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月曜日の図書館 whispers in the library

深夜の時間帯は危険だ。判断力が著しく低下している。後から冷静になって考えてみると、どうしてこんなものを?というようなものを買ってしまいがちだ。

先日もネットをだらだら見ていて、図書館のささやき、という名の香水を見つけ、気づいたら購入ボタンを押してしまっていた。

数日後に届いたそれは、とんでもなく甘ったるいにおいだった。血糖値の限界までマカロンを食べさせられる拷問みたいだった。

そもそもわたしは香水をつける習慣がない。

図書館には常時3〜4人ひとりごとをお客さんたちがいて、しかも決してかち合うことがない。注意深く観察していても、彼らの出没する曜日、時間帯には特に法則性がないように思われるが、不思議なことに、同時に2人以上がフロアに現れることはないようなのだ。

ひとりごとはあくまでも一方通行に発せられるもので、それが会話になることはない。そしてどんなに耳をすませてみても、何をしゃべっているのかは決して聞き取れない。

まるで図書館自体がささやいているような。

それをBGMに返本するのが当たり前になっていると、他の利用者から注意してください、と注意される。どんなふうに声をかけたらよいのだろう。係長に相談したら、どうかされましたか、とか?と自信なさそうに言う。

どうかされてるからひとりごとを言っているのではないだろうか。

Dがすのこを持ってきて、これは何でしょう、と言う。この地方の方言で「ざら板」と言うそうだ。庶務係でいらなくなったから、ここで使わないか。

みんなに相談した結果、床に直置きされていたプリンタの台にもらおうということになった。少し大きすぎたので、Dがマイのこぎりで切ってくれる。部屋いっぱいに木のさわやかなにおいが広がった。

再任用職員のおばちゃんが、これは木製風じゃなくてちゃんと本物の木を使った製品だから、図書館が貧乏になる前に買ったものに違いない、と名推理する。

身にまとうならこんなにおいがいい。

ひとりごと集団の中には困った人もいて、ささやくどころか大声でわめく。自分の受けたひどい仕打ち、自分を貶めた人に対する罵詈雑言、世の中への不満。

注意しても聞かない。というか聞こえていないように見える。自分の周りに他者がいる、という認識が欠落している。

しゃべることができるということと、他者と関わり合えるかどうかは別の話。

体が大きい課長が圧をかけると止めるので、全くわからないわけではないのかもしれない。「どうかされている」状態でも、本能が怖いものを察知するのだろうか。

図書館の客層は千差万別、どんなタイプ、と簡単にくくることはできない。自分の考えでは遠く及ばないような行動を取る人もたくさんいて(そこにも共通の傾向はない)、そのすべてを受容&共感することもできない。

その上で、心を変に固くしたり、気づかないふりをしてすべてを背景に閉じこめたりしないためにはどうしたらいいか。

図書館の仕事は、実際には本よりも人間のことを考える時間がずっと多く、しかもそれはたぶん、正しい。

ということをつらつら考えている深夜、一年前からほしかった「100日後に死にそう」なワニ柄のTシャツがセールになっているのを知り、またもや購入ボタンを押そうとしている。

vol.71

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