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ひたひた、にがにが #書もつ

初めましての作家さんの、しかもエッセイを初見で読んだ。作品を知らないのに、人柄を知ろうと思ったのは、いったいなぜなのだろうか。

名前が特徴的、もちろんそれだけではない。この人は、どんな人なのだろう。

読み始めると、なんとも言えない流れに乗った。社会を俯瞰しているような、人を拒みながらも、じつと観察しているような、不思議な距離感と現在と過去を行き来する浮遊したような思考が、次々と流れてきた。

目の前にいる人、目の前にあること、”何気ない日常”とはなんだろう。

夢に迷ってタクシーを呼んだ
燃え殻

ひたひたと染み込んでくるような、気がつけば口の中に苦いものが感じられるような、幻想的で少し苦しい景色があった。なんだ、やっぱりそうか。

幼少期の暗い記憶は都合よく忘れられるものと、しつこく居座るものがある。しつこいほうに囚われると、足がすくみ前に進めない。

だからと言って、忘れたフリをして日々をやり過ごしても、何かの拍子にどろりと溢れ出る。後悔と反省と、寂しさと諦めと、どれも当たり前に誰にでも存在している過去だけれど、書いてもらうと、安心する。

初めての小説が、行きがかり上、紙媒体になったという筆者。どうにもならないことは、おそらく知識や経験を重ねるほどに増えるのだろう。無知ならば、なんでもできると思ってしまうのだから。

ひとつひとつの話が、筆者のすぐそばで起きていて、過去の記憶も鮮やかで残酷だった。その上、これまた残酷な現実には、ただ漂って生きるのではなく、チャンスを狙って、できることを繰り出していくと書いた言葉にハッとさせられた。

〜後々タコ殴りにされたとしても、一発くらい世間に殴り返したい、という気持ちがまさって書きはじめた経緯がある。

p88 あなたは女の人に救われた経験はある?

過去の自分を励ますことは、これからの自分を肯定することなのかもしれない。思い通りにならない世間に、自らの拳を、言葉をぶつけているという。知性にあふれた反抗だと思う。

言葉を選ばずに言えば、筆者にはあまり深い考えはなくて、刹那的に感じていることが、しっかりと記憶に残っているような節がある。

その時その時で、生きているのだとわかる。

〜ときが経つと記憶はその人それぞれに編集され、改ざんされ、物語になってしまう。

p151 昨日のことを十年前のことのように書く

良くも悪くも、正しいと信じていることは皆違うのだ。正しさだけで記憶に残るのではなく、楽しさや苦しさ、辛さや悲しさ、気持ちが乗っかって思い出ができているのだと思った。

誰の記憶も否定しない、しかし自らの記憶は楔のように留め置くことの強さ。おそらくふだんの生活では見えてこないだろう。


こうして筆をとって言葉を連ねてくれたからこそ、健やかとは言い難いけれど、その人なりの心の来し方のようなものが肯定される気がする。

何かを書かなきゃ!と背負って書いているのではなく、淡々と不承不承でもありつつ、選んだ言葉が読み手に流れ込んでくる感じ。読んでいる時間は、温かさとは違いそうだけれど、励まされる幸せな時間だった。

都会の明るさと闇が感じられるサムネイル、infocusさんありがとうございます!きっといろんな物語があって、みんな生きていくのでしょうね。

#推薦図書 #エッセイを読む #燃え殻






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