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映画化してほしい空自戦闘機小説3選。伝説の和製「トップガン」の感想も

「トップガン マーヴェリック」の評判がすこぶるよい。実に36年越しの続編でありながら……1作目「トップガン」と同じもしくはそれ以上の出来を期待してるであろう世界中ファンのプレッシャーを背負いながら……本当にファンを唸らせるトム・クルーズは心底あっぱれだと思う。早く観たい(まだ観てないんかい)。  

ときに、日本でも「トップガン」のように戦闘機がバリバリ飛ぶ映画(あるにはあるのだが…後述)があればいいにと思う。ドラマ「空飛ぶ広報室」で一躍ブルーインパルスが有名になったが、リアルな現代日本の"戦闘機乗り"を描いた作品をみたいのだ。実写化が無理ならアニメでもいい。映画化を熱望する以下の小説3選について語りたい。

「天神」(小森陽一)

【内容】
絶対にファイター・パイロットになるんだ―。親子三代での戦闘機乗りを目指す航空学生出身の坂上陸と、防衛大学卒業後、国を守りたいという強い思いから航空自衛隊に入ったエリートの高岡速。立場も考え方もまるで違う二人の青年の人生が交差するとき、心揺さぶられる熱いドラマが生まれる!戦闘機に乗ることに憧れを抱き、夢に向かって突き進む若者たちを描いた壮大な“空”の物語。

「BOOK」データベースより

「天神」以降「音速の鷲」「イーグルネスト」「ブルズアイ」「風招きの空士 天神外伝」5作品のシリーズ。著者は「海猿」原案者の小森陽一先生なのでファンも多いはずの同小説は、航空学生(空自のパイロット育成コース)だった主人公の坂上陸がウィングマークを取得し、さらに一人前のファイターパイロット(戦闘機パイロットのこと)として成長していく姿を描く。

ファイターという日本人にあまり馴染みのない世界を、20代の若者目線で極めてライトに、かつ細かく正確に解説し、とっつきやすさは満点。恋愛要素などもありストーリーの面白さやワクワク度も満点で何回読んでも面白い。

父も祖父も戦闘機乗りというサラブレッドの陸だが、学力レベルは最下位で飛行準備過程での成績も"墜落スレスレ"のお調子者の愛されキャラ。ところが、操縦桿を握った途端、天性のセンスで同僚や教官を圧倒するというギャップは読んでいてスカッとする。

対してライバルの高岡速(たかおかはやり)は防大をトップ成績で卒業したエリート中のエリート。冷静沈着で生まれながらのリーダーだった速が、落ちこぼれだったはずの陸に操縦の腕でどんどん追い越され、次第に追い詰められ、変貌していく……という展開も目が離せない。

ストーリーの主軸は陸や速らの成長と葛藤であり、そこには自衛官というフィルターはあまりない。自衛隊を取り上げた小説にありがちな政治的な匂いは一切なく、とにかく爽やかだ。

とはいえ登場する基地や戦闘機はもちろん実在し、厳しい訓練過程などもおそらくリアルなので、ハラハラするわ祈るわで没入感がすごい。さまざまな飛行シーンや「天神」のクライマックスシーンは映画化したらさぞ見応えがあるだろう(撮影大変そうだが)。

私個人の脳内再生では、坂上陸役が神木隆之介さん、高岡速役が吉沢亮さん、陸の同期の女性パイロットの大安菜緒が最上もがさん(「風招きの空士 天神外伝」で実際に「似ている」という設定になっている)、陸の父親で元ブルーインパルスの隊長…謎の理由でパイロットを辞めた…が江口洋介さん、だったりする。映画館に100回通うから映画化してくれ。

「全能兵器AiCO」(鳴海章)

【内容】
佐東理は東大卒で空自パイロットとなるが凄腕の名人達を目の当たりにし退職。いずれ戦闘機から人間を引きずり下ろすため、人工知能AiCO搭載無敵の無人機を開発した。だが、テストパイロットとして指名した名人郷谷良平が再び立ちはだかる!緊迫する尖閣諸島上空、無人機と名人の凄絶な空中戦が始まる。

