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2020年度、コロナ禍での無料塾の取り組みまとめ

先日、中野区の社会福祉協議会が主催するシンポジウムに登壇してきました。生活困窮者や子育て世帯、外国籍の子の支援、また高齢者の居場所づくりなどを行っている団体が、コロナ禍でどのように工夫して活動をしてきたか、どんな課題があるかといったことを発信するシンポジウムです。

シンポジウムチラシ 最終版

私は第一部で、無料塾のこの1年の取り組みについてざっくりとお話をさせていただいたのですが、せっかくなのでnoteでも改めてまとめておきたいと思います。

まず前提として、私が運営している「無料塾」の活動内容についてですが……。

●主に経済的な理由で、有料の塾(家庭教師や通信教育含む)に通っていない中学生を対象にした、入学金・月謝無料の学習塾。基本的には毎週日曜日開催。
●講師としてボランティアで社会人・学生が集まり、ほぼマンツーマンで学習支援を行う。
●2014年に設立、毎年25人を定員として活動中。
学習支援の他、サマーキャンプやバーベキューなどのレクリエーションなども多数開催。受験生には平日夜の指導対応、年末年始の冬期講習なども実施。

今は全国で無料塾も広がってきており、私が活動する中野区内だけでも10団体以上となっています。小学生の宿題を見たり居場所を作ったりする無料塾や、区が運営する学習支援、オンライン専門の無料塾などもあります。その多くは低所得世帯の子どもを対象にしています。

私の団体で勉強をしている子どもたちの状況としては、こんな感じです。

●毎年6〜7割は母子家庭。兄弟姉妹の多い家庭の子も多い。
 ・母子家庭、お母さんが非正規雇用(派遣やパート、アルバイトなど)
 ・生活保護世帯の母子家庭(お母さんがご病気や障害)
 ・就学援助金を受けている世帯
●自分の学習机や学習用のスペース、本棚や辞書などがない子も多数。
 ・夏休みなどにも、家族で旅行やお出かけイベントがない
 ・美術館や博物館などには学校のイベントでしか行ったことがない
 ・家にパソコンはない

小さな弟・妹のお世話を任されている子(おむつを替えたり夜泣きをあやしたり)や、親御さんが障害をお持ちなどの理由で家事を一人でこなしている子もいます。兄弟の中で部活ができる人数が限られている子もいます(部活の道具を買うのにお金がかかるので)。

食べるものに困っているような子はまれで、見ていても接していてもみんなごく普通の中学生です。日本での「貧困」は衣食住に困る「絶対的貧困」ではなく、全体と比べて低所得状態にある「相対的貧困」ですから、パッと見て「困っている」とわかるような子どもはほとんどいません。
そこで勘違いされて、「見ていると全然貧困じゃないじゃないか、なぜ助けなければならないんだ!」という方もいます。ですが、上記のような状況にいる子と、自分の部屋や勉強机があり、塾や習い事も行かせてもらえて、旅行をはじめ文化的な体験をたくさんさせてもらえて、パソコンなどITに触れる機会もちゃんとあって(ただしライフラインとしてスマホは必須、シングル家庭では特に)、家事や子育てに追われず自分の時間を作れて……という家庭とを比べて考えてみてほしいです。その環境や経験の差が将来の格差につながってしまうのは、想像に難くありません。

さて、もともとこういう子どもたちが通う無料塾も、昨年からコロナ禍に見舞われています。

パートや派遣などのシフトが減ったことで、収入がさらに低くなってしまった家庭。昨年の休校期間中に食費が厳しくなった家庭。お金の面でさらに困難を抱える家庭が増えました。
そして、子どもたちは、たとえば休校期間には、家で勉強をしろと課題をいろいろ出されたけれど、そもそも家に落ち着いて勉強するスペースがないのだー!とか、小さな弟や妹もずっと家にいることになって面倒を見なきゃいけないのだー!とか、オンライン授業が始まってもパソコンやWi-Fiがないのだー!といった困りごとを抱えました。
受験生は模擬試験を受けたいけれど、そのお金の捻出が厳しくもなりました。
塾を卒業して高校生になった子たちの中には、高校卒業後の進学資金を貯めるためにバイトをしたいけれど、コロナ禍でできないという子もいました。
学校行事もさまざまなものが中止になってしまい、学校の授業以外のさまざまな体験の機会が奪われました。

