天使の休息

柔らかな日差しが入り込む窓辺。
まだ朝早いというのに、いつもとは違う場所にいる違和感からなのか、アラームの音が鳴るよりもだいぶ前に、目覚めてしまった。

ふと隣を見ると、幸せそうに眠る佑美がいる。
彼女の柔らかい髪の毛にそっと触れると、佑美は一瞬だけ目を開けた後、少し笑顔になって俺の胸に顔を埋めてきた。

一昨日から来ているモルディブへの旅行。
水上コテージから観る景色は、「美しい」という言葉だけでは言い表せないほどだった。
日常に忙殺されて、こんな風に佑美の寝顔をゆっくり見ることなんて、ほとんどなかったな。
安心しきったように俺の隣で眠る佑美の姿を見ていると、彼女のことを守るのは俺なんだと、強く思った。

一世一代のプロポーズをするために訪れたモルディブ旅行。
今日は彼女の誕生日だ。
佑美は俺の言葉に、なんて答えてくれるんだろうか。
喜んでくれるんだろうか?
不安がまったくないわけではない。

佑美を起こさないようにデッキに出る。
そこからの景色は、何時間でも眺めていられそうな気がした。

「圭介、もう起きてたの?」

佑美がまだ少し眠そうな表情をしながらデッキに出てくる。
爽やかな潮風を思いきり吸い込んだ佑美は、俺に「おはよう」と言いながら、不意打ちにキスをしてきた。

「こんなに素敵な景色見てたら、戻りたくなくなっちゃうよね」

「そうだな」

日常を頑張っているからこその、至福の休息時間。
佑美の唇に、もう一度触れる。
目を閉じた佑美の表情は、安らかで天使のようだった。

「佑美、お誕生日おめでとう。俺と結婚してくれないか?」

ディナーまで取っておこうと思っていた言葉を告げると、佑美は今まで見てきた中で一番の笑顔になった。

「ありがとう。もちろん、よろしくお願いします」

天使が舞い降りた海。
佑美とふたりで並んで見たこの景色は、きっといつまでも忘れられないだろう。

記念日にはまた、ふたりで来よう。
至福の休息をしに。


fin


いつか自分の書いたものを、本にするのが夢です。その夢を叶えるために、サポートを循環したり、大切な人に会いに行く交通費にさせていただきます。