「BOOK」データベースより

航空サスペンスといえば鳴海章先生だろう。空自の凄腕パイロット那須野が活躍する「ゼロ」シリーズは1990年代米ソ冷戦時代の発行でありながら、今も多くの戦闘機ファンに読み継がれる名作中の名作だ。

「全能兵器AiCO」の舞台は、最新ステルス戦闘機「F-35」が導入されつつある現代。中国は南シナ海南沙諸島ファイアリークロス礁(中国名で永暑島)の実行支配をするなど、緊迫の情勢を迎え、日本では人工知能「AiCO」を搭載したAI無人機がひそかに開発されていた……。

現実の政治情勢をしっかり反映させた上、戦闘機の空中戦やパイロットの心情などの描写がかなりリアルで読み応えがある。

主人公のエースパイロット「チャンプ」こと郷谷は、くだんのAI無人機の開発に協力することに。開発地の岐阜基地に来てみると、そこには元空自のパイロットで、過去にチャンプがこてんぱんにした「サトリ」こと佐藤が開発者として待っていた。サトリは生粋の叩き上げパイロットであるチャンプに対抗意識とコンプレックスを抱いた結果、パイロットの存在を否定する無人機を開発。さまざまな利権や思惑が交錯しつつ、最終的に「AI無人戦闘機」vs「エースパイロット」の一騎打ちが開始される。

自らの戦闘パターンを解析しつくされたチャンプがどのようにAIと戦うのか、「AiCO」はなぜ暴走したのか、両者の戦闘シーンは手に汗握る展開でページをめくる手が止まらない。これに加えて中国の裏社会や台湾の実力者なども「AiCO」をめぐって参戦するなど、ストーリー展開に目が離せない。

AiCOとチャンプの一騎打ちシーンを、是非ともスクリーンで観たい。妄想ではチャンプが坂口憲二さん、サトリが中村倫也さん。坂口さんの目力と体格は男気の熱血パイロットであるチャンプがぴったりだし、ゆがんだ知能派のサトリは中村さんがハマるはず。映画の予告のシーンで「ハートのない飛行機なんざガラクタだ」(byチャンプ)が流れるところまで想像している。

「スクランブル」(夏見正隆)

【内容】
平和憲法の制約により“軍隊”ではないわが自衛隊。その現場指揮官には、外敵から攻撃された場合に自分の判断で反撃をする権限は与えられていない。航空自衛隊スクランブル機も同じだ。空自F15は、領空侵犯機に対して警告射撃は出来ても、撃墜することは許されていないのだ。F15(イーグル)を駆る空自の青春群像ドラマ。

「BOOK」データベースより

「スクランブル」シリーズとして2022年6月現在12作品が発行されている航空アクション小説の人気シリーズ。青春群像劇とうたわれ、F-15戦闘機パイロットの風谷修と風谷に惹かれる女性たちの三角、四角……関係もたしかに見どころではある。

だがしかしそれより、設定上の日本という国の腐敗具合や、アジア周辺各国(あくまで架空)の陰謀と闇の組織が引き起こすとんでもない事件やテロと“正義の“自衛隊との戦いを主軸にしたストーリーが尖りまくっていて必見。架空の敵国があからさまに近隣諸国を風刺しているのでちょっと……だいぶ引っかかる人もいそうだが「そういう演出なのだ!」と割り切って没頭してしまった方が楽しめるだろう。

闇の組織に原発や旅客機を狙われたり、自衛隊基地を爆破されたりと、トンデモ事件が頻発し、その度に風谷ら自衛隊員は身を挺して戦おうとするのだが、”理不尽な”日本国憲法のせいでどんなに攻撃されても反撃できない。そうこうするうちに日本国民から悪者扱いされたり、警察が腐っていて自衛官が無実の罪でつかまったりと散々な目にあう。あんまりな展開に読んでいて非常にストレスが溜まるのだが、どんでん返しというか、その後の反撃の鮮やかさはとにかくスカッとするので結果的にストレスは解消。