一方で、一般的な進学塾などは普通に対面あるいはオンラインで授業を受けることができており……、無料塾としては特に休校期間中、「ここでさらに差を開かせてはならん!」と力が入りました。

とはいえ、1回目の緊急事態宣言では自治体が運営する施設が閉鎖となり、無料塾を開催する場所を確保することができなくなったのでした。……となると、全面オンラインで対応するしかありません。無料塾運営もさまざまな壁にぶつかることになりました。

……といった状況で、私たちはコロナ禍で次のような活動を行ってきました。

●2020年3〜6月の全国一斉休校期間では、オンライン指導を導入。2・3年生には担当者をそれぞれ決めて、zoom・LINEビデオ通話・Skypeのいずれかで対応。1年生にはSlackで通塾前の交流と簡単な宿題・添削。
●受験生の高校入試・模擬試験代を塾で一括負担し、塾で試験開催。
●区内の子ども食堂「上高田みんなの食堂」と連携し、月に1度生徒を対象にフードパントリーを実施。
●卒業した高校生たちを、上記フードパントリーの有償お手伝いに起用。
●毎年秋に行われる全国の無料塾の情報交換・交流会「無料塾シンポジウム全国大会」をオンラインで主催(例年は名古屋の会場にて実施)。

まずはオンライン指導の導入ですが、当然パソコンやタブレット、スマホを持っていない家庭はありました。これは、ボランティアスタッフなどから中古の端末を集めて配ることでなんとかできました。
ただ、Wi-Fi環境に関しては、私たちは手を出すことができませんでした。一部、Wi-Fi環境が整っていない子がいて、そういう子にはSlackなど文字ベースでやりとりができるツールを使いました。コンビニや駅などWi-Fiがつながるところで確認ができれば……という苦肉の策でした。
ちなみに、この期間にNPO法人カタリバさんなどが、パソコンをたくさんの子どもたちに配る活動などをされていて、本当に頭が下がる思いでした。

受験生の模擬試験代は塾にいただいている寄付金から、秋までは全員分を捻出することにしました。模擬試験も春夏は「自宅受験」となったのですが、自宅で5教科を受験できる静かで集中できる環境や、リスニング問題を流せる環境が確保できない子がほとんどだったため、会場もこちらで用意しました。

生活支援としては、食品や文具などを月に1度生徒家庭に届けるフードパントリーを行っています(現在まで続いています)。
物品は「Amazonほしい物リスト」を活用して寄付を募り、最初は私が自宅に集めて袋詰めをして各家庭に届けていたのですが、一人暮らしの狭い部屋に25人分の物品を集めて作業をするのに限界があり(宅配された箱が家の中に入りきらず玄関外に積み上がったことも)、もうムリだ……と思ったところに子ども食堂の代表さんが「うちでやりましょう!」と連携してくださることに。
物品は子ども食堂を開催している会場に集め、仕分けなども子ども食堂のボランティアスタッフさんたちがやってくださり、本当にありがたいことでした。

また、このフードパントリーの仕分け梱包や運搬作業には、塾の寄付金を使って卒業生たちに有償でお手伝いをしてもらうことにしました。アルバイトをしたくてもできないという高校生たちに、少しでも足しになればというのと、お金を稼ぐ経験をしてもらえればということで。
この有償お手伝いはとても人気で、毎回3名までの募集なのですが、お知らせをすると1時間以内にすぐ埋まってしまいます。「もう埋まっちゃいましたか?」の問い合わせに応えるのが心苦しい状況です。。。

さらに、全国の無料塾が集まって情報や課題共有し、アドバイスしあう機会となっている「無料塾シンポジウム全国大会」というのが年に1度名古屋で開催されているのですが、これも集まるのはやめようということで、オンライン開催になりました。
こちらは私たちの団体スタッフがITに強い方が多いため、主催をすることに。
他団体がコロナ禍でどのような工夫をされているか、どんな困りごとが起きているのか、今後どうしていくかという貴重な話を聞けるいい機会となりました。オンラインでやってよかった(本当は年に一度集まって飲むのも楽しみだったけど!)。

