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映画を作ってみよう

公務員になると、さまざまな仕事があると聞いていたし、実際に多種多様な業務がある。住民や市民といった、外に相手がいる業務もあれば、庁内(いわゆる社内)の管理的な仕事もある。お金を貰う(徴税など)こともあれば、お金を払う(購入や業務委託など)こともある。

多くの自治体で行われているものとして、例えば地域の資源を活用した住民サービスのようなものがある。以前の職場は、区域内に複数の大学があったため、大学と連携して地域住民・・特に子ども向けに様々なイベントを催していた。

大学と行政が連携・・?となるかも知れないが、幸運なことにそれらの大学は、個性的というか専門的なところが多く、名前を聞けば「○○を教えているんだね」とわかるような大学だった。

地域の中に、いくつかあった大学の中で、映画を製作することを専門にしている単科大学があった。その大学の協力のもと、夏休みに子どもたちが映画づくりを体験するというイベントを行っていた。建前は子どもたちへの体験の提供だけれど、その実、大学の講義の一環として学生たちも単位がかかっていた。

内容はかなり本格的だ。3日間の期間で、シナリオ執筆、撮影、編集、そして上映を行う。毎年、抽選で参加者を決めなければならないほどに申し込みがある。面白いのは「映画づくり」と言っても、撮影に興味がある子ばかりではなく、シナリオを書きたいとか、演技をすることに興味がある子もいることだ。

顔合わせをし、みんなで一斉にシナリオを書き、それを大学生や指導する教員が読んで選考し、班ごと分かれて映画にする物語を選ぶ。必要と思われるシーンを絵コンテ等にまとめ、さまざまな撮影する。その映像を編集によって繋ぎ合わせて、一本の作品にするのだ。

1日目の終了後にシナリオを読ませてもらったことがあった。参加している小学4年から6年生の考える物語は、日常のことからSFのようなものまで多様だ。きっとその時に流行っているアニメや芸人も影響しているのだと思う。

中には、昨年も受講している子がいて、続編としてシナリオを書いている子も何人かいた。オリジナリティって・・・と思いつつも、楽しかった記憶が強いのだと解釈すると運営側としては嬉しくなる。

撮影の機材も、大学の備品ということでちゃんとしている。カメラだけでなく、マイクや時には照明もあったかも知れない。基本的には大学の構内で撮影するため、教室のようなテイストの場面が多かった記憶がある。

その大学の校舎は、地域の小学校だった場所。小学校の教室”のような場所”ではなく、本当の小学校の教室が残っている。

撮影ののち、映像を観ながら編集作業をして、最後の仕上げは大学生が(徹夜して)行い、上映会を迎える。上映会はこれまた本格的で、地域にあるイオンシネマが協力してくれてスクリーンが提供される。ふだん、映画を観に行く場所で、自分たちが作った映画が上映されるのは、嬉しいだろう。

たくさんの時間を使って作っているものの、大体5分くらいのショートムービーが出来上がる。特徴的な視点で、シナリオも独特なものがあったり、拙い演技ながらも真剣に演じているのが伝わってくる。

例えコメディだったとしても、僕が保護者の立場だったら、大きなスクリーンに映された我が子の姿を観て、涙を堪え切れないだろう。

上映が終了すると、作品ごとに製作関係者(子どもたち)たちが並び、インタビューのようにして感想を言ったり、苦労話をしたりする。まるで舞台あいさつのようだ。

イベントの期間中、その様子を撮影している学生がいて、メイキング映像としてまとめ、後日参加者に「夏休みの映画づくり3日間の記録」みたいな一本の作品として提供してくれる。映画づくりだけでなく、エンタメ精神を発揮する大学側の計らいに感激した。(その分こちらが払う経費は増えるけど笑)

僕が担当していた年に、心を掴まれた作品があった。

目が覚めたら周囲の子どもたちが姿を消していて、人間そっくりの宇宙人たちが地球を侵略しており、最後は、その宇宙人たちに殺されてしまう・・という、短編ながらグッとくる設定の作品だった。

上映後の劇場内は、ややざわついたようだった。演技や設定のうまさもさることながら、子どもたちが子どもたち(のように見える宇宙人)に殺されてしまうラストだったからだ。

終映後、ある保護者のアンケートには「子どもの教育の一環として、映画づくりをさせているのに、殺人のようなテーマが扱われるのはどうか」と記載があった。個人的に、小学生がSFのような設定で短時間であれだけの緊張感のある映像を作ったことに感激していたので、その意見にはカチンと来てしまった。

しかし、よく考えてみると、映画に限らず表現活動は、賞賛されるだけのものが質が高いかというとそんなことはないはずだ。批判的な意見が出てこそ、人気があるなんて言われ方もしている。保護者のような大人が、眉を顰めてしまうような作品ができることもまた、ひとつの成功例なのかも知れないと思った。


夏休みに体験した子どもが、大学生になって戻ってくる日が来るかも知れない・・と大学生が言っていた。

それが実現したら、ぜひ映画にしてほしい・・なんてね。





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