お腹とスマホ
夜の電車には、必ずと言っていいほどに、酔っ払っている人がいる。かつて、ここでも書いたことがあるが、僕は酔っ払いに絡まれるのは嫌だが、傍から観察するのは大好きなのである。
何かの液体のようなものが飛んできたり、手足が勢いよくぶつかるなどの危害がなければ、近くで見ていたい、見られない場合は耳を澄ませていたいのだ。
酔っ払いの方は、なんでこんなになるまで飲んだの?と思うほどにベロベロの方が多く、普段の人柄を想像することすら難しいほどに呂律も表情も危うい。
酔ったまま、眠ったような意識のまま、うまいこと帰宅するのだから、人間の脳は、果たして素晴らしい進化を遂げていると思う。
いまとなりの正面に、酔っ払いの方が立っている。2つの吊り革に身を預けて、ゆらりゆらり(むしろ、ごろんごろん)と揺れている。
立派に張ったお腹は、彼の歴史と幸せを感じさせる。身長も大きく、お腹も大きい。おそらく体重は大台に届きそうな体型をしている。
そんな酔っ払いが、目を閉じ、電車の揺れに合わせて身体を揺すっている。時折前にも迫り出してくるため、僕の隣で座っている男性のスマホに腹が当たったり、気がつけば男性の頭のすぐ上に酔っ払いの顔があるような体勢にもなっている。
とにかく、スリリングである。
お腹が当たるのはまだいい(男性はイラッとするだろうが)のだが、そもそもあんなに重たそうな身体を支えている吊り革を握る左右のそれぞれの手が、片方だけでも解けてしまったら、とんでもないことになる。
椅子に座った男性は、酔っ払いを疎ましく思いながらも、帰り道の電車でみすみす席を開け渡さんとして、薄い警戒体制を敷きながら座っている。
その隣で、僕がこうしてせかせかと指を動かしている。
酔っ払いの真骨頂は、停車駅で気がつくかどうかである。気がついた時は「おつかれー」ってな感じで背中を見送る。だが、違う駅でハッとしている酔っ払いを見るのは、これまた性格が悪いのだが、とても面白いのだ。
観察していた酔っ払いの方は、どうやら違う駅で気がついたようだった。降りるべき駅は通り過ぎてしまったのだろうか、しきりに左右を見て駅名板を探している様子だ。
そもそも景色が違うのに、同じ駅であることはあり得ない。そこに納得がいかないほどに、こんなはずではなかった・・と冷静であるはずのオレ、が慌てているのだろう。
僕はお酒が苦手なので、わざわざ飲まない。飲む機会があっても、最初の一杯くらいで留めて、美味しいお酒を飲んだなぁ、と思える記憶を大切にしている。
酔っ払いの方を見かけるたびに、こんなに飲んで、一体いくら払ったのだろうと思ってしまう。
なんのはなしですか?
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