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わたしがむやみに動物に触れない理由

三つ子の魂百まで


子どもの頃、母から「動物にむやみに触らないように。触ったら、すぐに手を洗うように」と口酸っぱく言われていた。そのためか、わたしを含めて弟妹も動物とよく触れあうというような場面を見たことがなかった。いや、一緒に過ごしていないところでは、もしくは、大人になってからの彼らの行動は関知していないのだが、それでも、彼らが動物を飼っているようなことはないと思われる。
そのようにしつけられたので、家で動物を飼うこともなければ、わたしたち家族の誰かから「動物を飼いたい!」という声が上がることはなかった。この場合の動物とは、体温を感じられるような哺乳類や鳥類のことであって、魚類や両生類、昆虫や爬虫類は別として考えられていたようだ。
その証拠に、子どもの頃に、金魚やおたまじゃくし、カエル、何か昆虫などは飼ったことがある。それについては、母は止めなかった。

一方、小学校低学年の頃に、近所に引っ越してきたひとつ年下のちよちゃん(踊り子名:サンフランシスコ)のお母さんは、おそらく動物好きな人で、引っ越しして来てからほどなくして雑種のコロちゃんという犬を飼いだした。そういう家庭で育ったちよちゃんと妹のちとせちゃんは、わたしたちと違って、より動物に親しんでいたと思われる。コロちゃん以外の他所の犬にも、彼女たちはすぐに親近感を示し、近所で出会う犬には挨拶がわりによく撫でていたものだ。

ある日、わりと近所ではあるものの、どなたが住んでいるか把握していないお宅の前を通った時のこと。
そのお宅には、犬小屋があり子犬がいたので、その前を通る度に、ちよちゃんはかけよって、子犬を撫でていた。
その日も同じように、ちよちゃんは犬小屋にかけよった。わたしは、通りの方からその様子を見ながら、あの犬、この前まではもう少し小さかったのに、なんだか何日か見ない間に大きくなったな……子犬の成長はそんなに早いものなのか……と思っていた。
その瞬間、「あぁぁーーーーーーっ!!!」と、ちよちゃんが大きな声をあげ、泣き叫んだ。撫でていた犬に噛まれていたのだ!
ちよちゃんは泣きながら、犬から逃れようとしていたが、犬の力が強すぎて、逃れられないでいる。。わたしはどうしてよいか分からず、というか、同じ子どものわたしの力でその犬からちよちゃんを引き離すことができる気もしなかったので、「ちよちゃんのお母さんを呼んでくる!」と言い残して、泣いているちよちゃんをひとり置き去りにするのは非常に心もとなかったものの、大急ぎで彼女の家まで駆けていった。
わたしの知らせを受けたちよちゃんのお母さんは、わたしと一緒に大急ぎでちよちゃんと犬のところに駆けつけた。その時に、まだ噛まれたままだったかどうかはおぼろげだが、おそらく噛まれたままだったかもしれない。
ちよちゃんのお母さんは、犬からちよちゃんを引き離した。
その後、ちよちゃんとお母さんは病院に行き、わたしたちのいないところで、ちよちゃんのお母さんとその犬の飼い主さんとの話し合いがなされたと思われる。
話によると、その犬は、数日前までいた子犬ではなくて、別の犬だった。だから、ちよちゃんがその前に撫でていた犬とは別の犬だった。ちよちゃんを噛んだ犬は……おそらくどのようにか処分された。その後、その犬小屋は空になった。その犬が狂犬病の注射をしていたかどうかは分からないが、ちよちゃんは病院でおそらく腕を縫っただろうと記憶するものの、他は無事だった。
ちよちゃんのお母さんは、ちよちゃんたちに「見知らぬ犬にはむやみに触らないように」と注意した。
見知らぬ犬……ちよちゃんは、あの犬を見知らぬ犬ではなくて、数日前にも撫でて可愛がった子犬だと思って触ったのだから、思いこみでも、あの犬は見知らぬ犬ではなかったのだ。。。

もともと動物に触るような習慣がなかったわたしだったが、その出来事があって、なおさら、むやみに触れることはなかった。



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