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エッセイ

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#旅行記

下北沢 / Shimo-kitazawa

下北沢は今まで訪れたどんな街(町)より、様々な場所の色んな要素が集積してできた街のように思われた。 神戸の北野やトアウェストにありそうな、80年台に建てられた低層のデザイナーズビル。よれよれのポロシャツやユニフォームを扱う古着屋が並ぶ、アメ村のような雰囲気。ちょっと代官山を想起させるような細い道の起伏とうねり…。様々な既視感がノスタルジーを誘い、パッチワーク的雰囲気が街の雑多な雰囲気を作り上げている。 高架下は神田と同じようにきれいに改装されていたが、中に入っているテナン

旅日記: 移りゆく微細な色彩と、ベネチア派絵画

たえず移りゆく光と影のゆらめきの中で、ベネチア派絵画は生れた。そんな風に記していたのは塩野七生だった。 2泊3日の滞在中、宝石箱のようなベネチアの街中を忙しく歩き回った。 船上から眺める大運河沿いの街並み あちこちに架かる大小の橋 無数に入り組んだ路地 どの通りや広場に行きあたっても、息を飲む美しさであるが、同時にわずか5平米ほどの小さな島の中には、多くの文化財がひしめいている。 朝早くからバポレット(水上バス)に乗り込み、ジャム入りクロワッサンをほおばりながら、ゆっ

旅のはじまり

いくつもの昼と夜との境を横断していく。 刻々と変わりゆく世界の中を、船は進んでいく。 今回の旅はそんな風に感じながらはじまった。 機内食のフォーク類からプラスチックが一掃されていた。メインの皿など、機能的に必要なものには残されていたが、フォーク類は木製、それらをセットしている袋は紙製になっていた。朝食はマチのある紙袋の中に、紙のランチボックスに入ったホットサンドやフルーツ(こちらはプラ容器)などがセットされており、何だかピクニックのようでかわいらしい。経費節減か、食事の味は

ミラノの市

 土曜の朝、ミラノ市中にたった市で、野菜を買うために並んでいた。  2020年の暮れに京都からパリへ戻り、今年の初めに家族でミラノへ越したばかりの友人のティナは、週に二回立つ市の中に既にお気に入りのスタンドを見つけていた。新鮮ないい野菜が揃うその売り場は、当然ティナ意外もひいきにしている人たちがいるわけで、常時二十人ほどの人が列をなして順番を待っている。  混んでいてもなんのその、店員たちは自分たちのペースで働く。手慣れているし、手際が悪いわけではない。馴染みの顔が現れれば