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胃袋幸日記

とある日の深夜2時。私は飛行機の予約ボタンをポチッと押していた。1週間後。いま高松にいる。

そういえば5年前の3月もこうして高松にいた。瀬戸内のカラッとした空気に電線のない高い空。旅に出る理由は、美味しいうどんが食べたいとか瀬戸内のアートが見たいとかいくつでも思いつくが、ベルトコンベアのように運ばれてくる毎日からちょっとだけ逃げたい、と思っていたのが本当のところだった。

とはいいつつ美味しいものには目がない。今日は胃袋を3倍にして帰ってきた記録を紹介したい。

くいもんや おか村

17時に高松に着いた初日。この日の高松は小雨。春にしては寒々した道を歩きながら、頭のなかでは『吉田類の酒場放浪記』のBGMが流れる。数分すると美しい佇まいのお店が見えた。予約の名前を伝えるとカウンター席に案内してくださった。

少しお金ができた社会人5年目。背伸びしたい旅の最初のごはんはぜったいにここだと決めていた。きちっとした美しさを醸し出す店内で一人緊張しつつ、胃袋と相談しながらメニューを吟味。本日のおすすめからお刺身の盛り合わせ、那須の田楽、鯛と紫蘇の天ぷら、牡蠣の炊き込みご飯を注文。

お刺身の盛り合わせからはじめましょう。
うまい、甘い、うまい、甘い
つけあわせのわかめまで主役級の存在感だった。
そのお店の味を信頼すると苦手な食材を試す癖がある。ナス田楽もそのひとつ。
あつあつをホフホフと頬張ると革命的な美味しさ。
天ぷらは胃もたれするので避ける料理。
なのに頼んでしまうくらいすっかり大将に胃袋を預けていた
鯛と紫蘇、まごうことなきグッドコンビネーション。
締めには牡蠣ご飯を。
牡蠣のやさしい出汁を吸ったご飯がほっと沁みた

珈琲と本と音楽 半空

お店を出ると「コーヒー飲みたいかも」という気持ちが沸々と湧いてきた。時刻は21時。お酒ではないハシゴもなんだかすてきかもしれない。路地を曲がって、深夜3時まで営業しているコーヒー店へ。

階段を登り進めると
バーとコーヒー店の間のような雰囲気。
お客さんはみんな静かに本を読んでいる。このお店、当たりだ。
メニューには「北欧紅茶」があった。
スパイスティーを注文。2杯目はミルクを入れて愉しんだ。


お店を出ると23時。雨は上がっていた。宿まで徒歩20分のんびり歩いて帰りながら、初日から食べ物から飲み物までとびきり美味しいものに出会えたこと、作った方の顔をみて「美味しいです」を言えたことに胸がいっぱいだった。なんだかいい旅になりそうだ。

セルフうどんの店 竹清本店

2日目のお昼。高松にきて必ず食べたいもの。それはセルフ系と呼ばれるうどん屋さんだ。混雑を避けて14時ごろに到着。

このローカルな感じに胸が高まる
ちょっとしたアイドルに会うくらいのドキドキ
入店するとまずは天ぷらを注文するシステム
お姉さんがテキパキと「卵?ちくわ?」と聞いてくれる。「卵で!」
14時でも店内は混雑
お姉さんの捌き力ですぐにうどんコーナーに
0.5玉から選べるシステムに驚いた
薬味やつゆをカスタマイズして着席
卓上に並んだ調味料の使い方を地元の方に学ぶ

高松でうどんが食べられた達成感と大きくなったお腹を抱えて腹ごなしに歩く。沸々と「直島もいいかもしれない」という気持ち芽生えてきた。急遽、高松港へ向かう。

15時台の切符を買い、快晴のなかフェリーを待つ
船内ではミヤネ屋が放送中だったのでデッキへ
風の強さに圧倒されて笑ってしまった
50分程度で到着
ちょっとしたお散歩感覚でこれてしまう


いざ直島に到着すると目的に困った。かつて訪れたときに観光スポットはひと通り回っていたのだ。これはもう盛大なお散歩をするしかない。コーヒーを片手に歩く歩く。すると島全体が最高の公園となった。途中に寄った本屋では文化人類学の書物を購入。あっという間に18時になった。

ニュー おりんぴあ

今夜の夕食は直島で。どうしてもお魚の気分だったのでGoogle mapで高評価なお店を見つける。生も焼きも魅力的で迷います...と伝えると最高にいい感じの定食を出してくださった。

前菜の酢の物
ホタルイカはくさみとは無縁の食べやすさ
お魚を愉しむための定食
やはりこっちのお醤油は甘いことを確信
煮付けのあまりの美味しさに感動した

のろし

20時台の高速船で高松に帰還すると膨れたお腹はすでに萎んでいた。意欲的である。お魚の次はお肉がいいかもしれないと焼き鳥が美味しそうなお店へ。

1皿め。ねぎまの完璧な塩加減とジューシーさでしばし震える。
2皿めは椎茸串に鰹ぶしたっぷり。
お隣が昭和歌謡でイントロドンをしてて微笑ましかった
3皿めにはねぎまをおかわり。高松で食べたトップ3に入る美味。
なぜか胃袋に罪悪感を感じて突然きゅうりを食す

宿に帰還するとNHKのカルチャー系な面白い番組が放送されていたので釘付けになってみる。文化部はこんなに大胆で面白いのに政治部はどうしてしまったんだろうといつも思う。NHKの七不思議。明日の予定もとくに考えず、またあの卵天が食べたいかもしれないな、などと思いながら就寝。

セルフうどんの店 竹清本店

翌日の14時。再びあのうどん屋さんにいた。というのも午前中に訪れたうどん屋さんであまり気分のいい体験ができず、とほほとなっていたのだ。見事に伏線回収。

昨日感動した「卵天ください」を脳内で練習しながら入店。すると売り切れ!そりゃあそうだ。土曜日の昼である。むしろあの感動は分かち合いたいからな、などと考えながらちくわを注文しうどん1玉に温かい出汁と薬味をのせて着席する。

ちくわ天も3口で食べてしまった

なぜこんな軽やかな天ぷらが作れるのだろうと思って店員さんの揚げ姿を見てたら、揚げ油のなかに入れた素の具材に衣を少しずつ手ですくってかけていたのだ。あれ、ぜったいに熱い。あの愛情と手間を150円でいただけることに心から感謝した。高松にきたら必ずまた来ます。

ダイアン

お腹も気持ちもいっぱいになって市内を歩いていると東京の方から強いテレパシーを感じた。適当な仕事はしたくない自分。こだわりが芽生えてしまい、これはコーヒーだなと喫茶店へ。

たっぷり注がれた深煎りコーヒー
手作りアップルパイはあたたかった

最後に大好きな港までお散歩し高松にバイバイをする。詳しく書かないが宿も快適で、次の高松旅行も必ずここにすると決めた。信じられないことにまだお腹が空いていて空港のしょっぱいラーメンをすする。うどんが恋しかった。

21時に近い便で東京へ。空港から出てとび乗った終電に、自分の担当した製品広告がババン!と掲載されていて一気に現実に引き戻された。

前日の夜@直島
東京の音と光の違いにクラクラした


この旅から戻ってきて数日経つ。再びベルトコンベアのような毎日だけれど高松の美味や高い空を思い出しては「ほんとうにいい時間だった、ほんとうにそうだ」となんども余韻に浸っている。またほかほかの美味しいものを思いっきり食べる日まで。


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