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屈折した肉親愛


「眠り人形」 向田邦子

〈あらすじ〉

美しい姉と、その陰でいつも損な役回

りの妹。大人になり、それぞれ結婚し

て、立場が逆になった。ある日、それ

ぞれ問題を抱えた姉妹が実家にやって

来る。実家は両親が亡くなり、兄が跡

を継いでいる。姉妹は、兄には問題を

打ち明けるのだけど、見栄とプライド

でお互い、話せない。姉妹の屈折した

肉親愛を描く。

〈感想etc...〉

向田さんの描く小説は、とにかく細か

く生活面が描かれていて、昭和の風景

が浮かんでくる。特に、人物を描くの

がうまい。立場が逆転し、みそぼらし

くなった姉が、目を背けたくなるよう

姿で描かれている。妹も、上等な着物

や装飾品を身にまとい、いかに、裕福

な暮らしをしているかをうかがえる描

写になっている。

向田さんは、小道具を使うのがうま

い。この話に出てくる「眠り人形」

は、幼い頃、妹が姉からとられた人形

である。

その人形は、オカッパで、赤い麻の葉

の着物を着ている。真っ白い顔して、

横にすると、キロンと音がして、目を

つぶる。へその辺りを、押すと

「アー」と、奇妙な声を出す。この

本を読み返すまで、どんな話だったか

忘れかけていたが、この人形の事だけ

は、はっきりと覚えていた。

キロン、「アー」 キロン、「アー」

姉妹が、問題を抱えて実家に帰って

兄の前で、姉妹そろってその人形の真

似をする。

キロン、「アー」 キロン、「アー」

奇妙な情景が浮かんできて不気味。


結局、借金を抱えて心中を考えてた姉

夫婦を、裕福な妹夫婦が助ける。


最後はあたたかく終わる。


向田さんの小説は、心あたたまる場面

がある一方、心をえぐるような、苦し

くなる物語が多い。だけどほとんど

が、読んだ後はスッキリする。不思議

です。