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車窓からの景色 #書もつ

つねづね、エッセイと旅は相性がいいと思っている。旅は非現実でありながら、自分を知るための鏡のようであると思うから。エッセイもまた、鏡に映しているような気持ちで書いていることがある。

好きに没頭する、寂しさを味わう、誰かと分つ、何かを残す・・そこには個性という性質の結果が見えてくるのではないか。

子どもは寝る時間!なんて言われる深夜前の時刻に、チェロの音で奏でられる特徴的なテーマソングが流れ、海外の風景が映し出され、そこには電車が走っていて、それにクローズアップして・・。

旅の醍醐味とも言える”まだ観たことのない景色”を存分に見せてくれる番組だった。

我が家には、その番組と同じタイトルのカレンダーがあったけれど、不思議なことに、車窓からの景色はなく、大抵は引きの画面で、列車が走っている風景を撮っているか、駅の風景ばかりだった。


いのちの車窓から
星野源

彼の始まりの作品「そして生活はつづく」を読んで心配になり、しばらくしてから「働く男」を読んで、彼と肩を組んだ(心の中で)。

星野源といえば「いのちの車窓から」だと、何人かにおすすめしていただいた。ようやく手に入ったので、ゆるゆると読んでみようと紐解いた。さて、のんびり行こう、車窓からの景色を楽しみながら。

あれ、あれれ。鈍行列車に乗ったはずだったのに、流れる景色がみるみる飛んでいった。

まずい、快速だった。

文章のうまさというよりも、彼の思っていることが素直に言葉になっているように感じられて、それは正直に話す姿勢であり、かんがえていないようでしっかり思考している様子のように感じられた。

人との関わりのなかで、自分自身を許していく、うまく言えないけれど、たとえば建設的に諦めていくことの清々しさをみた。特に、時々でてくるタクシーの運転手との会話は、とても興味がある。

タクシーの運転手は、さまざまな人生を載せ、また運転しているご本人の人生も力強いと感じてしまう。旅行先などで乗るタクシーの運転手さんの話は、印象に残っているものだ。

そして彼もタクシーに乗ることでエネルギーを得ているところがとても好きだ。


彼のエッセイには、さらに歌とか芝居とか創作につながる話が多い。不器用だと言い続けていた以前のエッセイに比べて、とても滑らかに感じられる筆が羨ましくなる。

黒くてまん丸の瞳に吸い込まれそうだった。それは恋が始まった瞬間であった。

p124 柴犬

ふとした瞬間に、動物と目が合うと、ズキュンと音がしたように胸に衝撃が走る。相手はどう思っているかわからないけれど、とにかく可愛い。撫でたい、もふもふしたい、吸いたい・・などなど様々な思いが去来する。動物が好きな人なら、何度も体験した幸運な瞬間は、彼もまた同じであった。


時折すれ違う人には生活があって、そして紛れもなくこの場所には、日本の季節があった。

p171 恋

タイトルになっているのは、彼を一躍スターにした曲名かも知れない。音楽を作る人、詞を書く人、創り出す人の苦しみとともに、日常にある神様のような存在を感じてしまった。

あの歌には景色があった。その景色を見つけた時の懐かしさと嬉しさを共有した気がする。


快速電車が終点に着く直前、のちに妻となる方のことが書いてあった。温かく、そして尊敬の念を込めた記述に、素直に感激してしまう。

星野源、を僕はよく知らない。ただ、このエッセイを読めたことで、彼のことだけでなく自分のことを改めて見つめたくなってもいる。

まだ何かできるかも知れないな、と思うのだ。


夜の線路を走る電車、果たしてどこに向かっているのか・・綺麗なサムネイルですね。infocusさん、ありがとうございます!

#推薦図書 #エッセイを読む #車窓 #星野源

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