メンタル弱めでどこまでも薄幸の美男・風谷のモテ男ぶりと、女性ファイターパイロットの活躍も見どころであるほか、前述のどんでん返しポイントの空自F-15vs敵国MiG-19の空中戦なども大いに楽しめる。また、風谷らパイロットたちのイケメンぶりも盛り上がりポイントのひとつだろう。3作目の「スクランブル―復讐の戦闘機」では先輩パイロット火浦の機転で形勢逆転する空中戦は爽快そのものだ。

著者の夏見正隆先生はどうやら元パイロットで、どうりで戦闘機の操縦描写や空中戦の模様もリアルだ。映画化すれば、ぶっとんだストーリーと派手な戦闘機アクションに釘付けになるのではないかと思う。

配役は、優男の風谷が成田凌さん、元証券レディーの苦労人女性パイロット漆沢美砂生が高畑充希さん、不愛想な美人天才パイロットの鏡黒羽が小松菜奈さん、部下思いで頭もキレるイケメンパイロット火浦が内野聖陽さん……としたいが、設定があまりにも奇抜で刺激的なので実写化は厳しいかもしれない。クラファンしたい。

【番外編】 和製「トップガン」こと映画「ベストガイ」

【内容】
北海道・航空自衛隊千歳基地。201飛行隊ロッカールームに掲げられたプレート、その「BESTGUY」というタイトルの下は写真がなく空白だった。ある日、一人の男がロッカールームで山本飛行隊長らを迎えた。不適な微笑と減らず口をたたくこの男こそ梶谷英男であった。梶谷は着任の挨拶を交わすなかで、吉永に対して憎しみととれる感情を向けた。二人の雰囲気に他の連中は怪訝な表情をみせる。東京からやってきたビデオディレクターの深雪は、梶谷に思いを寄せながらF15Jイーグルの撮影を順調に進めていく。やがて訓練幹部が3年間空席となっていたベストガイを再び千歳に誕生させると宣言する。盛り上がる隊員たちをよそに無関心な態度を見せるみせる梶谷だが、戦技訓練では抜群の腕前を発揮する。ベストガイへ最短距離にいるとされる沈着冷静な名高と梶谷は、反目しあいながらも互いをライバルと認め始めた。(C)1990東映・東北新社

「prime video」より

冒頭で述べたように、日本でおそらく唯一の現代戦闘機映画が「ベストガイ」だ。「トップガン」のパクリではない。オマージュ作品なのだ。大筋の設定は共通していて、主演は織田裕二、ヒロインは財前直見という豪華キャスト。さらに航空自衛隊千歳基地全面協力のもと公開されたとくれば、大ヒット間違いなしではないかと思うのだが……当時、興行成績はまったく振るわなかったらしい。

私も大人になってから存在を知り、ワクワクしながら観てみたのだが、なんというか、パイロットは全員不良か? というならず者集団だし、織田裕二のカッコつけ方はオマージュとかそういうことではなく、浮いてちぐはぐだし、財前直見のわがまま&迷惑女っぷりはイライラしっぱなしだし……。少しは知性と教養のある本家ヒロインのチャーリーを見習ってほしい。

肝心の戦闘機が登場するシーンは「自衛隊の実機による実際の飛行撮影が行われた」としていてさすがに迫力があるものの、ロシアのSu-27などの大事な領空侵犯シーンは特撮かCGで、興ざめだ。結局財前直見と織田裕二の恋の結末だけが(観客そっちのけで)大いに盛り上がり、そしてスベリまくり。最後のとあるサプライズ演出も「なぜ空自はこんなシナリオに協力したんだろう」という疑問しか残らない。ストーリーの最初の方で基地の塀を乗り越えて侵入してきたバカ女にあのようなビックサプライズを受ける資格はないと思うのだが。

実機のF-15飛行シーンや千歳基地の内部がふんだんに見られるところが唯一の高評価かもしれない。


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