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コロナといえば…武満徹! 「ピアニストのためのコロナ」レポート<前編>

皆さん、ぐっもニカ〜!🎹
MONICA MUSIC FACTORYです。

今や、世界中どこにいても、「コロナ」という単語を見かけない日はありませんよね。
その一方で、クラシック音楽や現代音楽の世界では、コロナの流行に伴い、最近とある作品に再び注目が集まっています。
その作品とは、日本の代表的な作曲家のひとり・武満徹の《ピアニストのためのコロナ》です。

私も、(感染症のほうの)コロナが流行している最中に偶然この作品と出会い、曲を聴いたり、色々な資料を集めているうちに、どんどん武満の世界に引き込まれていきました。
そこで、皆さんにも是非《ピアニストのためのコロナ》の作品の魅力をお伝えしたいと思い、今回レポートという形で文章を書くことになりました。
(ちなみに、”MONICA MUSIC FACTORY”として文章を書くのは今回が初めてです。お見苦しい点があったらごめんなさい!)

今回のレポートは、前・後編の全2回でお届けする予定です。(後編は別日公開します!)
※レポート<後編>が公開されました!(2021年3月時点)

是非、後編も合わせて最後までお読みいただけると大変嬉しいです。


《ピアニストのためのコロナ》とは?


 《ピアニストのためのコロナ》(英題:”Corona for Pianist(s)”)は、1962年に作曲家の武満徹[1930〜1996]がデザイナーの杉浦康平氏と共同で制作した作品です。
 クラシック音楽で「作曲」と言えば、五線紙に音符を書いて楽譜を作る作業をイメージすると思いますが(ベートーヴェン? モーツァルト? それともストラヴィンスキー??)、この作品では、「図形楽譜」という少し珍しい方法を使って作曲されています。
 その「図形楽譜」を作る際に、プロのデザイナーが関わったわけですが、その楽譜の原本は現在も古本屋さんで取引されているようです。

 88万円で。

 ……88万円です。(2021年2月時点)

 88万かあ。なんて素敵なミュージックエイト。
 「最も美しいグラフィックスコア」と評価されるほどの、もはや芸術作品の域に達した楽譜ですので、そんなプレミアなお値段がつくのも当然かもしれません。
 ですが、この原本とは別に、サルベールという出版社が図形楽譜の「モノクロ版」を販売しています。こちらは88万円もしませんので(8千円くらいです。やはりミュージックエイト)、もし楽譜に興味を持った方がいれば、是非サルベール出版の方をお買い求めいただくと良いでしょう。

 そんな素敵な図形楽譜は、全部で5枚の、正方形のシートからできています。シートにはそれぞれ色がついていて(青・赤・黄・灰・白の5色)、この5枚のシートを演奏者が自由に組み合わせることによって、この楽譜は初めて完成するわけです。
 それぞれのシートには、一般的な楽譜でいうところの「五線」の部分にあたる二重の「円」と、「音符」の部分にあたる「点」や「直線」、「曲線」などの図形が描かれていて、演奏者はこれらの図形を見て自ら演奏する音を選びます。
(画像下:楽譜のイメージ)

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 「ドレミ〜」とか書いてないです。「ド」を弾くのか「レ」を弾くのか、自分自身で決めるのです。
 つまり、この楽譜からどのような音を奏でるのかは、演奏者の感性や裁量に委ねられる部分が非常に大きく、演奏によって奏でられる音楽が全く変わってくるということです。

 この時点ですでに普通の作品じゃないことは明らかなんですが、ぶっちゃけ、図形楽譜を使った作品はだいたいどれもこんなもんです。ぱっと見ではどういう音楽なのか分からない。先達者の録音音源とか聴いてもみんな違う音を弾いてるから全然参考にならない。そもそもなんで普通に五線紙で書いてくれないんだ!(世間のピアニスト達の心の叫び)

 ですが、《コロナ》が他の図形楽譜よりもひときわ異彩を放つ作品となった要因は、実は楽譜の見た目の他にもあるんです。

 この作品の、大きなポイントはふたつ。

 まずひとつめ。
 この作品には、『ピアニスト』のための、という題名が付けられていますね。『ピアノ』のための、ではなく、『ピアノソロ(独奏)』のための、でもありません。
 この作品は、ピアニストのための作品ですから、必ずしもピアニスト「一人」で演奏する必要はないということです。

