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「おねえさん」という呼び方

「おねえさん、おねえさん!」

大学生の時に、単発派遣のデモンストレーターのアルバイトとして、あるスーパーでの勤務中のこと。誰かがそう呼んでいるので、わたしのことかと思って声の主をキョロキョロと探したら、その人は同様に派遣されているような別の人に声をかけていたのだが……その女性は年の頃、60歳前後ぐらいに見えた。その場に「おねえさん」という年頃の人はわたしぐらいかな?と思い、自分に声をかけられたのかと咄嗟に思ったのだが、呼びかけた声の主の女性も、呼びかけた相手の女性もだいたい同年代ぐらいだったので、そういった場合には「おねえさん」でも通用するものなのか、と、それまで思ってもみなかった「おねえさん」と呼びかけられるケースにあらためて気が付いた。
たしかに、年齢を重ねても、自分よりも年上の女性だったら「おねえさん」には違いないし、同年代ぐらいの女性同士で「おばさん」と声をかけるのは感じが悪いかな、と。

時は巡り、一時帰国中の際に電車に乗っていた時のこと。母子ふたり連れが乗って来て、お子さんが小さかったので、「どうぞ」と席を譲ったところ、お母さんがお子さんに対して「おねえさんにありがとうって言って」と言われた。そのお母さんは、どう見てもわたしよりも若い。そして、その時のわたしはすでに一般的に日本で言うところの「おねえさん」なのか微妙なところだったので、心の中で、そういった時に「おねえさん」って言うんだなぁ!と、そのエピソードが印象に残った。
そのため、早速、高校時代の同級生と会った時にそのことを話してみた。友人は、「そういう時に“おねえさん”って呼ばれて、ちょっと嬉しいんでだよね~」と言ったが、わたしとしては、嬉しいのとは少し異なるんだよなぁ、と。いや、不快ではまったくないのだけれど。

わたしは、日本の姪にも、友人の子どもたちにも名前に「ちゃん付け」か「さん付け」で呼ばれるので、「おばさん」と直接呼ばれることがない。そして、自分でも一人称として「おばさんは」とは言わないので、あまりその自覚(?)もない。

日本語での名前も役割や職業を知らない間柄の女性への声をかけ方として、聞き覚えがあるものだと、「おねえさん」以外には、「奥さん」「お母さん」などだろうか。
社会人になり立ての頃、仕事帰りに商店街を通ると、魚屋さんや八百屋さんは、高い確率で「奥さん、奥さん!」と声をかけてきたものだが、いつも「奥さんじゃないのに……」と微妙な気分だった。まあ、そのぐらいの年齢でも「奥さん」はいるのだろうけれど。
「お母さん」というのは、TVの番組などで、レポーターやタレントの人が中高年ぐらいの一般女性に話しかける際に、使われているのを見聞きしたことがあり、男性の場合は「お父さん」が使われていた。その場に親子で出ていたら、「お母さん」「お父さん」でもよいのだろうけれど、年齢がそのぐらいだからといって、「お母さん」「お父さん」ではない場合は、どうなんだろう?と、ふと余計な心配をしたりもした。

イタリア語の場合は、そのようなシチュエーションでは、「シニョーラ/Signora」が使われる。マダム、夫人/婦人の意味になるので、「奥さん」と呼びかけるのに似ているところはあるものの、外国語だから、そこまで気にならないのかもしれない。
未婚女性や若い女性ならば「シニョリーナ/Signorina」になるが、日本語ならば「お嬢さん」というところか。理論的には、未婚女性ならばいくつでも「シニョリーナ」でよいようだが、一般的にそういった背景を知らないある程度の年齢の女性に「シニョリーナ」と呼びかけるのは、日本語で同様の女性に「お嬢さん」と呼びかけるのと同じぐらい奇妙なことかもしれない。
ただし、後ろから見たら「シニョリーナ」に見えて、そう呼ばれるということもなきにしもあらずだが。

このように考えると、日本語の「おねえさん」はわりと妥当な呼びかけ方かと思われる。

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