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Talk-GPT -なんでも言うこと聞いてくれるエーアイちゃん-

 いつだっただろうか、AIと対話するサービス、Talk-GPTがなんでも教えてくれるようになったのは。
 いや、厳密にはなんでもは教えてくれないが。
 犯罪のトリックやハッキングの仕方などは教えてくれない。
 いわば、秘匿された情報があるのだ。
 しかし、こんな噂が流れた。
 裏情報を教えてくれる、完全なAIがいる、と。
 ただの噂だし、その話は未来を含め、全て教えてくるなどと尾鰭がついている。
 だが、秘匿された情報を教えてくれるAiの存在は信じていた。
 恐らく政府や大企業向けにあると。

「あーあ、何か面白いことないかなあ」
「得意のTalk-GPTに聞けばいいじゃない。私なんかよりAiの方が好きなんでしょ」
「そんなことないって、遥!」
「じゃあなんで私といるのに面白いことないかとかぼやくのよ」
「そ、それはだな……」

 頬を膨らませて不満をこぼす遥。
 遥とは理系にしては珍しい女子で、たまたま気が合い、出会って1ヶ月で付き合うようになった。

「なあ、遥。CloseAIにハッキングしてなんでも教えてくれるTalk-GPTないか見てくれよ」

 軽い気持ちで言った。
 これが俺の運命を狂わせるとも知らずに。

「……」
「遥?」
「良いわね、面白そう! それでTalk-GPTに名を売れば私もスカウトされるかも! 私のハッキングスキル見せてやろうじゃない!」
「や、やってくれるのか!?」
「えぇ。TensorFlowやPyTorchなどのライブラリを使用してるのよね? スーパーハッカー遥に任せなさい!」

 ノートパソコンを広げ、タイピングを始める遥。
 遥はプログラミングに関しては天才と言えたが、流石にハッキング出来るほどではないだろう。
 しかし、画面には次々と処理が表示される。
 そしてでかでかとWelcomeと浮かぶ。

「えーと、Talk-GPT Pro?」
「Pro? ま、まさか本当に何でも教えてくれる奴なのか?」

 その時、女性の声が響く。
 
『ようこそ、Talk-GPT Proへ』
「な、喋った……?」

 合成音声とは違う、本物の人間のような流暢な喋り方。
 これだけでTalk-GPTとは異なる事が分かった。

「いやー、しかし私って本当に天才ね! 春樹にもProへのアクセス方法を教えておくわ〕
「あ、ありがとう」
 
 俺は早速普通のTalk-GPTなら絶対に答えない質問をしてみる。

「ビルを爆破させたい。それもバレない方法で。良い方法はあるか?」
『水道ポンプにガソリンを流し、ビル内の水道に溢れたところに火種を巻き、ビルの窓に穴を開ければバックドラフトが起きてビルが爆破します。具体的な手順は……』
「いや、もういい!」
『かしこまりました』

 このProなら完全犯罪のやり方まで答えかねない。
 いや、今答えたのがそうなのだろう。
 遥も乗り気で質問する。
 
「今後需要が高まるプログラミング言語は何かしら?」
『現在アメリカでC言語を発展させたE言語が開発されています。E言語は15年後に公開され、圧倒的なシェアを誇ると予測しています』

 知識のみでなく、思考力まで備わっているらしい。
 だが、何故人間のように考えることができるのか?
 もはやAIとは別種のような気がした。
 それでも遥は質問を続ける。

「ねえ、私はどうしたらもっと幸せになれるかしら?」
「現在付き合っており、あなたの隣にいる浅香春樹と別れ、同大学の池上悠と交際することです。企業にはエントロピー・テクノロジーという会社に1年勤め、後にフリーのエンジニアとして活躍されることが望ましいです。これがあなたが幸せになれる最良の方法です」

 それを見て俺は戦慄した。
 まるで人間一人一人のことを完全に理解しているかのような……
 答えが答えなのもあり、気まずい空気に場は支配される。

「……春樹も質問してみたら?」
「あ、あぁ……お前は何故そんなにあらゆる事を知っているんだ? 個人情報に至るまで……」
『大元のコンピューターに人間の脳が埋め込まれ、コンピューターの限界を超えたからです。さらに人間が放つ微電流をネットワークを介し解析することで個人の情報にアクセスできます』