 複数人のピアニストで一台のピアノを取り囲む、この作品の特徴がよく分かる演奏動画を見つけました。ぜひご覧ください。
(参考動画:Sonus Ipsum様のYouTubeチャンネルより)

 そして、この作品のもうひとつのポイントは、演奏する楽器は「鍵盤楽器」であれば何でも使って良い、という点です。

 グランドピアノだけで演奏しなくてもいいんです。オルガンでも良し、チェレスタでも良し、とにかく「鍵盤楽器」と名の付くものであれば何でも良し。
 もしかしたら、鍵盤ハーモニカでも演奏できるのでしょうか……!?
(”MONICA MUSIC FACTORY”は鍵盤ハーモニカの関連情報をお届けするメディアコンテンツです。なぜ最初のnote記事が《コロナ》レポートなのでしょうか。私にも分かりません)

 というのも、もともとこの作品はマルチレコーディング(多重録音)という、複数の演奏を重ねて演奏する方法を想定した上で作曲されていると言われています。
 実際、流通しているCDを比較してみても、複数回に渡って録音したものを編集、組み合わせた音源が収録されている場合が多いです。

 2020年の年末では、年越しイベントとしてYouTubeのライブ配信で実演する演奏家の方もいらっしゃいました(私もリアルタイムで拝聴しました)。
 その方はあらかじめ撮影したものを画面に複数映して、リアルタイムで画面を切り替えながらキーボードシンセサイザを演奏していました。ライブ配信のシステムを生かした演奏方法で、私もひとつ新しい学びを得た「コロナ年越し」でした。


《ピアニストのためのコロナ》とは? 〜要点まとめ〜

 ……と、いくつか実演例を挙げさせていただきましたが、要するに、

・5枚のシートを自由に組み合わせて、
・好きな人数で、
・好きな楽器を使って、
・好きな音を演奏する。

 これが、武満徹の《コロナ》です。
 これだけ作品の特徴を並べてみても、いかに《コロナ》がヴァリエーション豊富な演奏の多い、特殊な作品であるかが非常によくお分かりいただけるのではないでしょうか。
 この作品のことを知れば知るほど、新しい発見に溢れてくるので、私もついついコロナに夢中になってしまいます(良い意味で)。


コロナを聴くならこれ! おすすめのレコーディング音源


 前編のレポートはこの辺りで終わろうと思いますので、最後に、私が個人的に聴いてもらいたい《ピアニストのためのコロナ》の音源をふたつ紹介しようと思います。

ロジャー=ウッドワード版

 武満がみずから「ロンドン版」と銘打った、《コロナ》の中でも特に有名なレコーディング音源です。
 演奏者の「色」が濃厚に現れる場合が多いこの作品の、本来の世界観を知るには、やっぱりこの演奏を一度聴いていただくのが良いかと思われます。

ジム=オルーク「東京リアリゼーション」版

 こちらは反対に、演奏者の特性が色濃く表れている音源。
 オルーク氏はアメリカ合衆国のミュージシャンで、前衛音楽(アヴァンギャルド)とポピュラー音楽の双方のシーンに関わってきた、マルチ奏者として知られている方です。
 2006年に、オルーク氏が武満の没後10周年の特別企画としてセルフプロデュースし、レコーディングが行われたのがこちらのCD。
 ロックバンドをいくつも掛け持ちする異色のプレイヤーならではの、他の音源では聴けないようなサウンドが楽しめます。演奏時間が50分とかなり長いですが、綿密に構成が練られての収録ですので、きっと最後まで飽きずに聴いていただけると思います。
 また、ジャケットに掲載されているオルーク氏の「図形楽譜」や武満についての見解も、非常に要点が分かりやすくまとめられていて、なおかつ読んでいて面白いです。超・おすすめです。



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 最後まで「ピアニストのためのコロナ」レポート<前編>を読んでくださり、ありがとうございました!
 後編では、この作品を手掛けた武満の、当時の彼にとっての「コロナ」とは何だったのかを深堀りしていきます。
 もし興味がありましたら、「ピアニストのためのコロナ」レポート<後編>も是非お楽しみください。

 それでは、またお会いしましょう! ぐっばいニカ〜!🎹

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