そんなことをやってきた1年で、気付いたこと感じたこととしては……。

●外出自粛になると、小さい兄弟が多い・自分の机やスペースがないなど、学習に集中する環境がない生徒たちにかなり不利な状況となる。
  →学習支援できる場所、自習できる場所が必要!
●学校の授業がオンライン化されると、PCやダブレットなどの確保はできてもWi-Fiなどがない・容量に制限のある家庭では不利な状況となる。
  →公的な支援をお願いしたい!
●オンラインだけでのコミュニケーション(学習指導)では、間合いの取り方などに戸惑い緊張してしまったり、顔を見られるのが気になったりして後ろ向きな気持ちになる子も。
  →対面コミュニケーションだと困りごとも話しやすい!
●ボランティア応募は増加。学校や会社に通わなくなった大学生・若手社会人に時間ができたこと、コロナが社会に目を向けるきっかけになったこと、対人交流の場を求めていることなどが背景にある。
  →大人にも居場所が必要!
●民間の心ある方々がたくさん支援をしてくださる!ありがたい!!!

まず、「場所」というものが奪われると本当につらいということ。
学習支援する場所が確保できればベストですが、自習するにも自宅では難しい子が多く、図書館も使っちゃダメとなると大変困ってしまうのです。

そして、授業をオンライン化します、学校教育にオンライン学習を導入しますと言われても、端末や通信環境がない子はどうすればいいのでしょうか。1人1台端末はGIGAスクール構想によって今年度の頭にはだいたい実現されている感じですが、通信環境!!!Wi-Fiプリーズ!!!

さらにオンライン学習ができるとしても、やってみて思ったのは、「特に学習が遅れている子には、オンライン学習は厳しい」ということでした。
もちろんやらないよりやったほうがいいのですが、表情が見られない、手元で何を書いているのか見られない、途中で通信が途切れるといった状況……教えるほうもなかなか大変でした。コミュニケーションの取り方も、ちょっと慎重になります。説明を理解してくれているのかどうか精神を研ぎ澄ませて感じ取ったり、緊張感をいかに和らげるかに心を砕いたり。
私の塾では生徒ひとりひとりに担当スタッフをつけてシフトとカリキュラムを組んだのですが、その管理や学習状況の把握などに私の時間はどんどん削られてしまい、本業のほうの仕事時間が圧迫されて睡眠時間はかなり減りました(これは泣き言です)。

ただ、いいこともたくさんあったのです。
ボランティアのスタッフが増えました。しかも、若手がかなり増えました。
会社がテレワークになったり、大学がオンライン授業になったりしたことで時間ができた20代が増えて、しかもそういう人たちが「困っている人の助けになりたい」「子どもたちのために時間を使いたい」と無料塾の活動に目を向けてくれたのです。
この1年ほど、毎月少なくとも5〜6人はスタッフ志望の方の面談を行っています。本当にうれしいです。
そして、そんな人たちと話していると、「ここは自分たちの居場所でもある」という感覚を持ってくださる方が多くて。
地域社会とのつながりが薄くなってきて、会社と自宅の往復しか行く場所がないという若い人たちはとても多く、大人にとってもこういう活動がサードプレイスとして機能するというのは大きなメリットだなと思っています。

ボランティアだけでなく、物やお金のご寄付をしてくださる方もたくさんいらっしゃり、企業からも多くの寄付品をいただきました。
企業からの大量のご寄付は社会福祉協議会がまとめて受け取り、地域の無料塾と子ども食堂に連絡され、必要な団体が取りに行くという流れもできました。これはめちゃくちゃありがたいことでした。
この社会も捨てたもんじゃないな……と思うことができました。
こうしたご厚意が背中を押してくださり、私たちは現場で力を尽くそうとモチベーションをいただくことができたわけです。


今年度も、さっそく緊急事態宣言が発出となり、会議室はどうなるんだ、困窮する家庭が出てこないか、などなど不安はつきません。でも、これまでの1年間、初めてのことをたくさんこなすことができたのだから、今年はもうちょっと気持ちに余裕を持って取り組めるはず。
そう、自分たちの力を信じて動いていくのみです。
まだまだたくさんのご支援が必要ですので、力をお貸しくだされば幸いです。何よりも、「何かできることはないか?」と一人でも多くの方が考えてくださることが、大切だと思っています。
よろしくお願いいたします!


▼私たちの団体「中野よもぎ塾」の生徒たちに、フードパントリー(文具や生活用品なども)でご協力いただける方は、こちらのAmazonほしい物リストからポチっていただけるとうれしいです!


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