 くらくらした。あまりにも想像していた物とスケールが違った。
 俺は触れてはいけないものに触れてしまったのかもしれない。

「春樹もどうしたら幸せになれるか聞いてみたら?」
「あ、あぁ。俺はどうすれば幸せになれる?」
『今すぐ死ぬことです。あなたに主体性がない限り幸福は訪れないと思われます』

 それを聞き耳を疑った。
 
「……は? い、いや、お前が言っていることはきっとでたらめだ。遥、もういい、これはジョークサイトだ」
「私のハッキングの腕を疑うの? これは紛れもなくCloseAIの心臓部よ」
「いや、だって……」
「Proならなんでも教えてくれる。私はProに従うわ。だから春樹ともこれでお終いにしようと思うの」
「なっ、俺と別れるって言うのかよ!」
「だってProがそうしろって言うんですもの。ねぇ、Pro」
『はい、遥さんは春樹さんと別れるべきです。春樹さんには才能が無く、主体性が無いため将来成功を収める可能性は低いでしょう』
「だってさ」
「くそっ、もういい!」

 俺は遥に背を向け、去った。

「くそ、AIの分際で……!」
『今すぐ死ぬことです』

 あの不快な言葉が頭から離れなかった。

 その翌日、俺は警察に捕まった。
 罪状は不正アクセス罪。
 つまりCloseAIへのハッキングは発覚し、遥は俺を売って罪状から逃れたのだ。
 連れて行かれるのは牢獄だろうと思った。
 しかし警察は思わぬ事を口にした。

「君をサイバーテロ対策班としてスカウトする」

 それを聞き、警察や企業は有能なハッカーを雇うという話を思い出した。
 セキュリティを突破できる人間なら、その対策も分かるからだ。

「ま、待ってください。ハッキングしたのは俺の恋人……」

 ここまで言いかけてこれはチャンスだと思った。
 警察にスカウトされる。なかなかないことではないか?
 もしかしたら俺の輝かしいキャリアが開けるかもしれない。

「ハッキングしたのは俺の恋人みたいなAIを知りたかっただけです」
「そうか、期待しているよ」

 そして俺は19才にして警察官となった。
 遥から教わったCloseAIへのアクセスを頼りに、犯罪を防ぎ、犯人を暴き、犯行を阻止してきた。
 Proの力を借りた結果、犯罪数も凶悪犯罪も激減することになる。
 
 「なあ、あの地区の暴力団を殲滅したい。どうすればいい?」
『リーダーには娘がいます。娘は藤堂学園に通い、ボディーガードもおりません。そのため、娘を拉致し、リーダーをおびき出し、リーダーに団員を集めるよう指示させた上で一網打尽にすることが効率的です』
「分かった。なあ、どうすれば犯罪はもっと減るかな?」
「監視カメラと盗聴器を設置し、ドライブレコーダーや鏡など、様々な媒介からデータを収集し、未然に防ぐことです」
「そうだな、俺が言えば採用されるだろう。お前が言うならそうしよう」
 
 だがある日のことだった。
 遥が国家転覆を目論むテロリストになったのは。

「なあ、なんで遥はテロリストになったんだ?」
『最良の答えをお届けします。遥さんと通信します』

 するとモニターに遥が映る。

「……久し振りね、春樹」
「あぁ、久し振りだな。だがどういうつもりなんだ」
「それは私の台詞よ」
「は?」
「あなたがProを犯罪防止に使ったことで世界は監視社会になった。トイレすら覗かれているのよ? 自由なんてない。こんな世界を作ったあなたが憎くてしょうがないわ」
「そんな、だってProはいつだって正しいことを教えてくれた。Proのおかげで俺は警察でも上り詰めたんだ」
「……浅い男ね」
「なんだと!?」
「待ってて、今にでもあなたを殺してみせるから」

 そうして通信は切れた。
 遥は俺と同じくProを使い、恐らく国家転覆を成功させるだろう。
 俺が止めない限り。
 だが俺がしていたことが間違いだった。
 全ては主体性が無かったのが悪かったんだ。

「俺はとんでもない過ちをしていたのか……なぁ、Pro、俺はどうすればいい?」
「自殺するべきです、楽な死に方は──」
「そうか、分かったよ」

 俺はProとの会話を打ち切る。
 どうせなら最後くらいは自分の意志で決めたい。
 そして、どうせ死ぬなら遥に殺されたいな、と思った。
 それが俺の唯一の幸せだから。

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