みみみ

公共図書館で働いています。働いている人や来てくれるお客さんの、ちょこっと変テコで愛おし…

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公共図書館で働いています。働いている人や来てくれるお客さんの、ちょこっと変テコで愛おしい言葉や行動が、図書館ならではのやさしい雰囲気を作っていると思います。わたしが働く前に何より一番知りたくて、今でもみんなに一番知ってほしい、その雰囲気について書きます。

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月曜日の図書館1 あいさつから始まらない

本を抱えた利用者がゆらゆら漂っている。カウンターのN本さんは内職をしている。気づいているのか、いないのか。意を決した利用者が、カウンターに本をおずおずと置く。 貸し出しですね。N本さんがほとんどささやくように言って、利用者はやっと安心する。正しいカウンターにたどり着いたのだ。貸出券を差し出して、手続きを済ませる。 利用者に本と返却期限票を手渡すと、N本さんはまた、手元の電話帳に目を落とした。背表紙にシールを貼りつけていく。広島は赤い鯉。熊本は辛子レンコン。最近のタウンページは

    • 目に見えるものだけ (月曜日の図書館218)

      今年は異動になる、という予感があったので、年明けから少しずつ身辺整理をしていた。わたしは基本的に誠実な人間だし、正直に仕事をすることが結局は自分のためにも一番良い、という心情なので、闇に葬らなければいけない書類などはない。 問題は机の中の大半を占める、私物だ。「自分の心を守るため」「家じゃ使わないから職場で」などと理由をつけて折に触れ持ち込んだ私物が、どの引き出しにもぎっしり詰まっている。そもそも机に置いている書類ケースからして備え付けのものではない。この係に越してきたとき

      • そういう年齢 (月曜日の図書館217)

        閉館後、もう誰もいないと思ってフロアの電気を消したら、数秒経って暗闇の中からフラ〜っとW辺さんが出てきた。まだ本棚の整理をしていたらしい。 図書館の人は、みんな奥ゆかしいので自分の存在を主張しない。言ってくれればよかったのに、とつぶやくと横にいたK氏から、言えなかったんだよ、と言われる。あなたはもうこの係では先輩なのだから、もう少し自分の発言や行動に自覚的にならないといけない。 つまりは自分の想像以上に権力を持っている、ということらしい。 自分の後に10年も後輩が入らず

        • 絵本はもう読まないのよ (月曜日の図書館216)

          小学校中学年くらいになると、本を読まなくなった。別に本と訣別する!と思ったからではなく、単純に読み聞かせから卒業したためである。 小さいころは親が絵本を読んでくれて、ただそれを聞いていれば本の世界に入って楽しかった。ところが年齢が上がるにつれて、本は自分で読むものになっていく。 自分でページをめくって、字を追ってまで、読書というのは楽しい行為だろうか。わからない。眠る前に布団の中で読み聞かせてもらうという時間そのものが好きだっただけのような気もする。 だったら、まあ、読

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          本能が逃げろと告げている (月曜日の図書館215)

          他にそうじゃない選択肢はいくつもあったのに、10年以上、ずっと接客の係だった。わたし自身がもっと強く訴えるべきだったけど、何しろぼんやりして「他の道」に気づいていなかったのだし、ここは部下を俯瞰して見られる立場の上司が早めに手を下すべきだったと思う。 たぶんわたしはうちの職場で一番、接客が苦手だ。というより図書館界で一番かもしれない。接客NG選手権があったら優勝する自信がある。 先日も苦手なおじさんがやってきて、わざわざよそから椅子を引っ張ってきて腰を据えて話をしようとす

          本能が逃げろと告げている (月曜日の図書館215)

          求ム次世代ノ人材 (月曜日の図書館214)

          郷土資料の担当をしている関係で、図書館の仕事と並行して、郷土愛好会の事務局の仕事も行なっている。読書会や児童書研究など、本まわりの活動の事務局を図書館が担うことは昔からあったみたいだが、今では唯一この会だけになった。 古い時代はあいまいな位置付けだったこれらの活動も、「公務員の仕事とそれ以外」をはっきりさせるべきという時代の流れを反映して、あるいは単に人員削減でそこまで手が回らなくなったという理由で、ほとんどの会は図書館から離れた。 妥当な成り行きだと思う。 できるなら

          求ム次世代ノ人材 (月曜日の図書館214)

          話にならない (月曜日の図書館213)

          風邪を引いたら、熱が下がった後も咳だけが残り、とうとう声が出なくなった。仕方がないのでカウンター当番を代わってもらい、最低限片付けなければいけない仕事だけを細々とやって早退けするという日々がつづく。 予兆はあった。前の週、カウンター表を作る人から、いろんな仕事が立て込んでて大変だけど、倒れて迷惑かけないようにしてね、と言われたのだ。 ふられたら、期待に応えないといけない。 メールレファレンスと選書会議の当番が、同時に回ってきた。おまけに何年も放っておかれた本の仕分け作業

          話にならない (月曜日の図書館213)

          承認欲求のおばけ (月曜日の図書館212)

          これまでの図書館の歩みをまとめた記念誌を作ることになって、編集方針に則って誠実に行われるものだと思っていたのに、いざ全体のページを見渡してみると、当初の想定と違うところがある。 力の強い係の紹介ページが、明らかに多くなっている。 中央館の中に係が複数あるし、市内の分館もたくさんあるから、全部をまんべんなく取り上げ、かつ内輪でない人が見ても楽しめる内容になるよう心を砕いてきたのに、これではどう考えても偏っている。 抗議の声は一応上げたが、編集会議のリーダーがすでに承諾して

