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【漫画原作部門応募作品】私の兵隊くん 第一話


あらすじ
「———私の夫を殺してくれる?」
迷うことなく「はい」と言えるような私のために動いてくれる兵隊が欲しい。
美琴の結婚生活はまるで監獄のようだった。夫は度を超える亭主関白で、美琴に暴力を振るう日々。
暴力や暴言を受け続け美琴の感情は麻痺していく。そんな頃、隣人の大学生恭介と出会う。怖い見た目の彼は中身はピュアな青年だった。
美琴の生傷を見て、恭介は親切心から心配をする。そんな彼に「私の夫を殺してくれる?」と冗談で問う。すんなり断られてしまうが、女慣れをしていない恭介に色恋をかけて上手く扱えば、この生活から逃げるのに使えるかもしれない、と目論む。
美琴は恭介を自分のために働く兵隊にできるのか……



◼️登場人物

天音 美琴あまね みこと 女性 専業主婦 29歳
派遣社員として勤めていた会社で現在の夫(天音 透あまね とおる)と出会い結婚する。妊活に専念することを理由に退社する。
黒髪セミロングで細身の体型をしている。
派遣社員の自分がエリートのとおると結婚したことにどこか引け目を感じている。



天音 透あまねとおる 主人公の夫
男性 エリート会社員 32歳
黒髪で短髪。清潔感がある。外面が良いので美琴の親や友人は、透のことを優しくて真面目だと思っている。
裕福な家庭に育ち、父親が亭主関白でその姿を見て育ったので、女のことは下に見ている節がある
自分の言うことは全部正しいと思っている。
少しでも美琴みことに反発されるのが気に食わない。カッとなると手を上げてしまう。
美琴に暴言を言ったり酷い扱いをするが、美琴のことを愛している。愛情の示し方が分からず、歪んだ愛となってしまった。




相原 恭介あいはら きょうすけ 隣人
男性 大学生 21歳
黒髪でウェーブが掛かっているように髪の毛に癖がある。目と鼻のパーツが大きく堀が深く、濃い顔立ちをしている。長身でガタイが良いため、よく怖がられる。
大学生ながらもトレーダーの仕事で稼ぎ、大学生が住むには身に余るマンションに一人暮らしをしている。



第一話





私は家族という名の監獄から逃げ出したかった。この監獄から連れ出してくれるなら誰でも良かった。



■場所(天音宅)


天音美琴あまねみことは派遣で勤務していた大手企業で、天音 透あまね とおると出会い、交際を経て結婚に至った。


結婚してから、早いもので1年が過ぎた———。
夫は大手企業の部長にまで登り詰め、多忙の毎日だ。私は妊活に専念するという理由から数ヶ月前に派遣を辞めた。


付き合ってる時や、結婚当初は優しかった夫も結婚生活を続けていくうちに、優しさのかけらも見られなくなっていた。


携帯にメールが来たことを知らせる音楽が鳴る
時計は16時をさしていた。


透「ハンバーグ」

メールの送り主は、だ。いつもこの時間にその日に食べたいものをメールで送ってくる。

美琴「今日はハンバーグかあ。ひき肉がないな……はあ。また、買い物に行くしかないか」

夜ご飯は、透さんがその日に食べたいメニューに従わなくてはいけないため、前もって買い物が出来ないのだ。


美琴みこと〈せめて2〜3日分の献立の希望を出してくれたら、まとめ買いできるのになあ〉


毎日買い物に行くのが手間だから2〜3日の献立を決めてほしいと、お願いしたことがある。


透「はあ?明日の食べたいものなんて、今わかるわけないだろ?お前は馬鹿か?」

と言われて終わった。夫の暴言にはもう慣れっこだ。


美琴が夜ご飯のハンバーグの支度をしていると、携帯がなった。メールが来たようだ。

透「今から帰る」

この帰宅メールも毎日の日課だ。会社を退社すると同時に帰宅メールを送る。いつもメールが来てから30分前後で帰ってくるので、その時間に合わせて、料理とお風呂の準備をしなくてはならない。




時刻は19時30分。

美琴〈帰宅メールが来たのは19時10分だったから、帰ってくるまで後10分……そろそろお風呂沸かそう〉


給湯器の"ふろ自動"を押した直後、玄関の開く音がした。

美琴〈もう帰ってきた?!いつもより早い〉


いつも30分で帰ってくるところを今日は20分で帰ってきてしまった。
ご飯はあと少しで完成。お風呂は今入れたばかりだから沸くまで10分以上はかかる……。

美琴〈———間に合わない。とりあえず玄関まで出迎えに行かなきゃ〉


美琴「お帰りなさい。早かったね」


透「早く帰ってきたらダメなのか?」

美琴「そんなこと言ってないでしょ?」
〈帰ってくるなり嫌味を言ってくるのは日常だ〉



透「お風呂入るわ」

スーツをハンガーなどにかけるわけはなく、乱雑に脱いで床に落とす。私はシワになる前に急いでハンガーに掛けるのも日課だ。

美琴「ごめんなさい。今日帰ってくるのが早かったから、まだお湯が沸いてないの」


透「はあ?!」

美琴「だって、透さん帰宅メールからいつもは30分で帰ってくるでしょ?今日は帰宅メールがきてからまだ20分しか経ってないよ?」

透「俺が早く帰ってきたのが、いけないって言うのか?!」


夫が怒鳴り散らしたと同時に右頬に衝撃が走った。鈍い痛みがする。

美琴〈ああ。私また殴られたのか……〉

こういう時に反論すると、夫は逆上するので絶対に楯突いてはいけない。

美琴〈大丈夫。慣れっこだから〉

透「気分悪い。お前出てけ」

美琴「えっ?どこに———」

美琴〈いつもは自分が出て行ってどこかの女のところに行くのに……》


透「知らねえよ!お前の顔見たくねーんだよ!いいから出てけ!」

怒鳴りながら私の腕を引っ張ろうとした。
咄嗟のことで抵抗すると、無理矢理体を引きずられ、玄関の外に放り出された。

美琴「透さん!ごめんなさい!私財布持ってない」

夫「知るか!俺が連絡するまで帰ってくんな!」

美琴「透さん!透さん……」


奥の自室に籠ったのか、呼び掛けても返答はない。財布も持たず部屋着のまま放り出されて、これからどうしていいのか分からない。

美琴〈誰かに頼ろうか……透さんは外ズラがいいので、私の親も友達も良い旦那だと思い込んでいる。友達に自分がこんな扱いをされていることを知られたくない……。財布もなくてお店も入れないし、どうしよう……〉


夜の空気の冷たさが肌をさす。10月後半ともなると夜は全身を締め付けるような寒さだ。
防寒着がないまま放り出されてたので、身体の芯まで冷えてしまいそうだ。

美琴〈まあ、雨が降ってないだけいいか……〉

誰が見ても異常なはずなのに、この頃の私は日々の異常に慣れ過ぎていて、思考がおかしくなっていたのかもしれない。



途方に暮れていると玄関のドアが開く音がした。
その音に反応して、体が硬直するのが分かった。




開いた玄関のドアは我が家ではなく
———隣の部屋のドアだった。




  「あの——……」


声を掛けてきたのは長身で少し顔が怖い青年だった。眉間には皺が寄っている。

美琴〈お隣さん、初めて見た……大学生くらいかな?私より遥かに若い〉



隣人の男「……行くところないなら、うち入りますか?全部筒抜けっすよ?」



———これが彼との初めての出会いだった。




(第1話 終了)


第ニ話


第三話

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