぶ?! ビーチサッカーって、ボサノバとかレゲエが掛かってる中で気軽にやる感じじゃなかった」
〔熊〕「ビーチサッカーは砂上の格闘技との異名を持つ。そのつもりで模範演武を見るが良い」
 シャモたちが困惑している中、見慣れたサッカーボールより少し大き目のボールを持った応援部がピッチに入場していった。


〔樫〕「押忍おす! これより一並高校応援部によるビーチサッカー模範演武もはんえんぶを執り行う。一同、樫村熊五郎師範かしむらくまごろうしはんに礼!」

〔仏〕「熊五郎さん含めても四人しかいねえよな。対戦相手もいねえ。どうする気だあいつら」
 およそブラジル発祥のスポーツとは思えない空気感に気おされながら黙って見ていると、二人の高校生らしからぬ部員がバールのようなものでピッチに何体かの男女を描き始めた。


〔樫〕「師範しはん、お願いいたします」
〔熊〕「うぬ」
 熊五郎は手元のバールのようなものを天高く振り上げると、【Roar!】と雄たけびを上げた。

(2023/8/4 一部改稿 2023/11/20 一部再改稿)

https://note.com/momochikakeru/n/n1c670be5005f

※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

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