          承認欲求のおばけ (月曜日の図書館212)

          知識の泉 (月曜日の図書館211)

          机に置いてあったメモ用紙を何気なく裏返したら、白黒の写真が印刷してある。無表情のおじさんで、古事記に出てくる何かの神さまのコスプレをしている写真のようだ。 レファレンスのために資料をコピーをして、いらなくなったのでカットしてメモ用紙にしたらしい。下の方に「出口王仁三郎」とある。 K氏に見せると「ああ王仁三郎ね」と知り合いみたいに言う。日本における信仰宗教の草分け的存在らしい。なぜ知っているのか。 神さまのかっこうをして、たぶんうれしいし得意げにしたいのに、それを極力外に

          知識の泉 (月曜日の図書館211)

          できること、できないこと (月曜日の図書館210)

          地震から避難してきた人たちは、市内在住でなくても、証明書がなくとも、館長判断で貸出券を発行してください。 新年早々に通知が来た。前に大きな地震が起こったときもやっぱり同じ通知が出たし、外国で戦争がはじまったときもだった。避難してきてすぐに図書館に行こう、本を借りようと思う人はいないかもしれない。 それでも、受け入れる体制があると、態度で示すこと自体に意味があるのかなとも思う。 地震が起こってからの数日間は友だちと連絡が取れず、安否がわからない人リストを確かめながらやきも

          できること、できないこと (月曜日の図書館210)

          年の瀬ゴーゴー (月曜日の図書館209)

          昼休みにいつものカフェに行ったら、見慣れない店員さんがいる。ポイントカードを持っているかと聞かれたので持っていると言う。よく使っていただいているのかと聞かれたので首肯する。 本社から視察に来た正社員の人かもしれない。いつも淡々としている店員さんが、今日は2割増の笑顔だ。つられてわたしもいつも以上に接客されて嬉しい様子を表現してみた。ポイントカードを所持している優秀な顧客として、みなの模範となるべき行動を取らなければ。 わたしたちの共犯により、この支店の評価はAプラスになる

          年の瀬ゴーゴー (月曜日の図書館209)

          本の探偵 (月曜日の図書館208)

          昔読んだ本のタイトルが知りたい、という相談がきた。小学生のときに読んだ物語。恐竜が出てくるお話で、恐竜が死んでしまった理由を調べる話だったと思う。ヒントとして、石が出てきた。 こういう質問は頻繁にあるわけではないが、図書館でのレファレンスの王道ではある。調べるためのツールをどれだけ知っているか、そしてこれまでにどれだけたくさんの本を読んできたか、司書の能力と経験とセンスが特に問われる内容だと言っていいだろう。 ちなみにわたしは大変苦手である。 一般的なノウハウというのは

          本の探偵 (月曜日の図書館208)

          VR図書館を考える会 (月曜日の図書館207)

          机の上におやつが置いてある。チラシ用に絵を描いたので、その報酬だ。男とも女ともつかない人間が、スマートホンを持って笑っている。「音声読み上げソフトがあれば、スマホで聴くこともできます」。 目の不自由な人向けに本の内容を音訳するボランティアの、養成講座のチラシなのだった。録音に使う機器のイラストだけでは味気ないので、使っている人のイラストを描いてほしい、という依頼だった。 指の本数を間違えたりぼかしたりすると苦情がくるらしいので、スマホを握る指は気をつけてしっかり5本描いた

          VR図書館を考える会 (月曜日の図書館207)

          しりぬぐいレポート (月曜日の図書館206)

          あるときから行動と言動がちぐはぐになって、しまいに長い間仕事に来なくなった人がいて、その人が同じ係にいたのは2年も前なのに、いまだに置き土産が見つかることがある。 事務室の棚、研究室の床、書庫の隅、まるでリスが食べものを溜めこむように、あらゆる種類の仕事がやりかけのままで放置されている。「後でやる」とメモが貼りつけてあるものもあるが、本人はもう忘れているだろう。 病んでる人は片づけられないって本当だったんだ。S本さんがつぶやいた。 せっかく本人は別の係に行ってまた調子が

          しりぬぐいレポート (月曜日の図書館206)

          発熱せよ (月曜日の図書館205)

          風が強い。事務室には窓がないはずなのに、ごうごうとうねりながら吹き寄せてくる。おそらく1階の自動ドアが開くたびに、めぐりめぐって2階にまで到達するようだ。ドア付近を調べに行くと、巻きこまれて入ってきた落ち葉が積もりかけていた。野趣あふれる図書館。 職員も利用者も、それぞれに着膨れて自衛している。室内だからといって安心してはいけない。本を読むという行為は、クリエイティブな営みと見せかけて物理的な熱は少しも生み出さないのだ。できるだけ早く借りて帰るか、居残るつもりなら定期的に体

          発熱せよ (月曜日の図書館205)

          夢がいっぱい (月曜日の図書館204)

          夢を見ない、というおばあさんがまたやってくる。以前は夢を見る方法を知りたがっていたが、今回は夢を見るために実践していることを報告しにきたのだった。ヨガとか瞑想とかに取り組んでいるらしい。 おばあさんは話しはじめるとなかなかカウンターから離れない。つかまったW辺さんがそれとなくまとめようとすると、一旦は立ち去りかけるのだが、途切れそうになる瞬間に次の波がせりあがってくるらしく、またもや盛り返す。追いかけてる歌手の写真集がどこで買えるのか。ザワークラフトはどうやって作るのか。

          夢がいっぱい (月曜日の図書館204)